種の終わり
死んでゆく。
妖精たちが死んでゆく。
土星の住民である、土星の妖精たちの間で、謎の死が相次いでいた。
土星に暮らす妖精たちが、ある日突然、次々と死んでしまうようになった。妖精たちの亡骸は輝きを失い、琥珀色の翼は消失し、土星の深淵へ、黄褐色の大気の底へ、吸い込まれるように落ちて行った。
原因がわからないまま、日に日に、死んでいく妖精の数も増え、生きている妖精は残り僅かとなった。
妖精の長は生き残っている者たちを集めて彼らに告げた。
「これは終わりの知らせだ。ぼくたちの種族の終わりが来たんだ」
「どうして?どうして終わっちゃうの?」
妖精の子どもが長に訊ねた。
「わからない」と一言。
「ぼく、まだ何もやってない。いつか、天空の楽園に行って海を泳いだり、氷の山をつるつる滑って遊んだりしたいのに、まだ何もやったことないのに、どうして?」
妖精の子どもは涙を流した。
長は涙する子どもを優しく抱き締め、頬を伝う涙をそっと拭った。
「なぜ終わりの時が今なのかは、ぼくにもわからない。でも、すべてのものが永遠にあるわけじゃないんだよ。いつかは終わりが来るんだ」
「すべて?」
「そう。すべてね」
「それって、生き物ぜんぶに終わりがあるってこと?」
「そうだよ。生き物だけじゃない。星も、光も、闇も、時も、みんないつかは終わりを迎えるんだ」
長はできるだけ子どもの妖精を不安にさせないように、静かに話した。
「でも、ぼくらにはまだやらなくちゃいけないことがひつとだけある」
「やらなくちゃいけないこと?」
長はうんと子どもに頷くと、生き残っている妖精たち全員に呼びかけた。
「みんな、落ち着いて聞いてほしい。ぼくたちは間もなく、ひとりも残らずに消え去るだろう。それが世界が決めたことならば従うしかない。抗おうとしても無駄だろう。ぼくはこれを受け入れようと思う。だが、完全に消え去る前にやるべきことがある。ぼくは残された時間をそのやるべきことのために使おうと思う」
「やるべきこととは?」ひとりが言った。
長はそれに答えず、空を見上げる。
妖精たちの遥か頭上、土星の環の先に浮かぶ星を、彼は何も語らずに見つめた。
彼らのかつての楽園。
今は、どこから来たのか、自分たちとは違う生き物が住んでいる星。
その生き物たちが楽園に付けた名前はタイタン。
まだ天を昇る力は残されている。
「行こう。飛べるかい?」
長は子どもに優しく微笑みかける。
「うん」
妖精の子どもは、背中の小さな琥珀色の羽を広げ、ゆっくりと飛び始めた。長がそれに続く。他の妖精たちも羽を広げ、全員が天空に飛び上がった。
妖精たちは生まれ故郷に別れを告げ、環を越えて楽園を目指した。
さよなら故郷
さらば母なる星よ
星に眠る友よ 安らかに眠れ
こうして土星には誰もいなくなった。




