第27話 男女5人冬物語
上着とターバンを入り口で預けて集会所の中に入った。室内はムワッと湿度があるが、中央の大きな魔鉱石の暖炉によって温められており、その暖かさから自然と身体の力が緩む。
さらに奥に入っていくと、集会所奥側に案内所が見えた。壁面には、赤色と緑色のそれぞれ紋章の入った懸垂幕がかけられており、それぞれの模様的におそらく赤色が避難者の総合受付で、緑色の方が通常の受付と分かれているようだ。
その両サイドには、中央暖炉を囲うように雑談スペースとしてテーブルセットが並べられており、この天候だからか、そのほとんどが埋まっていた。
避難者と思われる人々は、みな意外と明るい表情をしており、楽しそうに歓談している。
その様子を見ながら村長の息子さんについていくと、彼は赤色の幕のある方の受付に声をかけた。
「ヨォ、ちょっといいか。オヤジの言ってた客人が到着したから連れてきた。会長はいるか?」
「あぁ、例の。ちょっと呼んできますね」
そう言い受付の男性がカウンター奥にある階段を登って行った。間も無く上から階段をトントン降りてくる音が聞こえ、降りて来たのはなんと女性だった。
「こんにちわァ〜♡パイライト村北集会所の会長のベルと申します、ヨロシク♡…アラ、想像してたより随分と男前な方々が来たわねぇ〜♡」
「ベル、節操ねぇぞ。身分の高けぇ方々なんだから場を弁えろ。すいやせん、コイツ俺の幼馴染なんですが、いっつもこうで…」
「ハァ〜?何保護者ヅラしてんのよ。わかってるわよ、ネ?お貴族様♡」
「え?え、えぇ、その…ハハ」
カウンターに肘をつきながら相手にガンつけし、こちらをふと向くと謝っくる息子さんに、彼女は腕を組み、俺達に挨拶した甘ったるい声色とは違う低い声でガンつけし返している。
ははぁ…なるほど、幼馴染か。息子さんと同年代というと大体20代後半というところか…。
最初は毛皮の首巻きと身体のシルエットがハッキリわかる黒いドレスに、過度に露出している豊満な胸が見え隠れしてドギマギしたが…ナルホド、2人で話していると歯衣着せぬ物言いで、まるで夫婦漫才みたいだな、と張り詰めていた気持ちがほどけた。
「……それで、例の件でこちらにうかがったのですが、お話を聞かせていただけますか?」
「アラ、話しやすいお方なのね。えぇ、勿論よ♡だーけーど、ここだと目立っちゃうから上で話しましょう、ネ♡」
ウフフと笑いながら、カウンター横のスイングドアを開き俺達をカウンター奥へ入るよう促してきた。村長の息子さんが入ると、それに続いて俺達3人も入った。
階段を登るといくつもの個室があり、空室もあれば中から商談をしている声が聞こえる部屋もある。
…なるほど、ここは通常のギルドと同じ作りのようだ。それにしても、こういうギルマスのような人物は普段はケイで慣れ親しみすぎたからか、ここの会長の強烈な個性に出鼻を挫かれた心地がした。
「さあ、ついたわ。ここの部屋を使いましょう」
そう言い空室だった部屋の一つの扉を開き、扉にかかる小さな看板を『使用中』にひっくり返して中へ誘導した。
「本当は私の部屋を使いたかったんだけどぉ、人数が多いからここを使うわね♡」
確かに室
内のデスクは、細長い立派な木で作られた机に8人掛けの椅子が机を挟んで4つに分けて設置されている。
壁、の周りには寄贈物なのか、一面に獣の毛皮がかけられており、暖炉をつけなくても床から階下の熱気が上がってくるのか暖かい。そして何より…、
「ここほ者、ほとんど金属を使ってないでしょう?」
俺の観察している視点に気づいたのか、どこか楽しそうに横から顔を覗き込んできた。
「え、えぇ」
「ギルドや集会所の主要の場所には少しあるんだけどぉ、ほとんどの場所はなるべく木材や陶器といった違う物で代用しているの。その理由はね…」
「錆びてしまうから…ですか?」
彼女の言葉に重ねるように言うと、目を見開き驚いたような顔をした。
「アラ、ここに来たことあるの?」
「いえ、初めてですが…」
「フーン、初めて来たのにすでにこの村の特性に気づいたの…フフ、面白いお方♡」
そう言いこちらに顔を近寄らせて来た。思わず反対側に顔を逸らし、少し後ずさった。しかしその分何故か近寄ってくる。近くで女性用の芳醇な花の香水の香りがして緊張で喉元がつるような心地になった。
「コラ、客人を誘惑するんじゃねぇよ。さっさと座るぞ、アバズレ」
「なっ……、アバズレですって〜〜?!」
そんな時、村長の息子さんが割って入ってくれて俺と彼女の距離を話してくれた。俺がホッと胸を撫で下ろしていると、悪態をつかれて怒っている。
…なるほど、この挑発めいた悪口は彼女の注意を逸らすためにあえて言っているのか。さすが幼馴染。
「もう、気が削がれちゃったわぁ。まぁとにかく話を進めますか。ちょっと私の部屋から資料をとってくるから殿方達は待っててね♡」
黒髪をいじけるように指でくるくるいじりながらそう言い残し、廊下に出て行った。。すぐ戻ってくるものと思ったら結構時間がかかっている。半刻程してから資料を持ってやっと部屋に戻ってきた。
「おっせーぞ!客人を待たせて何ちんたらしてんだ!」
「しょうがないじゃないの、イイオンナにはそれなりに準備が必要な・の♡」
思わずと言った感じで息子さんが怒るのをサラッと流して髪を手でかきあげ、耳元も光らせていた。なるほど、服も少し気合いが入ったものにバージョンアップしている。それを見て、困ったようにジャックと兄貴にアイコンタクトした。
「とりあえず、この資料を見てくれないかしら」
そう言い、手に持っていた資料を机に広げた。数枚机から拾い上げ見る。
「これは……」
「そう、ここの村に避難してきた住民のリストよ。でもね、見る前に残念なお話が1つあるのよ」
「え?」
「それはね、その名簿の中に連絡が来てた″マリー″って名前の子は1人もいないのよ」
その言葉に資料を同じように見ていた一同がみな顔をあげた。
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