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10 二人のひとりぼっち




「メア様!!」

「メアちゃん!!俺ら入部希望!!」

「お願いします!!」


「はいはーい。ちょっと待って、順番ねー」



 彼女の名前は鐘望メア。登録者42万人の超有名人にして、学園のアイドル。

 今朝の部活動紹介のおかげで、この学校に在学していることが知れ渡り、我こそは部員となる者!!と言わんばかりに生徒たちが部室へとなだれ込む。


 それに対してメアは笑顔で対応する……その裏の心象は、うんざりしている。



(はあ……人気者って辛いわー。確かにひとは集まるけど)



 ────集まるけど、雑魚ばかり。


 鐘望メアが求めるのは、ゲームが上手い奴。腕の立つ奴。情熱を持っている奴。

 目の前に群がる者どもは、所詮、自分目当てのイナゴ共としか見ていない。



「じゃあまず、順番に並んでー。私とゲームをやって、勝ったら入部していいよー。記念撮影もしたげるー」


「やったぜ!!」

「うおお、ならべならべ!!」

「きゃーーっ、メア様!!」

「メアちゃんとゲームできるだけで最高だー!!」



 握手会かよ、と思うほどの長蛇の列。これを今から全員相手するのかと思うと、怠くなってくる。



◆◆



「うわあ、近くで見たらほんま美人さんやなぁ」


「……うん」


(本当に美人だから何も言えない……羨ましい)



 長蛇の列の端っこに。教室を覗き込む、女子2人。那己と曜は道場破りにやってきた。

 近くで見たメアは可愛く、これが人気者かと言わしめるオーラがある。



「な、なあ、ほんまにやるんか?喧嘩売るんか?」


「う、売る」


「怖ない!?他の連中に報復されても、あたし、あんたのこと守れんで!?」


「守れなくても、時間稼ぎをしてくれれば……。わたしはその間に逃げます……!!」


「おいナチュラルに生贄にしとるやないか!?勘弁してくれや先輩」


「そ、そこはヤンキーパワーでなんとかー……」


「あたし、ヤンキーちゃうねん!!喧嘩の腕っ節にゃ自信ないねん!!」


「えぇ……うそぉ……」



 驚愕のカミングアウト。



「でも、パンチングマシン900点超えだったじゃないですか……!!」


「あれは測定器やからな!?コツがあんねん!!人なんて普通殴れへんよ……怖いわ……」


「じゃあその見た目は……!?見てくれだけってことですか……!?」


「せや、みてくれだけや!!」


「えぇぇえぇぇ……」


「そんなに驚かんといてくれ」



 曜は語る。



「あたし、ちーちゃい頃はいじめられっ子やってん……せやから中学んとき『髪染めな!!まずはガワから舐められないようにせなあかん!!』っちゅーことで……まあ、そのせいで学内やと浮いとったけどな」


「そうだったんだ……」



 実は、地元の仲間は他校のゲーセン仲間しかいなかったりする曜である。ある意味でずっと、ひとりぼっち。

 那己は急に親近感が湧いた。曜に対して心を少し許せる気がした。

 が、そのかわりあまり頼れる人ではなかったことが発覚する。


 2人はすっかり、人気者の覇気を目の前に怖気付いた。

 ぼっち陰キャとぼっち転校生。ダブルひとりぼっちが一緒にきたところで42万人パワーを持つスーパーガールに敵うはずもない。



 ────けど、いまの那己には譲れないものがある。



「行こう。あいつは……英雄マンじゃないから。わた、わたしは、他人の記録をあたかも自分のものみたいにする人を……許したくない」



 その記録が、自分のものだからなおさら。



「……わかった、わかったで那己ちゃん。あたしも、そーゆー奴は捨て置けん」



 勇気を出して、2人は門を叩く。ゲーム部の門を。

 



◆◆






「頼もう!!!」


「たっ、たのもー……」



 時刻は放課後、ここは教室。人に溢れる、ゲーム部の部室。

 あれから、いったい何人相手しただろう。やっぱりというか、当然と言うか。この学校の生徒で『ヴィクトリアス』が強い奴はいない。


 どいつもこいつも。雑魚、雑魚、雑魚。たまに「ゲーマーです」と言ってる奴も、所詮はド素人のカスだった。

 それでも笑顔を崩さずにいる自分を褒めてやりたい。


 次で最後にして打ち切ろうか。そう思ったあたりで現れたのが、二人の女子生徒。



「はーい、次は君たちね」



 一人はピンク色の髪の毛でどう見てもやばい奴だった。

 この学校は髪染めを推奨しない。つまり、堂々と校則破りをしているということだ。


 対するもう一人はバチバチに傷んだ黒い髪で猫背の女の子だ。見るからに陰キャ。髪の手入れぐらいしたらどうなのかと、見てるだけで虫唾が走る。


 さしずめこのピンクの女に無理やり付き添いで連れてこられた奴なんだろう。



「初めましてだよね、入部希望?」



 これは提携文。だいたい「はいそうです!!」と期待いっぱいな返事をされて、ゲームをやってみたらなんてことない。決まってるオチだろう。



「いんや?別にあたしらゲーム部に入る気ないで?」


 

 うわでた。こういうのが1番迷惑なのだ、とメアは思う。

 ただの記念目当て。思い出作り。せめて部活に入るという体を保つことすらできないのか、と呆れる。



「ごめーん。入部希望の人以外受け付けてないからさ。また今度にしてくれないかなー?」



 両手を合わせて、断った。

 だが、目の前の二人は知らん顔をしていた。鼻につく態度だ。



「あのさー……ちょっと、さ、困るのね?後ろに待ってる人もいるしー」



 メアは……目で合図を送る。生徒たちの中に紛れ込む、ボディガードに。この二人が何かしようものなら、即刻つまみ出すように、と。



「どこみてはるん?」


「っ!?」



 それを釘刺すように、ピンクの女が、ドスの効いた声を上げる。

 やがて、メアに向かって言う。



「あんた『英雄マン』ってぇー、知ってるか?」



 いや、待て。その単語を出す、ということは、ある程度『ヴィクトリアス』に精通していると言うことだ。

 この2人、なにかあるぞ。



「あ、私のこと知ってるのー?嬉しい」



 メアはニッコリとそう返した。するとピンク髪は血相変えて舌打ちを打つ。



「あ?お前のことは知らんわ。誰や?『英雄マン』の名前を騙っとんとちゃうぞボケ」


「へ?」


「お前、本当は雑魚やろ、なあ?」


「はぁ」



 雑魚、ですって?

 その言葉が、鐘望メアの逆鱗に触れた。



「私が、雑魚?へえ?アツいこといってくれるじゃん」



 ピリピリとした空気感が場を支配する。異変に気がついた周りの生徒がざわつきはじめる。



「なあ、なんか、やばいんじゃないの?」

「なんかメアさん怒ってない?」

「大丈夫かなぁ……」

「おい、あのピンクの奴誰か止めようぜ」



 ボディガードの人たちも、これには身を乗り出す。しかし、そんな空気を感じ取ったメアが手を叩く。ぱしん、ぱしんと、2回。



「凄く威勢がいい人がきました!!こういうの待ってたんだ!!」



 周りの気をひいてから。



「なんでも私の実力がニセモノだってこの人たちは言ってるよー!!」


 

 調子とペースを我が物にする。

 鐘望メアは自分が人気者であることを知っている。だからこそ、それにケチをつけた奴にヘイトを向ければ、民衆が叩きに回ることも知っている。


 野次を飛ばす。「そんなわけないだろ」「舐めてんじゃねえぞ!!」「メアさんは強いんだ!!」と。

 そうして焚きつけたら、一気に盛り上げる。



「じゃあやってみせてよねー?そんなに腕に自信があるならさ『英雄マン』の私を倒せるかな!!」



 鐘望メアと、二人のひとりぼっちの勝負が幕を開ける。


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