第4話 高気圧ダンディ
突如と後ろに現れた王弟に、思わず立ち上がり言葉を失った。「一体どこから…!?」と彼の背後を見ると、本棚の一部がずれ、秘密の通路になっていた。
「あ、この通路を見たからには私の言うことを聞く方がお利口だよ。じゃないと、処しちゃうからね⭐︎」
チッチッチっと人差し指を揺らしながら、計算され尽くしたアルカイックスマイルを見せて俺達に圧を掛けてきた。
「やられた…!」そう思い、バッとケイに視線を走らせると、すでに頭を抱えてしゃがみ込んでいた。俺と同じく厄介事に巻き込まれる確定演出をもろに食らってしまいダメージを受けているのだろう。
そのままギギギ、と音を立てるようにジャックの方を恨みがましく睨め付けると、すでに瞳から一切の光を失い諦めた者の顔をしていた。
…なるほど、俺達に話をする前に一発食らっていると見た。
王弟ジーク・ジルコニア。王国の闇の仕事を取りまとめる影の権力者だ。その才覚は、アダマス王族の中で歴代随一とも言われる程の人物で、幼い頃からすでにその片鱗を見せていた。
その為、年の離れた兄王子を退け、王に担ぎ上げて甘い蜜を吸おうとしていた貴族も多くいたが、そういう輩はことごとく一掃されている。
…そして奇妙、いや、独特な喋り方をしており、その素性も同じく謎に包まれている。
また、学園で同世代だった上に後輩だった俺達は、この方になぜか気に入られてしまい、事あるごとに色々と振り回され尽くされた経験がある。…つまり、俺達の″天敵″なのだ。
戦意喪失している2人を横目に、再び視線を戻すと、ニコニコと笑ったままの王弟と目が合った。
「相変わらず君達は面白いネ〜⭐︎」
「あ、あはは…それは、どうも。アイモカワラズヨロシクサセテイタダイテオリマス…。」
まるで油を差していないブリキのようにぎこちなく応えると、微笑んでいた空色の瞳をスッと細めた。
「でも、今回の事を上に報告せず動いたのはナンセンスだったネ〜。王族が関わっている事、つまり『たかが火遊び』ではすまない可能性を孕んでいるって事なノ、わかってるかナ?」
「…!も、申し訳…ございませ、ん…!」
為政者の圧倒的な威圧をビリビリと放ちながら低く言葉を発してきた。この国の王族は、優秀な者程魔力を持っており、その魔力を言葉に乗せることもできるので、このように会話の中で相手を抑えつけるような圧をかけることができる。
しかも目の前にいる王弟は、魔力量で言えば陛下より上と噂されている。なのでそんなものをもろに食らった俺達は、ただただ耐えるしかなくなるのだ。
「殿下、無闇矢鱈にその威圧を使わないでください。」
「あぁ、ごめんネ。慣れてないとキツイよネ〜、大丈夫かナ?」
見かねたジャックが王弟に声をかけ、ぱっと威圧を無くした。俺とケイのゲンナリしている顔を見て察したジャックは、改めてソファへ座るよう促してくれた。
王弟が来たことで先程ジャックが座っていた席を王弟に譲り、代わりに2人がけソファに座っている俺の隣に腰を下ろした。
「…それで、俺達の調べている事に介入して何やらせようって言うんですか。」
ケイはこの一瞬で5歳ほど老け込んでしまった顔で、不快感を隠さずに王弟を睨み付けた。それに対し、肩下まで伸ばしている藍白色の髪を払い流して言葉を続けた。
「ナ〜ニ⭐︎そんな大層なことはお願いしないサ!ただ今回の件を調査した内容を見させてもらって、1つ閃いたことがあったんだヨネ⭐︎」
「な、なんですか、それは…。」
「それはネ、この件を有能な者を見極める『ふるい』にしようと思ったんだヨ⭐︎」
固唾を飲んで尋ねると、両手をぱんっと手を合わせニコッと微笑み答えた。俺達は意図が掴めず、お互いに顔を見合わせていると、ゆるりと足を組み、ソファの肘掛けに頬杖をついてくつろぎながら続けた。
「…最近ね、国内の権力を持つモノの中に奇妙な動きをしている輩がいるみたいなんだヨ。それで、そんな動きをする輩はどうもネ、学園内の子供達の中にも潜んでいるみたいなんだヨ。」
「それって、つまり…。」
「ソウ⭐︎今回の件の混乱に乗じてそいつらが″ナニカ″やろうとしてるんじゃないかと思うんだヨ⭐︎」
思わず小さく呟いた俺の声を嬉しそうに拾い両手を広げて見せた。いちいちリアクションが濃いんだよこの人…。
「…ただ、未来ある子供達を全員一掃するわけにはいかない。子供は間違いをしてそれを正しながら成長していくものダ。だから期限を卒業の式典に設定し、それまでに間違いに気づくか、それとも気づかず無能でいるか…はたまた!裏で暗躍しようとしている輩なのか!この『婚約破棄』という舞台を″ふるい″にかけて炙り出そうって訳サ⭐︎」
突然スッと立ち上がり、手を広げその場でくるりと回った後、舞台フィナーレの座長のような芝居がかったお辞儀をして見せた。
反応に困りケイをチラと見ると、文字通り青鯖が空に浮かんだような顔をしている。
ジャックも、とても上司に向けるようなものではない冷めた瞳で言葉もなく見つめたかと思うと、不意にハッとした顔をした。
「まさかとは思いますが、それをする本当の理由ってもしかして…」
「ソウ⭐︎この国に蔓延る悪い輩を手取り早く片付け私の功績にし、兄上に褒めてもらう為ダヨ!」
パッと表情を明るくし笑って見せた後、褒められた自分を想像しているのか、目を閉じ両手で頬を抑え、乙女のように恥じらったポーズをしている。
…そう。この稀代の王弟殿下が、なぜここまで権力に興味がないかというと、
この通り、筋金入りの『ブラコン』なのである。
筋金どころじゃなくオリハルコンが入っているのではないかという程にブラコンなこの王弟が国に貢献する唯一の目的は、『兄である陛下に褒められたい』からである。
学園時代も同じ目的で振り回された記憶がフラッシュバックし、胃が重くなるのを感じた。
思わず先ほどケイから買い取った飴を2個程取り出して、口に放り込んだ。すると口の中にメロンとぶどうの奇妙なマリアージュして広がった。
「おや、相変わらずキミはこの飴を食べているのか。変わらないネ〜⭐︎」
そう云うとカラカラと笑い出した。それを恨みがましく少し睨め付けた後、一度深呼吸をし、これからの事を尋ねてみた。
「それで″ふるい″にかけるとして、どのように振り分けていくんですか?」
「んっん〜、流石!いいトコロに気がつくネ〜⭐︎
…そうだネ、さっき私は″ 子供は間違いをしてそれを正しながら成長していく″と言ったが、間違いと気づかない″馬鹿″は嫌いなんだヨ。だから、まずは手始めに″馬鹿″では気づかない張り紙を学園に貼ってみるのはいかがかナ?」
「張り紙?」
「そう⭐︎たとえば花言葉や季語を使ったような張り紙で、意味する内容は『この婚約破棄騒動について何か疑念を持つものはキミのトコロまで尋ねてくるように』みたいなものをネ。」
一旦言葉を切り、俺を指さしウィンクして見せた。…なんで俺の周りの野郎達は、こんなキザな仕草をしてくるんだ…あ。そうだ、ここ乙女ゲームの世界かもしれないんだったわ。
「キミに直接連絡するものと、それに気づき親に連絡をとるものや相談するものは合格ってワケ⭐︎後者の方は私の方で相談された親には事情を説明し、連携していく予定だヨ。そして式典まで事情を黙っとくように箝口令を敷いておき、悪い奴らの動きが目立つようにするのサ⭐︎」
なるほど、それなら俺の方で動けそうだ。友人2人に目を向け一つ頷いて見せた。
「わかりました、僕の方で今日戻った後にでも作成し、明日にでも貼っておきます。」
「ノン、ノン⭐︎その心配はいらないヨ、なぜなら私の方ですでに作ってあるからネ⭐︎」
そう云うと何処から持ってきたのか、すでに彼の手にはポスターを巻いた物があった。
くそ!こちらがそっちの依頼を断らないこと前提で動かれている…。
ジャックの方をもう一度見ると、ジャックも知らなかったのか彼まで青鯖が空に浮かんだような顔をしていた。
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そんな訳で学園に早めに出勤し、人目のない内に張り紙をはったのだ。しかし、夏休み前の落ち着かない時期だし、反応が来るにしても少し時間がかかると思ったんだが…。
「すみません。掲示板の張り紙の場所ってここであってますでしょうか。」
貼った当日にさっそく尋ねて来る生徒が現れた。
——————明らかに攻略対象でありそうな青年が。
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