第3話 逢いたくない時にあなたはいる…
噂話を聞いてから1ヶ月経った。前世と同じ暦のこの世界では7月に入り、先日学園内では期末試験が終わった。生徒達も、あと少しすれば夏季休暇に入る。
休暇中の予定や、実家に持っていく王都の土産は何がいいかなど、いたるところで話に花を咲かせている。
そんな中、学園の掲示板に1枚の張り紙が貼られた。張り紙にはこう書かれている。
「ハナズオウの花の香りたつ季節、オダマキの花束を持つ者にラベンダーを添えたい者いれば、我ネモフィラをまといてここに待つ」
謎かけのような張り紙を、生徒達は不思議そうに見ながら通り過ぎていく。これを貼ったのは勿論俺だ。こうなった経緯は2週間前にさかのぼる。
友人2人に相談してから2週間程したある日のこと、ジャックに呼び出された。
「緊急。至急俺の執務室に来い。あの件について。」
そう書かれた魔電報が俺に届いたのだ。ジャックがこんなモノをよこす事がなかったのと、アイツの執務室は宮廷にある。
「何か」があったのを察し、近くにいた上司に事情を説明。取り急ぎ業務の引き継ぎを済ませた後、途中馬車を拾い宮廷へ向かった。
魔導列車ガードルラインは、王宮や宮廷のある城壁内には、奇襲やテロ行為防止といった経緯で通行できないようになってる。また、車やバイクのようなコンパクトな乗り物はまだ開発されておらず、宮廷へ向かうにはまだ馬や馬車は必需品になっている。
王都南側のクラウンエリアから1番近い城壁南の門番に身分証明書とジャックからの手紙を見せ、馬車ごと中に入場した。城壁内に入り、宮廷北東口に馬車を停め宮廷内に入る。
宮廷は、東西南北を角にしたロの字型をしている。そして中央にある王宮を囲うように建てられており、いわばそれ自体も王宮を守る城壁となっているのだ。
歩く事10分、3階の北側に位置するジャックの執務室についた。扉をノックすると、中から先に来ていたケイが開けてくれた。
部屋の広さは大体30畳程だろうか。部屋の両サイドの壁には、機密情報が保管されているであろう本棚が配置されており、重厚なデスク奥側の壁には、窓が多く取り付けられ、中に外の光を入れている。
ただ一つ一つの窓は小さく、外部からの侵入防止の為であろうことがうかがえた。
2人を見ると様子がおかしい。ケイがジャックを睨みつけており、ジャックも珍しく申し訳なさそうな顔をしている。俺も遅れてしまったのでその間に何かあったのかと思い、遠慮がちに尋ねた。
「すまない、遅れているうちに何かあったか?」
「いや、俺も来たばっかりだしそうじゃねぇ。ただコイツがな…。」
と、またジャックをひと睨みした後、「あっ」と思い出したかのように声を出した。
「本題に入る前に…と、ほらよ!」
ケイは自身の足元に置いていた容量が大きそうな鞄を屈んで開くと、中から飴の袋をこちらによこした。
「あぁ!ありがとう!ちょうどこの前に頼もうと思っててすっかり忘れてたんだ。」
「俺もこの前渡すつもりだったが忘れちまってたからお互い様だ。」
ウィンクしておどけて見せるケイに礼を言って金を渡し、さっそく飴を1つ口に入れる…いちご味だ。
懐かしくやさしい味に思わず目元が緩んだ。前世では煙草が原因で死んだのもあり、今世は煙草の代わりに吸いたくなる時には飴を舐めている。
この飴「フォーチュン・ドロップス」は、前世の缶に入っている飴にそっくりの味で、懐かしさもあり気に入って食べている。
宝石の様な形をしており、個包装になっている。包みの裏には、ランダムで四葉のクローバーが印刷してあることがある。それが「フォーチュン」の由来だ。
一方で、この飴は中々売られていないようで、こうやって少なくなってくると、商会のつての多いケイにお願いしているのだ。
…ただ、たまに食べていると、こうやってケイがニヤニヤ笑って見てくるのはいただけない。
「なんだよ、いい歳したおっさんが飴で喜んでるのがそんなにおかしいか。」
「そうじゃねぇ!改めて見るとおもろいことになってて笑っただけだ。」
「?」
首を傾げて見た後ジャックに目を移すと、少し困った様に笑って見せ、手に持った書類を指でトントン弾いて見せた。
「そろそろ本題に入っていいか。」
「あ、ハイ。すみません。」
思わず謝ると、苦笑で応え「いや、こちらもすまない。」と言い、執務デスク前にある来賓用のソファに促されたので座った。俺とケイはそれぞれ本棚を背に向かい合うように座り、ジャックはデスク側のソファに座った後、中央のテーブルに書類を置いた。
俺はなんのことかわからずケイに目を向けると、少しむすっとした顔をした後、肩をすくめてみせた。
ケイは何かわかっているようだが、まずはジャックの要件の方を優先したらしい。
「ここに呼ばれたってことで、2人ともある程度察しているとは思うが、ここに書かれている内容は他言無用で頼むぞ。」
そう言われ俺とケイは、"極秘"の判が押された書類の内容を読み始めたのだった。
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「…このアンって娘、頭沸いてんじゃねぇのか?」
「ケイ、言い方。」
書類をあらかた読み終わった頃、ケイが嫌悪感から吐き捨てた言葉に対し、ジャックが宥めるように言った。「まぁ俺も同意見だがな。」という言葉を添えて。
俺はというと、頭を抱えていた。
まず、現在ヒロインと思われる娘アン・ローズクォツ伯爵令嬢は学園で絶賛ハーレムを築いているようだ。(女性の場合"逆ハー"といっただろうか。)
というのも、彼女の周りにはサイラス王太子をはじめ、近衛騎士団長子息、魔術師団長子息、大商会の後継の息子、最近ではさらに、留学中である隣国の王子とも交流を持っているらしい。
特にこの隣国の王子は、ジャックの資料からすると現在世継ぎ争いをしており、五男である彼は巻き込まれないよう一時避難をするために来ているようだ。
ちなみにこの隣国というのは、過去にアダマス王国への侵略を仕掛けたことがある国でもある。
一気にきな臭くなってきて少し胃が重くなるのを感じた。ただ俺はソフィア嬢の冤罪が晴れれば、それだけで良かったのに…。
それに、"乙女ゲーム"ってそんな節操がないものなのか…?複数の異性に手を出す心は果たして"乙女"なのか?
混乱して荒んだ心を口にまだ残っている飴のやさしい味で少し潤していると、ケイが話を続けた。
「俺の伝手の方でもこのアンってガキの経歴を調べてきたが、こちらも何か腹に一物抱えてそうな感じだったぜ。」
そう言いながら、先ほど飴を取り出した鞄から調査資料を出すと、テーブルにドサッと置いてみせた。
まず"アン"は、国境近くの小さな街で生まれた。早くに父親を亡くし、母親が貴族のドレスのお針子の仕事をして女手一つで育てていたらしい。
その実力が城主の奥方の目に留まり、栄えある王都のドレス工房の働き口を紹介してもらってこちらに引っ越してきたらしい。
だが、アンが12歳になる頃、母親を流行病で亡くしてしまった。母親のお墓の前で途方にくれていたところを、たまたま通りかかったドレス工房のお得意様であったローズクォツ伯爵に出会い、不憫に思われ養子に迎えてくれたそうだ。
ローズクォツ伯爵夫妻はご年配で、子供も男だらけだったのもあり、工房に行くと声をかけてくれた幼いアンが可愛かったようだ。
その中で問題なのが、市井にいた頃から「私はいつか貴族様の養子になって王子様と結婚するんだから!」と声を高らかに言い回っていたらしいことだ。…それもまだ母親がいた頃から。
これにはさすがに先程のケイが言った言葉も頷けるというものだ。
「…どうやらお花畑ヒロインのようだな。彼女も転生者か?」
「テンセイシャ?」
声に漏れ出ていた俺の言葉をケイが拾ってしまったようでこちらにバッと顔を向けた。
「なんだよ、その″テンセイシャ″っていうの…。」
「…?ケイ。それが今回のことに関係でもあるのか?」
妙に詰めてくるケイを不思議に思ったのか、珍しくジャックがきょとんとした顔をしている。
「いや、そうじゃねぇ…ただ、まぁ…〜〜〜っがぁ!今はいいわ、すまん!」
少し言いあぐねていたが、バツが悪そうに自分の頭をガシガシかいた後、話をそらした。
「それより、ジャック。お前は俺らにまだ何か言うことがあるんじゃねぇか?それによぉ〜これさぁ…、魔電報で俺達を呼び出すにしては随分と内容が粗末すぎやしないか?」
そう言い、手元の資料を弾きながらジロリと睨め付けた。「言うこと」というのはさっき部屋に俺が入った時のことだろうか。
ジャックを見ると、ものすごく申し訳なさそうな表情で苦笑した。
「あぁ、そのことに関してはケイの主張はもっともな話で…。俺としても"大変"遺憾なのことなので申し訳なく思っている。…つまり、だな…この件が、お「私にバレたのよ、ネ⭐︎」…っ!?」
説明しようとしたジャックの言葉に被せるように、男の声が俺の後ろから響いた。
バッっと振り返ると、俺の至近距離に頭一つ程大きな男、…いや、
稀代の王弟、ジーク・ジルコニアがそこにいた。
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Xにて王都の簡単な見取り図を載せております!
https://x.com/hutaba_a01/status/2076191024352010241?s=46&t=47JWRjy01rJaZRkHobZhpw
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