第31話 証拠のかけらたち
2日目。俺達は村の住民に聞き取り調査をした。俺は幼馴染周辺の話、ジャックは北と南に分かれて2つある集会所に不審なことや最近変わった事などないかを手分けして調査した。
その間、兄貴は村周辺を野営で見張ってくれている騎兵団の様子を見たり、ついでに柵城を警備している衛兵にも話を聞いてくれた。「事情があるとはいえ、調査させてもらっている礼だ」とこちらの調査のフォローをしてくれるできた兄だ。衛兵も感謝しているようで、楽しそうに兄貴と話しているのを近くを通った時に見かけた。
昨日はあの後、宿にまっすぐ向かった。宿は同じく木で作られた家だったが、部屋は暖かく、部屋の中央に魔鉱石のストーブがあり、その上に水の入った薬缶が置かれ、注ぎ口からは湯気が立っていた。宿主の説明では、この村はあえて木壁にし、室内を暖かく湿度を上げることで壁の気密性を少なくし、外気のガスを入りづらくしているそうだ。その土地の知恵だなと感心した。
夜は眠れたかというと、……素直にいえばあまり眠れていない。宿のベッドはしっかりと綿の入った物で寝心地は申し分なかった。ただやはりと言うべきか、何もせず目を瞑ると、なぜかあの日のソフィア嬢の顔が浮かぶのだ。
花に手を添え穏やかに見つめる彼女を見て胸がザワザワするような感覚になった。それからというもの、気づいた時に浮かんで来てはしばらく脳裏に焼きついて離れないでいるのだ。
「……もしそういう感情なのであれば、つくづく救えないな」
寝不足の顔を右手で上から下に撫で付けながら呟きつつ、ノロノロとした足取りで待ち合わせしている北の集会所に向かった。
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「それじゃあ今日の成果を共有しあおうか。まずは、俺の方なんだが、″アン″…ここでは引き続き″マリー″嬢と言うけど、この村の人達には会長の話と同じく良い話が沢山でていた。重症化した怪我や急な子供の病気なんかも治してくれるそうで感謝しているそうだよ」
「そりゃすげぇな。気力の回復程度かと思ったら、本当にポーション以上の力だな。俺らの領にもスカウトしたい位だな!」
座った椅子をギッっと傾かせながら面白そうに兄貴が興味を示す。
「するにしても本人の意志は確認してくださいよ?……それで話は戻るけど、前の村の人達の評判が賛否両論、それも面白いのが男女で真っ二つに分かれていたよ」
「…というと、やはり学園のように?」
「あぁ、女性からは評判がよく、反対に男性からは″悪女″なんて言われていたよ。まぁ、この村で広めようとしたところでこれからは会長や俺達が手を回すから意味はないんだけどね」
「なるほどな…」
そう言いながらジャックは自身のジャケットの懐から煙草を取り出し、魔鉱石のライターで火をつけた。
「おっ、俺にもくれないか?」
「えぇ、どうぞ」
「こりゃどうも」
兄貴はジャックに差し出されたシガレットケースから1本引き抜き、耳の裏にかけた後、もう一本引き抜いて火をつけ悪びれもせず吸い始めた。ジャックは気にした様子を見せなかったが、俺が恨めしげに睨め付けると、ニカリと笑ってウィンクしてきた。…まったくこの兄貴は。
密閉された空間で自分以外の2人が喫煙していると、今世に入り、禁煙している身としてはたまったものではない。ずるずると自分の椅子を窓側まで引きずり、窓を少し開けて腰をかけた。今日も硫黄の匂いはするが、昨日に比べれば温泉街と同じ位のレベルで、窓から見える外のメーターの基準的にもどうやら換気をする分には問題なさそうだ。
外気の冷たい空気を肺に取り込みながら、懐から飴を取り出し口の中へ転がした。今日はメロンだ。
心に余裕ができ、中の2人の様子を見ると、ジャックは何か考え事をしており、兄貴が先程耳にかけた煙草を手に取り、銘柄を探しているのかじっくりと眺めていた。
「それでジャックの方はどうだった?」
「ん?あぁ、すまない。…ふぅ、昨日の今日であまりわかったことはないんだが、最近この村の羽振りがとてもいいらしい。どうやら、この村の特産品の黄色いあの臭い鉱物を多く買っていく者がいるそうなんだ」
「硫黄を…その人物と言うのは?」
「…すまない。それがわからないんだ。ここ2〜3ヶ月前から匿名で商会を通じて取引をしているそうなんだ」
「商会を……」
「あぁ、なんでも月に2回、月の初めと中頃の週中に来る商人が他の商品と一緒に取引を代行しにやってくるらしい」
「…ん?月の中頃…、今日は週中だよな?」
「そうですよ」
「…なぁ、もしかして、その″マリー″って子が一緒についている警護チームが守ってる商会ってさ、それじゃねぇのか?」
「「…あっ」」
思わず俺とジャックは声を上げた。そうだ、しかしこんな話がうまいこと繋がるか?何か″目には見えないチカラ″を感じてゾクっと身震いしていると「あっ」と兄貴が声を出し、話を続けた。
「もし関係なきゃいいんだがな、さっき柵城の警備をしている衛兵と話していたらな、ここ2〜3日に前の村の男衆とそれとは違うあまり見ない野郎達が3人位が薄暗い夜に村を離れたらしいぞ?顔はよくわからなかったが、流石に怪しい感じがしたから覚えていたそうだ。まぁ、怪しいといっても入村リストに載ってたから普通に通したらしいがな」
「怪しすぎる…」
「しかもライの話だと前の村の男共は探してるお嬢さんをよく思ってない奴らなんだろう?」
「あぁ…」
俺がうわ、という風に呟くとジャックも続ける。早めに救出に行った方が良いのだろうか…、しかしその前に、
「その前に会長さんにこの商会について何か知っているか聞いてみようか」
そう言い、会長室にそのまま一同で向かう。会長室はこの談話室のある2階フロアの1番突き当たりの奥にある。
「アラ、いらっしゃい♡ライオネル様と一同さん♪どうしたのかしらん?」
「うわ、1日で俺達とライオネルとの扱いの差が激しすぎるぞ、この女…」
「えぇ、実は…」
昨日とは違い一段と華やかな色のドレスを纏った会長の出迎えに、兄貴が何か小さく言っているが、少し離れた場所にいた俺はうまく聞き取れなかったため、そのまま事情を話した。
「あぁ、この商会?依頼者はわからないんだけどぉ〜、この商会は国内の商会じゃなくてぇ、わざわざ隣国のローゼリア帝国から来てくれてるそうよぉ〜?」
な、なんだって〜〜〜〜〜?!!!?!
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