第29話 格好悪いつかまり方
「…は?」
張り詰めた空気を切ったのは息子さんの洩れるように出た声だった。
「ちょっとぉ!放しなさいよッ…イッタイ!もうっ、どういうつもりよぉ!」
「いやどうもこうも、ね。……きみ、流石に僕達を舐めすぎでしょう?」
「…っ?!」
動かぬよう、曲がってはいけない方向に腕を捻り上げられながらも悪態を未だにつく相手に、少しの殺意を乗せた声色で話す。すると、相手はそれに気づき身を固めた。
「俺達はお前が入ってきた時点で気づいていたんだよ。その証拠に、ライのお兄さんがお前が入ってから入り口の方に席を移動しただろう?あれはお前が外に出ないように塞げるように動いていたんだ」
「なっ!どうやって………あっ」
ジャックの説明に思わずというように言葉がついてしまったようで、言った後とっさに口を塞ごうにも腕を掴まれているため、悔しげに唇を噛んだ。その様子を見てやれやれというように続けた。
「まず1つ目は匂いだね。彼女は花の香水をつけていた。それに対し君は無臭、加えて微かに硫黄の臭いが髪からしている。集会所の中には彼女の会長室があるはず。それなのになぜ今臭う外に出ようとするんだ?」
「…確かに。アイツ綺麗好きだから会長室の他に一室着る物や化粧を置いとく部屋をとっておいて半分此処で生活する勢いでいるから、こんな日は絶対外に出ないな」
俺の説明に納得がいったように、息子さんが言葉を洩らした。微かに俺の下から舌打ちが聞こえる。
「2つ目、この土地の性質を理解できているかだ。ここは硫黄物質が多いため、金属がすぐ錆びてしまいダメになってしまうという土地だ。彼女は俺がその性質に気付いた時驚いた反応をしていた。つまり、彼女は理解しており実際に身に付けていた装飾品は少なく、髪も木と鉱物を使ったもので結っていた。それに対し、君の耳元で輝くそのピアスは金属が使われているね。加えて君の髪を結っているこのかんざし…」
「…錆びてるな。……ん?これは」
「どうした?」
後ろ手に組み敷いてたジャックが片手で相手のかんざしを摘み上げるとその状態を見て、動きを止めた。その様子に俺が尋ねると、
「毒が仕込まれている」
「なっ…」
「…しかもこの色、おそらく学園でライを襲った生徒が使用したナイフに付着していた毒と一緒だ」
「!」
「…おっと、暴れるなよ?」
俺に説明しながら毒の塗られた凶器を持つジャックの隙をついて逃れようとする相手を、すかさず兄貴が代わりに取り押さえる。その間にジャックが入れ替わり彼女から離れて、壁を叩き部下の影を呼び出し凶器を渡した。
「これはこちらであずからせてもらう。もちろん、お前の身柄もな」
「はい、それじゃあこれ咥えててくださいね」
「もがっ…」
ジャックが相手に伝えると同時にすかさず近くにあった木の棒を横にして前歯に噛ませた。暗殺者は自殺用の毒を奥歯や体に仕込んでいることがある。短時間なら布でもいいが、長時間になると布が唾液で膨張し窒息しかねないので、証拠となる話を聞き出せるように拘束しなくてはならないのだ。
俺がその上から棒がずれないよう布で口元を覆うように縛り上げていると、影が兄貴に変わり後ろ手に手枷をし、首元に何か魔導具を取り付けた。
「これは?」
「雷(電気)が流れる魔導具だ。もし俺達の意に反した動きをすれば全身に強い雷が流れて無力化できる物なんだ。昔からある道具で拷問器具でもある。だから使用した者はみなこう言っているらしい…『死んだ方がマシだった』ってね」
「!!」
「お前の身柄は王弟殿下直下のこのジャック・ダマスカスがあずかった。この後王都に護送されるが、…その前にお前には俺の部下達の手で洗いざらい話してもらう。覚悟しておくんだな」
「っ!!ん〜!!ん〜!!!」
何かもがもが言いながら抵抗するも虚しく影達に連行され室内から出て行った。
「もっと骨のある相手かと思ってたのに残念だったなァ」
「いえ、俺を狙っている相手は2人という話なので、もう1人の方が本命でしょう。ナイフ使いだという話でしたしね」
「おぉ、そうか!」
呆れたように言う兄貴に俺がそう伝えると、瞳をギラリと光らせ機嫌良さそうにしていた。それに対して、村長の息子さんがポツリと呟いた。
「それで、…アイツはどこに?あんな奴ですが、俺の幼馴染なんで…」
「あぁ!すみません…!そうですよね、暗殺者に捕まっているのですから心配ですよね。ですが、あの様子からして彼女は生きており、どこか近場に隠されていると思いますよ」
「本当ですか?!…あの、しかしなぜ?」
「それは、あの刺客は返り血や血のニオイがしなかった。凶器は髪につけているかんざしだから、使用すれば、ナイフと違い傷口は小さく返り血を浴びづらいにせよ、凶器からは血のニオイがするはずなんです。ですがそれがなかったという事は、当身かなにかで気絶させられて、どこかに隠された可能性が高かったんです。加えて集会所の外の、それも近場に隠されていると考えられます」
「え?」
「さっき″硫黄のニオイがする″と言いましたよね?」
「はい」
「そのニオイが言うほど強くなかったんです。今日は顔を厚手のマントで覆っていても鼻の奥を突き刺すような濃さの硫黄のニオイがします。なので、遠くなんて行けば、きっと入ってきた瞬間から硫黄のニオイが部屋中に立ち込めていたでしょう。ですが、それもなかった。つまり、近く…例えば集会所の倉庫かなにかに隠された可能性があると踏んでいます。おそらく今頃僕の友人であるジャックの部下達が周辺を当たってくれて…」
「あぁ。今見つかって、本人がこの部屋に戻ってくるみたいだ。……それはもうカンカンでね」
「…ん?カンカン?」
俺が説明している途中天井を見て、何か確認をした後、ジャックが苦笑しながら応えた。そして最後の言葉に俺と息子さんが首を傾げていると、階下からカンッカンッと鋭い音を響かせながら階段を登る音が聞こえ、廊下からこちらにものすごい速さで近づいて来たかと思うと、バンッと壊さんばかりにこの部屋の扉が開かれた。
そこには髪をボサボサにさせ、襟巻きもなくボロボロな身なりになり、今にも爆発しそうな程怒り狂う会長が仁王立ちで立っていた。
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