間話〜パブにて〜
「…どう思う?」
「…ライが「少し気になる」って事は、十中八九「何か」あるだろうな。」
「だよなぁ〜。」
ライが帰った後、先程までとは違いヒリついた空気を紛らわすように、くあっと欠伸をしながら伸びをした。
昔からそうだった。ライの言う「少し」は全く少しではないパターンが多い。
例えば、俺が自身の「鑑定」の加護について知らない頃、ライのやつが俺の目利きの鋭さが「少し気になった」らしく、冗談混じりに「帰りに一緒に行くから教会で調べてみないか?」と言われ2人で行ったら本当に加護があることが判明し、その場が大騒ぎとなった。
他にも言ったらキリがないが、俺と目の前にいるコイツはライの「少し気になる」に振り回されながらも、それが周りに回ってお互いの功績に繋がり、俺は男爵位を賜ることになり、ジャックは王弟直属の職務に就くことになったのだ。
「つまりは良いことではあるんだろうけどなぁ…。」
「…王子が関わるとなると、相当面倒な事だろうな。」
向かいからチッと舌打ちが聞こえ、チラと見ると、足を組み不調法に椅子に座りながらコニャックを回し飲む友人の姿があった。
コイツはライの前だとニコニコと優男の皮を被っているが、実際はお貴族様特有の冷酷無比を形にしたような野郎だ。正直なところ俺もライが関わらなければ絶対に近寄らねぇ超S級な存在だった。
だが、ライから一緒に振り回される内に謎の連帯感が生まれ、味方で良かったなと今は思っている。
優男に見えるように下ろした前髪を鬱陶しそうにかきあげ、コニャックを一息に煽った後、ライの置いていった資料を見直していた。その様子を見つつ、ふとさっき思った事をこぼした。
「でもよ、ライがガキであれ、オンナ関係で相談を持ち込んだの初めてだよな。」
少し動きを止め鋭い視線を一瞬よこしたのをニヤッと笑い応えたら、すぐ目を書類に戻した後目を閉じ、無言で是を示した。
ライは自覚がないようだが、オンナ関係のいざこざが苦手で無意識に避けているところがある。
普段パッとしないあの外見も、焦茶色のパーマがかった前髪を軽く整えれば、涙袋のあるタレ目にミステリアスな黒い瞳に目尻には泣きぼくろが見える。加えていつもの気怠げそうな雰囲気も相まり、妙な色気が漂う色男になるだろうから、きっと女達もほっとかねぇだろうになぁと勿体無く感じていた。
俺や目の前のコイツは、仕事や性分で落ち着く予定は今のところないが、ライが良い相手と幸せになっているところは見たいと思っている。
その反面そういった事情から半ば諦めていた。
そんなヤツが、今回わざわざ厄介ごとに自ら首を突っ込もうとしているのだ。
「なぁ、今回は少し面白そうだと思わないか?」
椅子にもたれ、ジャケットの裏ポケットに入れたシガレットケースから煙草を取り出した。
ライがいる時は吸わないが喫煙家だ。テーブルに置かれたランプで火を付け深く煙を吸いこんだ。身体に沁み渡るのを感じてから頭を上げ吐き出した。
紫煙がゆっくり天井に染み込み消えていくのをぼんやりと眺めながらジャックの返事を待った。
数回繰り返していると、ジャックがおもむろにテーブルに置いていた俺のシガレットケースから煙草を一本抜き取り、ジャケットから取り出した魔道具のライターで火をつけ、深く吸い込んだ後ゆっくりと煙を吐きながらうなだれるように言った。
「…やるさ。どちらにせよ、どうせ俺達はいつまで経ってもアイツに頼られたら断るという選択肢すらないんだから。それに、…確かに面白そうだ。」
その通り、と言わんばかりにニヤッと笑い、テーブルに置いた空のバカラ2つにコニャックを注いで渡す。なんだかんだ言っても、俺達はあの善良な友人の事が好きなのだ。…たまにどこかジジくさいところがあるがな。
ジャックは、煙草を持つ右手親指の腹でこめかみに刺激を与えながら空いてる手でそれを受け取り、不敵に笑った。
「俺は市街にいたそのアンって令嬢の周辺について情報を集めてみようと思う。お前はどうする?」
「俺は王宮内で王子の管轄の奴等に聞いてみる。場合によっては、王弟殿下に管轄の入れ替えを打診してみてもいいかもしれない。」
「王弟」という言葉に思わず顔を顰めてしまい、それを見たジャックは苦笑し「それはあくまで最後の手段を使った場合な。」と付け加えた。
この王弟殿下には、学生時代ライとは違った意味で振り回された苦い思い出があり苦手意識がある。
やましい事はないが、出来ることならあまり関わりたくない。
頼むぞ、と目で訴えたあと、バカラを掲げて乾杯を促した。
「それじゃ、善良で人たらしな我らが友、ライオネルに乾杯。」
ジャックは思わずと言った具合に喉の奥を鳴らして笑った後、同じくバカラを掲げ、「乾杯」とグラスの底をキンッと小気味よくぶつけ、互いに満たされたコニャックを一気に飲み干した。
まだ夜も更け始めたばかり。店内は遊び足りない奴等の客足が途絶えない。
俺達はそんな喧騒の中、友人に喜んでもらうべく、静かに作戦を練るのであった。
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