第28話 きみだけ見えない
その場の空気が固まった。
「いない?」
眉間にシワを寄せ、兄貴が尋ねる。
「そうなのよォ。手紙をもらってから、改めて避難者、新規入村者の名簿を調べて見たんだけどぉ、″マリー″って名前の子いなかったわよ〜?一応″マリー″って名前になりそうな人ってことでも調べていたはいたけど…」
「いたけど?」
しょんぼりしながら名簿をペラペラしつつ言いあぐねる彼女に俺が尋ねる。
「もうヨボヨボのおばあちゃんばかりだったのよ。アナタ達は10代半ばの女の子をお探し♡デショぉ?」
「確かに、そうか」
「こりゃまいったねぇ〜。せっかく来たのにな」
俺が兄貴とジャックと顔を見合わせていると、兄貴が一抜けとばかりに扉の方に椅子を持って行きその前にドッカリと座ると頭の後ろで腕を組んだ。
「まだ前の村にいるんだろうか、ミスティ嬢の勘は外れたのかな」
「…いや、それはないよ」
考えを呟いていると、隣に座るジャックがあっさりと否定した。
「一応ここに来る前に、俺の方でしっかり前の村について調べていたんだ。ここに年齢別の名簿もある。そしてミスティ嬢に言われた後再度調べて″マリー″という名で離村した少女がいることがわかっている。」
「そうか…。うーん、では″その年代の女性″でいうとどれ位いそうかな?」
「それが多いのよねぇ…。今回の水害で避難してきた人は貴方達が尋ねて来た領だけでなく、その近隣の村や領も対象になってるのよ。最初は元の住所も書き留めていたんだけどぉ、こちらの受付に対して人数が多くなってしまって途中から記入するのやめたのよぉ、記入する紙を用意するのもこんな村では高価だからなかなか困難なのよぉん」
そう言うと「はぁ」と腕を組み、片手を頬に添え悩ましげにため息をついた。
ジャックを見ると、困ったように首を振り俺に状況を説明した。
「そんなわけなんだ。俺達も調査して探してはいるがなかなか手掛かりがつかめなくて、でもお前なら手がかりが見つけられるんじゃないかと思って誘ったんだ」
「えぇ〜?俺、殿下やお前みたいな捜査のプロじゃないから役に立たないって」
「その″プロ″につき合わされて学生時代から一緒に捜査してたじゃないか。それに俺や殿下はそういうお前の″アマ″の視点が糸口になって進展した事件だってあったんだ。どうだ、何か少しでも″気になる″ことはあるか?」
ジャックが驚くようなことを言いだし、ポカンと口を開けて聞いていると意見を求められたので仕方なく考えてみることにした。
「ひとまず、事の発端から考えてみよう。まず、ユージン君が件の娘の独り言を録音した内容を聴き、今回幼馴染のお嬢さんを救出することになったんだよね。……あ」
そこまで言った後、ふと思い出したことがあった。
「そういえば、件の娘の幼馴染は″マリー″の他に″もう1人″、しかも″男性″がいた気がするんだけど……」
「……あっ、確かに『引っ掛からなかった男がいた』とかなんとか」
「しかも、『幼馴染を守ってる』とも言ってたような…。となると」
「…おい。避難者リストの住所は記載してないと言ったが、日付は記載しているか?」
「へ?」
俺とジャックが記憶を手繰り寄せるように重ねていた会話に合点がいった兄貴は会長に声をかける。しかし、状況がわからずきょとんとしている彼女に俺が説明した。
「今回探しているお嬢さんは、同じく同年代の男性と一緒に行動している可能性が高いんです。なので避難者が入村した組み合わせを絞れば候補が上がる可能性があるんですよ」
「さらに″マリー″嬢が故郷の村を離れたのは、こちらの調べではここ1〜2ヶ月程だ。その間の入村者を調べられればいいんだが…。わかりそうですか?」
「なるほどね♡そうなるとぉ…、ここら辺のリストかしら」
俺の説明にさらにジャックが補足説明をすると、彼女が名簿の山をパラパラと捲りある区枠の束を差し出してきた。それをありがたくもらうとジャックと一緒に手分けして読んだ。
—————————————
「…何組かリストアップできたが、みな貴族枠ではないから家名がなく名前だけで、似たり寄ったりだな」
「あぁ…」
俺達は名簿からなんとか候補は絞れたが、それでもその組み合わせは多かった。時間を掛ければしらみ潰しできるだろうが、期限内となると難しい量だ。
「すみません…。俺、今回の件は全く詳しくなくて役に立たずで…」
合間に階下から温かいお茶を持って来てくれた息子さんが申し訳なさそうにポツリと言ってきた。
「いやいや、こちらとしてはお忙しい中俺達をここまで案内してくれたり、このあったかいお茶まで持ってきてくださって…それだけでも感謝してますよ」
「そう言っていただけて……それにしても、心配ですよね。確か命を狙われてるとか。一刻も早く見つけたいですよね…。まだ10代半ばなんて…、俺の姪がちょうどそれ位なもんで、他人事に思えないです」
「そうなんです……よ、………」
「ん?どうした?」
息子さんの話を聞いてから突如として固まる俺に相変わらず扉側の椅子でくつろいでいる兄貴が尋ねた。
「いや、そうなんだよ。調べるにあたって大事なことが抜けていたんだ」
「大事なこと?」
「うん。探している″マリー″嬢は何故か件の娘に命を狙われている。しかも、件の娘の録音を聴いた限り、俺達が来る″以前″から狙われていた可能性があるんだ。そうなると人はどうすると思う?」
「自分の身を隠そうとするだろうね」
「そう、つまり村を出て以降は″マリー″ではないかもしれない」
「どういうことです?」
兄貴に返答した後、俺の問いにジャックが答え、話を進めていると息子さんに問われる。
「″マリー″とは違う名前に変えているかもしれないということです。名前を変えれば見つかる可能性は低くなる。特にここに避難してきたと思われる時期は、人手不足で出身地を記載せずに入村できた。偽るにはうってつけのタイミングだったんですよ」
「はぁ〜!なるほど。…しかし、もしそうだとしても偽っている名前が何かはわかるんですか?」
「それは……」
感心したように声を上げた後、さらに尋ねられた問いにジャックが言い淀む。
「″アン″」
「え?」
「いや、もしかしたらと思ってさ。件の娘は″マリー″嬢から『″すべて″を奪ってやった』と言っていた。それがもし……」
「″名前″もだったら、ということ……か?」
「あぁ、もしそうだとしたら本当に胸糞悪い話なんだけどな」
「…ライオネル。その書類ちょっと貸せ」
「ん?どうしたの、兄貴」
「俺が見つけてやるよ」
言われるがままに書類を渡すと兄貴はニヤリと笑った。
「事務作業は苦手なんだがな、どこに何が書いてあるかはパラパラしてれば一瞬で見つけられるんだよ。昔ライオネルが言ってた″ドウタイシリョク″?てやつかな。………お、ひとまず″アン″が含む名前で見てたらあったぜ」
「ホントですか?!」
「あぁ、……うし!残りも見たが他はいなそうだぜ」
あまりの急展開に声を裏返しながら尋ね、その名簿を見ると確かに″アン″という女性がここ半月前位に入村している。しかも男性と共に。
「やったな、ライ!」
「あぁ!」
背中をジャックに叩かれ安心から一息つきながら応えた。
「素晴らしいわぁ♡頭のいい男ってス・テ・キ♡じゃあその子達が今どこいいるか、下の職員に聞いてくるから待っててもらえるかしらん?」
「その必要はないですよ」
「え?」
入り口に向かおうとする彼女にそう伝えると、キョトンとした顔で振り返り首を傾げ、再び扉に向かおうとした瞬間、兄貴は扉のノブを自分の座っていた椅子で固定し、背後からジャックが逮捕術がごとくその腕を捻り上げ後ろから組み伏した。
「なっ、何やってんですか!!」
「大丈夫です、本人はきっと無事ですよ」
「え?本人?」
俺達の行動にガタッと慌てた様子で止めようと席を立った息子さんに、優しく落ち着かせるようにそう言うと、予想外のことを言われ頭上に『?』を浮かべたように動きを止めた。
目の前ではうめき声を上げながらも身動きが取れないでいる人物にゆっくり顔を近づけ尋ねた。
「それで、君は″ダレ″かな?」
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
評価やブックマークをいただけますと励みになります。




