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11 抜刀



────『ヴィクトリアス』

それは四人一組で行うVR対戦ゲーム。このゲームにはミニゲーム要素として「タイマンモード」というのが存在する。



◆◆



「ルールはタイマンモード。よーいどんの一対一で一本勝負。その方が実力が分かりやすくていいでしょ?」



 メアが掲示したルールは、完全な一対一のタイマン勝負。サバイバル要素と協力要素の強い通常モードのそれとは全くの別ゲーム。

 純粋な腕前勝負。やるかやられるか、それだけ。



「そいじゃ、あたしらが、勝ったら、ニセモノ『英雄マン』だったってことを認めてもらうで」


「うん!!……けどそっちが負けたら。私の言うことなんでも一つ、聞いてもらうけどいい?」


「……」


「まさか?自分は何もリスクがないなんて虫がいいよねえ?私の名前にケチつけてきたんだから、それぐらいのペナルティは許容してもらわないと」



 威勢よく振る舞っていた曜はその実、小心者。那己に向かってあからさまに「どうしよう」といった表情を見せてくる。

 那己は、目を瞑って、頷く。



「……わかった。どうしようと、勝たなあかんからな、こちとら」


「うん、うん。そうだよねー。じゃ、どっちから先やるー?」


「ほな、あたしから」



 曜から前に出た。

 そういえば、このヤンキーもどきは那己のことを初心者だと思い込んでいる節がある。

 だからだろう。「あたしがなんとかせなあかん!!」と責任を感じている。



「じゃ……捻り潰すね!!」



◆◆

 



 那己や、他の学校生徒たちが観戦モードで見守る中、草原の戦場を舞台に、2人のプレイヤーが入場する。


 1人はブロンドの髪に青い目の、ハーフ顔の少女、鐘望メア。

 対するは、派手なピンク髪で背の高い、ポニーテールの女、朱音 曜。


 そしてその携える武器は。



「へー、双剣ねー」


「そういうあんたは……"太刀"か」



ーーーーー

【双剣】

説明:取り回しがいい近接武器。技系のスキルと自身の運動能力を向上させるバフ能力を組み合わせて、多彩な動きでコンボ攻撃ができる。

ーーーーー

【太刀】

説明:技の出がとにかく速く、射程も長い近接武器。遠くまで届く飛ぶ音の斬撃、相手を一撃で仕留める瞬間火力。長いリーチを使ったカウンタースキルは多対一にも有効。

ーーーーー



 両者近接武器。どちらも一対一の対人戦において強力な力を発揮する武器と言える。

 どっちが勝つか、観ている生徒たちは、メアの活躍に期待を寄せる。そんな中……苦悶の表情を浮かべる者が1人。



(これは……まずいよ、曜さん……!!)



 那己は気がついた。このマッチアップ……双剣を握った曜が不利であることに。



◆◆




 カウントが進む。3秒間。


 曜が集中して、瞼を閉じる。


 剣を握って2秒間。


 メアは嗤う。太刀を携えて。


 そして1秒。




「────っ!!」



 曜は右足から踏み込んで、急接近する。【双剣】と【太刀】は後者の方がリーチが長い。

 故に速攻で懐に潜り込み、有無を言わせぬコンボを叩き込む必要があった。

 二歩、そして三歩目には【双剣】が持つ能力の一つ、"バフ"が発動し、その移動を加速させる。



「はぁっ!!」



 胸に飛び込む。剣を振るう。右手を。上から下へとスナップした。

 捉えたか。いや、届かない。



「っぁ!!?」



 【太刀】の抜刀速度は、【双剣】に勝る。曜のキルゾーンが迫るよりも先に、こちら側から振り払う。

 腹を思い切り叩きつけ、曜はそのまま、吹き飛ばされてしまった。



「ぐぅっ!!」



(体勢を整えんと……!!)



 空中で腰を捻り、着地しようとする……だが、その着地を許さない飛ぶ斬撃。

 お手玉のように弾き飛ばされ、地表につくことなく、再度空中に打ち上げられる。



(こりゃあ……あかん!!)



 制動する。甘えた動きをしていては掬われる。相手の動きと、地面をよく見て、次の着地場所を定める。今度は狩られない。

 曜はそのままバク転し、距離を取る。



「うーん、動きのキレはいいけど、ゲームが上手いってわけじゃないんだねー」


「ああ?うっさいわ……」



 メアの煽りが、曜の神経を逆撫でする。



(はよ、距離詰めんと……せやけど、近づけへん……!!)



「ほーーら、そっちがこないなら……えいっ!!」



 簡単に出せる、飛ぶ斬撃。これが【太刀】の強いところ。遠くに退避しようと、追撃、追撃、休みをいれずに追撃し続けて追い詰める。実にいやらしい手段だ。



「あぁ!!畜生ッ!!うざいっちゅーねん!!」



 パキン、と。飛ぶ斬撃を双剣でタイミングよく弾いて無効化する。



「へぇ、やっるぅー。パリィうまいじゃん」


「そりゃ、ありがと、さんっ!!」



 迎撃をいなし、じりじりと距離を詰める。もう少し、もう少し。

 相手がこちらの攻撃の有効範囲に入るまで近づく必要がある。



(飛ぶ斬撃は、斬りつけた後に隙ができる……狙い目は、そこや)



 次の攻撃に備えて、双剣を構え直す、が。



「そろそろ終わらせちゃうよ」


「────なっ!?」



 メアは太刀を納刀すると、勢いよくこちらに向かって駆け出す。

 あまりの突然さに対応に遅れが生じる。その遅れ、時間にして僅か1秒にも満たない。だが、戦闘においてそれだけあれば十分。



「抜刀ッ!!!」


「うあっ!?」



 あるいはもう一度パリィを合わせればまだチャンスはあっただろうか。咄嗟の判断で後ろに避けようとしたのは失敗だ。

 抜かれた一刀は、曜の横腹へとしっかり届き、斬り伏せられる。


 太刀の強烈な瞬間火力を前に削られた体力は一気に0へと到達し……ゲームオーバーだ。



◆◆




「……すまん、負けてもうた」



 ゲームを終えた曜はやるせないような顔で俯く。それと反対にメアは上機嫌な様子でこう言った。



「あれだけの啖呵を切ったのに期待外れだったねー?ねー?みんなー?」



 同調する。笑い者にされる。曜は何も言い返すことはできない。どんな否定をしようとも、コテンパンにやられた事実は覆らない。だがそれはどうでもいい。馬鹿にされてもどうでもいい。何より悔しいのは、那己の役に立てなかったことだった。

 ごめん。ごめん。何度も頭を下げていた。



「はーい、それじゃあ次、そっちのー地味めな子ー」


「……」



 ご指名を受けた。前に出る。



「那己ちゃん……!?やるんか!?」



 一つ頷く。未だに初心者だと勘違いしている曜は不安で押し潰されそうになっていた、が。立ち向かうその那己の表情を見て改る。



「本気なんやな」


「うん」



 英雄の名を奪ったその者に、自分の友人をいいように笑い物にしたソイツに、鉄槌を下すときが来た。

 

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