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14 ゲームが上手い人




 唖然として。教室は静まり返っていた。

 呆然として。ヘッドギアを外したメアは動かなくなっていた。



「か、勝った……那己ちゃんが勝った……」



 冷たい空気の流れるその場で、曜のつぶやいた一言が鮮明に響き、この場にいる全員はようやく事実を飲み込んだ。



「す、すげえええ!!」

「なにいまのぉ!!?」

「メア様がボッコボコにされたぞー!!?」

「やっばぁ!!!よくわかんないけどすっごー!!!」



 帰還した"英雄"を讃えるように、生徒たちが那己に群がり、囃し立てる。すごい、すごいと声を上げる。



(わっ……!?なっ、なにっ!?あっ……)



「めっちゃゲーム上手いじゃん!!」

「てかよくみたら同クラの比窟さんじゃん!!」

「メアさんに勝つってすごいよ!!」



(はっ、あっ、あっーーー!?)



「あっ」

「比窟さんが死んだ!?」



 紹介しよう。こいつは比窟 那己。これだけの大人数に面と向かって、リアルで称賛されるのは初めてのことで、嬉しさと恥ずかしさで爆死した。



◆◆



 那己の友人である曜がよしよしと、背中をさすって介助して、死にかけのゾンビが立ち上がる。

 その様子を遠くからぼーっと見ていたメアが無言で近づいてくる。


 すると周りの生徒が笑いながら、今の試合の感想を言う。



「負けてて草」

「イキってたら死んでてめっちゃ笑ったわ!!」

「いやあ、面白い戦いだった」

「二人ともナイスファイト!!」



 あれだけドヤっていた有名人が謎の無名生徒にやられたことで、ある種のエンタメとして満足していた。

 奇しくも、見世物にされ返されたというわけだ。



「えと、その対戦、ありがとう、ございました……それで」



 途切れ途切れの言葉を紡ぎ、那己は自分の意思を示す。



「約束通り、もう、英雄マンの名前を名乗るのはやめ、やめてください……」



 メアは黙る。黙ること3秒。そして降参と言わんばかりに両手を上げる。

 そして深く、ゆっくりと、頭を下げて。茶色い髪のつむじをこちらにみせる。



「嘘ついてごめんなさい」



 その謝罪は、実に長かった。こちらが何かを話すまではずっと頭を下げるつもりなのがわかった。



「わ、わかれば、いい、です」



 頭を上げる。申し訳なさと、悔しさの混じったなんとも言えない表情で。口元は何かを言いたくてうずうずするように震えていた。


 だが、那己にそんなことは関係ない。限界だ。緊張が限界に達している。

 目的も果たしたし、早く人目につかないところへと消え失せたいと思っていた。



「いっ……いこう……曜さん」


「うん、せやな」



 そう言って、この場を立ち去る。



 そんな後ろ髪を引っ張るように「待って!!」と声を上げる。やはりメアにも言いたいことは山ほどあった。

 那己は振り返らずに、「ひっ!?」と硬直して立ち止まる。



「君は……何者なの?」



 何者?そう聞かれたら、どう返そうか迷う。

 本物の「英雄マン」なんてもちろん言う気はない。「英雄マンのファン」というと、それは事実ではないし、いちいちその体で話すとボロが出そうだ。


 彼女は仮にもプロを目指しているような人。目をつけられないよう、もう余計絡まれないように自分を言い表すのが適切で。


 じゃあ、なんと表すか。


 少し考えて。



「比窟 那己。た、ただの、ひとりぼっちだった、ゲーマーです」



 そうとしか言えなかった。




◆◆



 赤い夕日に照らされて、学校のフェンス越しに映る影二つ。

 那己と曜。帰路を共にする下校時刻。



「いやあ、那己ちゃん。すごいなぁ。ごっつ強いやん。てっきり初心者だと思ってた」


「ある程度は……」


「それに引き換えあたしは……」



 曜は肩を落とす。悲しげな声でこう言った。



「なんにもできひんかった。役立たずでごめんな」



 なにを謝ることがあろうか。那己は首を横に振りながら、しどろもどろになる。「そ、そんなことないですよ……!!」と。



「そんなこと、ないです。本当に。曜さんがいなかったらきっと……この件は諦めてました」



 実際、最初に直で遭遇した時、言葉が出ずに終わっていた。

 そして後から曜がきて、やっと平静を取り戻した。いなかったら……学校を早退してただろう。



「曜さん、わたし、この件で一つ分かったことがあります」


「わかったこと?」


「誰かが隣にいる。それだけで、いつもの自分より一歩進めるんだな……って。その、ありがとうございます」


「那己ちゃん……」



 揺れる。太陽は沈む。照らされた情景が、黄金のように映る。

 下げられた頭に、曜は声を振るわせて応える。



「なあ、那己ちゃん」



 那己はひょっこりと顔を上げる。



「あたし、もっと強くなる。今日みたいなことに、ならんように」


「……」



 その真摯な眼差しに当てられて、なんだか小っ恥ずかしくなった。それに今日みたいな事は今後滅多に起きないだろう。

 またしても返事に困る那己。だが、今回自分を信じてついてきてくれた事、自分を友達だと言ってくれた事。その気持ちが1番嬉しかった。

 だからこう言う。



「じゃ、じゃあ、今からゲーセン……行き、ます??」



 その言葉に曜は元気よく返事する。



「行こ!!」




◆◆



 それからというもの。日常に僅かな変化があったとすれば、「比窟 那己=ゲームが上手い」という評が学校中に伝わったということか。

 影が薄くて、陰が深い、不登校のダメな奴という認識から少し改善された。


 鐘望メアの方はと言うと?相変わらず人気者の有名人だ。いつもの調子で動画を撮り、再生数も上々。学校で彼女と友達になりたがる人は沢山いる。

 だが、比窟 那己に負けた件について、無限に擦られて、笑い話にされる。

 学校の高嶺の花みたいなポジションだったのが、割と舐められがちの芸人枠と化した。


 ……結局。英雄マンという名前はいちゲームのいちプレイヤーにすぎない。

 それのニセモノがどうとか、ホンモノがどうとかは当事者である本人達だけで解決に至ったわけだ。


 あとは、一部のクラスメイトが「英雄マン」をフォローしたぐらいか。それにしたって、その正体が比窟 那己だと分かっている人は居ないだろう。





区切りがいいので。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

よろしければ、ブックマーク、感想、評価、等々よろしくお願いします。


やる気が出ます。

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