第9話 バズ再び
『こんの……ホス狂堕天使がーーーッ!!』
カツラギのノートパソコンの中で叫ぶ自分の姿を、私は消え去りたいような気分で見た。
「ほ、本当にこの動画が十万回も再生されたっちゅうんか……?あの青年が来店してから今までの、ほんの数時間で?」
閉店時間に含みを持った微笑みを浮かべながら近づき、私に画面を見せてきた彼は、ええ、XというSNSでです、と頷いた。
「天使のエスプレッソ……正式なメニューに加えない訳にはいかなくなりましたね。きっと明日から、注文が殺到しますよ」
「冗談じゃろ......大道芸やってんじゃねーぞうちの店は……」
うふふっ、嬉しいなぁ、と頬を緩ませているお気楽天使に向けて、私は嫌味を言う。
「なんじゃ、そんなに目立てるのが嬉しいのか?」
「それもあるけど……今よりもっとラクちゃんの役に立てるようになるのが、一番嬉しい!」
「む……そ、そうか……」
照れている私の顔を見て、ははは、微笑ましい光景ですね、などとほざくカツラギを追い出し、カプルスと店じまいの諸々の作業を終わらせた後、一夜漬けの特訓を始める。
「よいか、カプルス……エスプレッソの抽出時間は25~30秒、圧力はおよそ9気圧じゃ。それが秘訣なのじゃ」
カプルスは顔をしかめて考え込んだ後、困ったように首をかしげた。
「全然わかんない……9気圧ってどれくらい?」
「ぶっちゃけ私もよく分かっとらん。機械任せじゃったからのそこは。……ま、飲んでみりゃ味で分かるわい。とりあえず作ってみて、細かく調整していくぞい」
うんっ、と元気よく頷いたカプルスは、一日働いた疲れを少しも見せず、こちらに向かって手を伸ばしてきた。それに応えてグラインダーに予備のポルタフィルターをセットしながら、私は厳しい表情を作って言う。
「お客様にお出しする以上……常に最高の味を出せるようになってもらうぞ。それまでは眠れないと思え」
わかった、と頷いたカプルスの瞳には、情熱の火が燃えている。
まだ店を継いで間もない頃......自分なりのコーヒーを求めて、毎日深夜まで研究に明け暮れていたことを思い出す。コーヒーに対する敬意を失ったつもりはないが……新しいものを生み出そうとする情熱を、私はいつの間にか忘れてしまっていたのかもしれない……。
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