第24話 兄弟愛 アブない男
アメジス公爵家から帰宅後、俺は何故かジャックと共に俺の実家のオブシディアン家に向かっている。
というのも最終調整の段階で、大きな切り札になりそうなことが見つかったからだ。
それは社宅に帰宅した19時頃。ソフィア嬢の義弟の急な帰宅により、ある意味で早く帰宅できた為、休息を取れるように手早くラクな服に着替え、一息つこうとしたところ、王弟の遣いが早馬を走らせ王弟の別邸に緊急招集を知らせにきた。
ここ約半年間、ロクに休めずに走り回っている為、神経がペラッペラにすり減ってしまっている。それもあり、周囲に感情の起伏を気づかれやすくなってしまっているが、なるべく優しく見えるように努力している。…しかし、遣いが俺を見た瞬間に口元を引き攣らせていたからきっと隠しきれていないのであろう。
王弟の別邸は王都東側、貴族達の居住しているスター地区中央部にある。先程訪れたアメジス公爵邸もこのスター地区にある。…つまり、俺は蜻蛉返りしているのだ。
「もう少し早く教えてくれればよかったのに……」
そうぼやいていると、馬車の窓が叩かれ、そちらに目を向けた後視線を戻すと、自分の膝にメモ書きが置いてあった。『あの服で殿下にお会いしたらずっと擦られてましたよ』と。
「…確かに、そうだな」
その光景を想像し、諦めのため息を洩らしていると王弟の邸宅が並木通りから見えてきた。
上着を脱ぎ、入口の執事に渡して部屋まで案内され入室すると、そこにはすでに王弟に友人2人、それに何故かミスティ嬢がいた。
「楽しい時間を過ごした後にすまないネ」
「本当はこちらだけですませたい話だったんだけど、この嬢ちゃんが発見したことがあってな…」
「見つけたこと?それに俺に言わずみんな集まってたのか?」
ちょっと寂しい気持ちが胸にあり、年甲斐無くシュンとしていると、友人2人とミスティ嬢が慌てて弁解してきた。
「違う、お前のために動いているんだ!」
「そうなのよ!たまたま殿下の部屋にあったヒロインの写真を見てちょっと違和感が…」
「違和感?」
詳しく聞くと、王弟のデスクにあった調査内容に新しくカラーで現像された写真があってそれが目に入り、見るとどうやらヒロインと思っていた令嬢がもしかしたら″乙女ゲーム″のヒロインじゃないかもしれないとのことだ。
「そういうわけでライオネル君、ダマスカス君と一緒に現地に行ってくれないかナ⭐︎」
「そのサポートキャラのマリー嬢がいると思われる場所がオブシディアン領の隣だからね、ライがいた方が話がスムーズに進むからな。それに…」
「片道に15日はかかるからなぁ〜…」
思わず遠い目になってしまい、それに王弟達も頷き同意する。
先日ミスティ嬢を訪ねる為に使ったローワーガードルラインは、王都から辺境の中間まで走るが、その先は馬車となる。さらに、オブシディアン領は北側の山脈に面しており、道が険しい為、他の辺境領に比べて時間がかかるのだ。
「それに今回は水害のあった地域を迂回しなくてはならない為、往復に時間かかることが想定される。さらに調査する時間も考えると一刻も早く向かった方がいいだろうネ」
「オブシディアン辺境伯殿には魔電報を送っており、すでに承諾を得ている。またライの兄上の誰かが同行してくれるとのことだ」
「兄貴達が?」
「辺境伯殿の話では久しぶりに末っ子に会いたがっているそうで、俺達が現地に向かうまで試合をして誰が行くか決めるそうだ」
「はぁ?」
良い歳して何してんだあの兄貴達は…。気恥ずかしい気持ちになり、思わず頭を掻いて照れてしまう。
「それじゃあ2人とも、サポートキャラの″マリー”という令嬢を見つけ、情報を引き出してくれ。王都での準備はこちらで進めておく。頼んだヨ⭐︎」
「「……はっ」」
改めて依頼をする王弟にジャックと2人で礼をし、かくして依頼を遂行することになったのだ。
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「……ライ、大丈夫か?お前ひどい顔をしてるぞ?」
魔導列車終点まで3日、馬車での旅が2日過ぎた頃、俺の向かいに座っているジャックが心配そうに尋ねてきた。
「えぇ?そんなに酷い顔してるか?」
「あぁ、この道中の5日間一睡もしてないみたいな顔をしてる。殿下も列車内で休息が取れるよう一等車を手配してくれていたろう?どうしたんだ、何か気になることでも?」
「あぁ、いや…その」
ジャックに真剣に心配されたが、思わず言葉を濁してしまった。
確かに普段乗る機会のない1等車は落ち着くには申し分なく、ふかふかのベッドと魔鉱石を使った空調で室内が程よく暖かくて素晴らしかった。
だが、今まで忙しなかった日々から逸脱すると、脳裏にどうしても浮かぶことがあり、それが寝ようとしても中々こびりついて離れず、結局ロクに寝れていなかったのだ。
そんなしょうもない理由なのだが、目の前で俺のことを心配している友人の顔を見て、観念したように打ち明けた。
「大したことじゃないんだけどな……、この依頼を受ける前に会っていたソフィア嬢の笑った顔が、…何故か頭から離れないんだよ」
「え」
気恥ずかしい気持ちになり、膝に乗せていじっていた手を見つめながら言うと、向かいで息を呑み驚いた声が聞こえた。
「なんかあのソフィア嬢を思うと、なんだか身体がむず痒くなるよう…息が詰まるような気持ちになるんだ。…まぁきっと、俺の中でソフィア嬢がずっと初めて会った時の幼い少女よ姿で止まっていたから、大人の女性の雰囲気を纏った彼女に動揺したんだろうな」
「………」
下を向いたままツラツラと言い訳を並び立てるように説明すると、向かいから反応が返って来ないのでチラッと見ると、手で口元を覆って目を爛々にした友人が見えた。
「……ジャック?」
「…!あ、あぁ…、それは、大変だったな?まぁ、俺達にとっては大したことなんだけど、お前は気にするナ?」
声をかけるとどこか様子がおかしい返事が返ってきて今度は相手が視線を窓に外した。いつもおだやかな顔をしているが、今はワクワクしたような表情を隠しきれていない。そんな話だっただろうか……。
不思議に思っているとジャックがハッとした顔をし、御者に馬車を止めるように指示し始めた。
「どうしたんだジャック、次の経由地までまだ先だろう?」
「あぁ、でもお相手さんはそれを待ちきれなかったようだよ?」
どういう意味だと思っていると、ジャックが馬車のドアを開け、一緒に出るとその理由がすぐわかった。
「どうやらライの兄上達の勝負がついたようだな」
「ライオネル〜〜〜〜〜〜迎えにきたぞ〜〜〜〜〜!!!!!」
『オオォ…!!』と数十騎の騎兵を従え中央でさらに力強く自分の名前を呼ぶ聞き慣れた声に思わず遠い目をしてしまった。
「3番目の兄貴、ハンス兄さんか…」
そう呟きながら、その騎兵隊が手元でたなびくオブシディアン家の旗を見つめるのであった。
お待たせいたしました!
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