13 比窟那己vs鐘望メア
(ど、どどど、どうしよう!?緊張してプレイが上手くいかない……!?)
比窟 那己、その心象。
(だって、わたし普段こんな人前でゲームやんないし……対面の相手見えてると、すっごい怖いっ……!!)
「英雄マン」というプレイヤーはインターネットでしか生きられない。
いま、人前に晒されているのは「比窟 那己」という地味で駄目な等身大の人間だ。
リアルを見られている。その緊張感が、ゲームプレイに支障をきたしていた。
何度も、何度も攻撃のチャンスを逃す。だが今のところ負ける予兆はなかった。
(よ、よかった。メアさんの攻撃、見てから余裕で反応できるから……大丈夫、まだ負けない)
鐘望メアの攻撃は大したことはなかった。手数も少なく、剣線が見え易い。
那己の鍛え上げたVR脳は、その反射神経だけでオートで呼応するぐらいに洗礼されている。
だからこその、戦闘の停滞。
痺れを切らしたメアの攻撃はどんどんと単調になっていき、こちらの対応も楽になっていく。
まだ見られている。
けどいつまでもこうしているわけにもいかない。
怒りに身を任せたような大振りが来た。冷静に受け流した。
その拍子で納刀して、後ろ飛びで距離を置く。
時間が必要だ。緊張をほぐす時間が。
ふうと、ため息をつく。
◆◆
ついに対面から逃げるように動いた相手へ怒りを隠せないメアだった。
「なんなの!?きっしょいんだけど!!その戦い方!!」
貶しているわけではない。純粋な感想だ。戦っていて気持ちが悪い。ひたすらにそう思える。
なによしようにも、カウンター、ガード、ジャストパリィ、遅延、遅延、遅延。
そんなメアに対して、那己は一つ、深く、深呼吸をして、こう答えた。
「その、緊張してたんです……」
「は?」
「ごっ。ごめんなさい。人目につくのは苦手で」
「なんで」
人目につくのが好きな人気者にとっては共感できない。なんでと言われてもそういうもんだとしか言いようがない。2人は水と油。
……那己は、納刀した鞘に再び手を添える。
「その、ちょっとほぐれてきました」
ぐー、ぱー、と手をじっとみながら開閉している。呼吸が整い、足の震えも無くなっている。
「じゃあなに?もうその守ってばっかりのはやめるって?」
「はい、あなたを倒します」
釘を刺すような一言。背筋がぞわりと伸びる。
風の流れが変わった気がする。強烈な殺意にも似たなにかが噴き出たような。
「じゃあやってみせてよ」
「はい」
「────っ!?」
肉薄。
間一髪で弾き返せたのは、きっと偶然である。
那己の攻撃は、気がついた時には終わっている。
重く、そして鋭い。同じ武器を使っているのに、その脅威は自分のそれとはまるで違うと理解した。
理解した頃には地面に転がっていた。
吹き飛ばされた。叩き斬られた。追撃が来る。まずい。
「ふっ!!」
立ち上がって緊急回避を試みる。体制を立て直す。が、肝心な那己の姿が見当たらない。
どこにいる?いや。背後か?
「あぶっ!!」
「……」
背後だ。何とか対応できた。
そう、思いたかった。
刃と刃は交差することなく、那己の剣の筋はすっ、と首元に差し込まれる。こちらの攻撃は……交わされている。
交わされているどころか。本来胴体があるはずの部分に何も見当たらない。メアは無を斬っていた。
那己は、自ら空中に飛んで、逆さ吊りの体勢から剣を放っていたのだ。
(なに、それ……??)
曲芸だ。
すぱっと。首を持ってかれそうになる。
ギリギリで避けたはいいが、体勢がよろける。
那己が刃を振るったその慣性を生かして、コマのように横回転しながら第二撃の蹴りを放つとメアは吹き飛ばされた。
「うっ!!」
滑って、砂煙を撒き散らして、やがて止まる。
「や、やるじゃん??意外と??」
メアはそう言うが、顔が引き攣っていてもう笑えない。
刀をくるくると回しながら近づく那己は、さながら予告ホームランを打つバッターのような自信と気迫を覚えるぐらいだった。
負ける。
メアの脳裏に一瞬よぎったそれが、焦りの感情を増幅させる。
「はあっ!!」
近寄られるのを嫌がり、飛ぶ斬撃を放つ。
その安易な選択がミスだと気がついたのは、もう放った後のことだった。
那己はそれを最低限の動作でかわして、逆にこちら側から飛ぶ斬撃を返して叩き込む。メアはなすすべなく宙へと巻き上げられ、自由を失う。
そして。
(────しまった!!着地が!!)
地面に到達する前に、下から掬い上げるようにスイングされる鉄刃によって、息の根は止まる。
気がついたら、鐘望メアは負けていた。




