第30話 ただ怒りたくなるの
「もう〜〜〜〜アイツあったまくる〜〜〜〜!!!」
この部屋に入ったかと思うと、彼女は自分の席にどっかりと足を組みながら座り、ムスッとした顔を俺達に取り繕うことなく顕にしている。
俺は、誘拐されて怖がるでもなく、なぜこんなに荒れているのか不思議がっていると、村長の息子さんが呆れたように声をかけた。
「珍しいな、お前がこんなしてやれたの」
「うるさいわねぇ〜!……私だってぇ、普段であればあんな雑魚女、この鞭の餌食にしてたわよォ〜!なのに、すでに私の格好で前で現れるなんてぇ……ドッペルゲンガーかと思って自分の死期を感じて動きを止めた隙を狙ってきやがって……あんなのズルよぉ〜〜〜!!」
説明をしている内にまた頭に血が昇ってきたのか、顔を真っ赤にしながらすくっと立ち上がったかと思うと、ボロボロになって切れたドレスのスリットに手を入れ、太ももに元から装備していたと思われる鞭を取り出した。ギョッとしていると手慣れた様子で構え、この部屋の支柱の一つを鞭で打ちすえ始めた。
その技術力は凄まじく、人にやったら普通に皮膚が剥がれるだろうなぁ…と顔を引き攣らせながら見つめ、『そうか〜、乙女ゲームの世界だから″ドッペルゲンガー″の概念があるんだなぁ』などと現実逃避した見当違いことにも意識を飛ばしてしまった。
「あの…、もう、大丈夫ですよ。僕達の方で犯人はしっかり身柄を拘束させていただいてますから。…その、よければこれを」
さらに意識が遠くに飛び立とうとするのをなんとか取り押さえ、会長に自分のロングジャケットを肩にかけた。流石に今の彼女の露出の高くなってしまった状態をずっと見るのは目に毒だ。
「アラ、ありがとう。………優しいのね」
少しキョトンとした表情をした後、ふっと顔を伏せ目を逸らしながら小さくそう言った。セクハラって言われたらどうしようとも思ったが、俺のジャケットの襟元を両手で軽く持ち、落ち着いたようなので、ひとまず受け入れられた気がしてホッとした。その様子を兄貴がニヤニヤ、ジャックが「おや?」というような顔で見てきたのを感じた。
彼女もその様子に気づいたのかコホンと一つ咳払いをすると話しだした。
「さぁ!こうなったらアタシも徹底的に協力するわよ!ただでさえ、か弱い女の子の命を狙ってるってだけで許せなかったんだからァ、……早速だけどぉ、私がいない間に分かったことを教えてくれないかしらん♡」
「おい、このまま進めていいのかよ。流石に待つぜ?」
「いいのよ、用意なんていつでもできるわ。それよりも、今どこにいるかだけでも今日分かったほうが安心でしょ?その後にでも着替えなんてすればいいわ」
流石に息子さんも心配げに声をかけると、捕まった時に髪についたであろう蜘蛛の巣も気にせずボサボサの髪を鬱陶しげに掻き上げながらそう言った。その時俺達に向けた強い意志をこもった瞳を見て、頼もしさに胸がじんとした。
「ありがとうございます。とりあえず僕達が見つけた手がかりはこのような感じです」
自分の座席から深くお辞儀をし、現在分かっている情報を説明した。
—————————————
「あぁ、殿方達が探してたのってアンちゃんだったのねぇ〜!」
「知ってるんですか?!」
状況説明をして開口1番に出た彼女の言葉に声が裏返って反応してしまった。
「モチのロンよ♡声が裏返って可愛いわねぇ♡大丈夫よぉ、慌てなくても私は逃げないわよ?」
「おい、語弊があるからその言い方やめろ」
声が裏返ったことを指摘されて少し恥ずかしい面持ちでいると、俺にかけた言葉に思わずというように、息子さんがツッコミを入れた。
「冗談よ♡それでアンちゃんはねぇ、他の子と違ってぇすごぉいおてんばな子なのよォ」
「ん?というと?」
「ん〜、普通…という言い方もおかしいかもだけどぉ、避難した方々は大体家の中でできる仕事を探すことが多いのよね。殿方もここまで来る時にこの村のニオイを感じたでしょう?アタシはここで生まれたからまだ慣れてはいるけどぉ、避難して来た方々にはやっぱりたまったものじゃないみたいだから内職を希望するのよ。…でもね、アンちゃんは今頃、外に採取に行ってるわよ?」
「は?」
その言葉に、一同ギョッとした。こんな険しい地域に、しかも村の周辺には盗賊もいるのに。
「モチロン、さっきライ様がおっしゃってた幼馴染の男の子も一緒よ?加えて、他の冒険者と同行しながら採取してるみたい。というのもォ、アンちゃん回復魔法が使えるみたいでね、なかなか重宝されてるのよ。ここら辺は薬草や物資を持ってくるにも中々外からは輸送しづらいからァ、ほとんど自給自足だからね。回復薬を作るにも高くついちゃうのよ。それに引き換えアンちゃんは使用制限を守れば、寝たらフル充電されてるらしいの!すごく助かってるのよォ♡」
キャッキャと褒め称える会長の話に少しの違和感を感じながらも無事なことがわかり少し肩の力が抜けた。
「それじゃあ今も外に?」
「えぇ、今回は商人の警護班チームに同行しているみたいねぇ。この村に商品を運んでくれてる馬にも回復魔法をかけてもらってるのよぉ。予定通り進めば、後3日位でこちらに到着する予定ねぇ」
集会所の資料をパラパラと確認しながら教えてくれた。
————3日か。その間にアンというお嬢さん達が無事戻れるように準備しなくてはな。
「それじゃあ、また明日お話をすることにしましょ?さっき言った通り逃げないしィ、殿方もここまで休みなしでしょぉ?ひとまず今日は宿でゆっくり旅の疲れを癒してくださいな。…アタシのこの罪な身体を見たいのかもしれないけどぉ♡」
身体をくねらせおどけて見せる彼女ではあるが、その声色は優しく、こちらを案じてくれていることが察せられた。……自身も怖い思いをしているというのに、とても気丈な女性だ。
「はい、それでは今日はお言葉に甘えて失礼致します。貴女も今日はゆっくり休まれてくださいね」
「そうするわ♡そうだ、この服返すわね」
「いえ、どうか今日はそのまま持っていてください。ご自身の安心できる場所まででいいので。貴女に好奇の視線が行くのが僕は嫌です。……それに、僕のジャケットも野郎にずっと着られるよりかは綺麗な女性に着てもらった方が喜ぶと思いますしね」
「…まぁ」
先程の冗談返しの具合でそう伝えると、目を丸くした後、安心したかのように目元を綻ばせた。自然な笑みを浮かべると少し幼く見える方なんだな。
「やれやれ、すっかり骨抜きにされてらぁ。じゃあこの骨抜き会長はほっといて宿まで案内しますぜ。ライオネル様はこいつを召し上がるのは今のうちですぜ?」
「もう!なんて事言うのよ!どうせならしっかり味付けされてから美味しく召し上がってもらいたいわよ!!」
呆れたように言う村長の息子さんに案内される時に軽く茶化され、それに会長が火に油を注ぐような返しをしたこともあり、その意味をなんとなく察してしまい、思わず顔を赤くしてしまった。
その様子をジャックと兄貴に揶揄われながら俺達は一旦宿に向かうのだった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
評価やブックマークをいただけますと励みになります。




