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魔人の喫茶店〜コーヒー好きの女マスターは、しゃかりき天使のせいでスローライフできない〜  作者: 黒倉ばくら


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第7話 ホス狂堕天使、楽しむ

「......まずい、な」

思い付きで作ったナポリタンは、水っぽく、そのくせ麵はパサパサで、とても店で出せるようなものではなかった。......とはいえ、腹を満たすには十分だ。今日の夕食はこれでいいだろう。箸で麺を掴み、啜りながら、私は昔のことを思い出す。......ピーマンやマッシュルーム、ベーコンを刻む小気味よい包丁の音、フライパンの上で具材とパスタが合わさり、甘酸っぱい香りとともに、あの食欲をそそるオレンジに色づいていく瞬間......。

「......そう言えば、母は冷蔵庫に麺を作り置きしておったような......。ふむ、食べ終わったらまた麺を茹でて、寝かせておくかの......」

明日の朝のために、二人分のパスタを茹でて水気を切り、粗熱を取った後軽く油を振り、タッパーに移して冷蔵庫へ入れる。

「ぬっふっふ、カプルスのやつ、いきなり朝食にナポリタンを出したら喜ぶじゃろうな」

おいしい!と目を輝かせる彼女の姿が思い浮かび、思わず口元が緩む。

彼女は......ユウキとやらとうまくやれるだろうか。最近は規制も厳しくなったから、結婚詐欺まがいの色恋営業で金を搾取される、というようなことは起こりづらいだろうが......それでも客に対してどのように接するのかは、ホスト個人の裁量によるところがまだ大きいだろう。彼が信頼に値する人間かどうか......カプルスの話を聞いて、見極めなければなるまい。彼女は人を疑うことを知らない。私が守ってやらなければ......。

私はリビングでテレビを見ながら、彼女の帰りを待った。益体もないバラエティーが終わり、動物の心情を勝手に吹き替えた面白映像集が終わり......それでも彼女は帰って来ない。時計を見ると、もう11時を回っていた。彼女が出かけてから、既に三時間近く経つ。

「......遅い」

私はテレビを消し、リビングで彼女を待った。......記憶が正しければ、ホストクラブの初回というのは所属するホスト達との顔見せ程度のことしかしなかったはずだ。これ程時間がかかるものか......?まさか、道中でトラブルに巻き込まれたのでは......。

「しまったな......カプルスに、店の名前だけでも聞いておくべきじゃった......」

不安ばかりがつのる中、じりじりと時間は過ぎ......そしてついに、零時を回った。こうなれば繁華街へ彼女を探しに行くしかない、と覚悟を決めた時、勢いよく玄関の戸が開く音がする。

「たっだいまーっ!」

能天気なその声を聞いた瞬間、安堵と共に怒りがこみ上げてきて、私はリビングの椅子から飛び降り、玄関へ走った。

「こりゃーっ!今まで何しとったんじゃ!!心配かけさせおってからに!!」

「ユウキ君といっぱいおしゃべりしてた!楽しかったー!」

「なに?最初は顔見せすんじゃなかったか?私の知らんうちに、ホストも変わったんかのー......」

「うん!いろんな人たちとおしゃべりしたよ!みんないい人たちだった!......でも、もっとユウキ君とおしゃべりしたいって言ったら、ホンシメイ、っていうのをして、二人きりにしてくれたんだー!ユウキ君も、すっごく喜んでくれたんだよ!ちょっと不思議がってたけど」

......嫌な予感がする。まさかユウキを本指名した後、終業までずっと延長を繰り返していたということか……?

「カプルス......レシートを見せてみろ」

「レシート、って......最後に貰った紙?うん、いいよ!」

彼女がシミューズドレスの懐から蛇のような長さのレシートを取り出した時、私は彼女にもっと細かく注意をしておかなかった自分を呪った。

「うっ。じ、十五万っ......」

「足りないお金は次来た時でいいってー。優しいよね~。住所と電話番号を聞かれたから、お店のを答えておいたよ!」

ショット、焼酎、カクテルにソフトドリンク、枝豆、アイス、フルーツ盛りにからあげ......明細には、ボトルとシャンパン以外のおよそ考えうる全ての商品の名前が記されていた。

「の、飲み過ぎじゃろ......」

「でも、気持ち悪くならなかったよ?ユウキ君にも心配されちゃったけど......わたしってお酒強いのかな?」

強い、などという次元ではない。彼女はうわばみだ。

「ユウキ君ねー、わたしのことすっごくかわいいって言ってくれたよ!髪はサラサラでー、翼は真っ白でー、顔は美人でー、モデル体型でー......ふへへへ、ふへへへっ......」

「完全に営業トークにやられとる......!」

「あっ。またおしっこしたくなってきちゃった。トイレ行ってくるねー!」

色々と言いたいことはあったが、私の横を通り抜けていく彼女の幸せそうな顔を見ていると、小言を言う気も失せてしまった。

「ハァ......全く、ホス狂堕天使めが......」

そう呟くとどっと今日の疲れが出てきて、私は重い体を引きずって床へと向かった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。気軽に感想をいただけると励みになります。


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