間話〜アメジス邸コンサバトリーにて◇後編 ソフィア視点〜
「……父から聞きました、この度は私の為に動いて下さってるということを。改めまして誠にありがとうございます」
近くにメイドはいるが、2人でお茶を飲みながら話している折に、ふとライオネル様に今回の件の御礼を伝えた。すると最初はキョトンとした顔をされたが、その後優しく微笑みそう言った。
「いえ、元はと言えばこちらが勝手に動いたことですし。逆にこんなに大きく事態がなってしまい申し訳ないとずっとソフィア嬢に謝りたかったです」
「いえこちらこそ、ライオネル様が気づかなかったら本当に大変なことになってましたわ。ありがとうございます」
謙虚にこちらにそう言うライオネル様に、重ねてお礼を言うと、少し困ったように眉を下げ「わかりました。お気持ちは受け取っておきます」と微笑んだ。
「…それに、今回の件が解決すればそのロケットの君と一緒になれるかもしれないですしね」
「え?…あ」
いきなりロケットのことを微笑みながら言われ何かと思えば、いつもの癖でロケットをギュッと握りながら話していたようだ。思わず顔を少し赤らめていると、
「僕はそうなることを心より祈っていますよ」
………そう優しく言われて、心中で感情の嵐が吹き荒れた。
(その相手ってあなたですわよ〜〜〜〜〜〜〜〜つ!!!!…それを祈ってくれるってことはつまり婿にとっていいわよね、もう!!)
こちらの気持ちなど知らぬであろう相手がニコニコと微笑ましそうに微笑むのに一言言ってやろうと思ったところでメイドが少し慌てたようにこちらにやってきて耳打ちしてきた。…え、もうあのバカ義弟が帰って来るの?
「どうやら義弟くんがそろそろ帰ってくるみたいだね。それでは邪魔にならぬようにお暇させていただくよ」
「あっ、私が案内を……きゃっ!」
こちらを察してか、口元を布巾で軽く拭いた後すっくと立ち上がり、一言声をかけて立ち去ろうとするライオネル様に、慌てて先導しようとしたところ、立ち上がった拍子に自分のスカートを踏んづけつんのめってしまった。
手元につかむ場所もなくこの後来る衝撃に備えギュッと目を瞑ると、ふわっと大きく暖かいものに包まれる感覚がした。衝撃が来ず、そろりと目を開き見ると、目の前に水色のネクタイが見え慌てて上を見ると、至近距離にライオネル様の心配そうにこちらをうかがう顔が目に飛び込んできた。ライオネル様に抱き止められているのだ。幻かと思ったが、現実に近くでライオネル様の体温と吐息を感じる。
「ぅ、あっ…」
「大丈夫?」
あまりの事態に上手く言葉も出ずに口をパクパクしていると、落ち着かせるようにゆっくり身体を離れ、元の椅子に誘導してくれた。手と手が離れる時、指先が寂しさでピクリと動いてしまったが、紛らわすようにその手をもう片方の手で包んだ。
「大丈夫だよ。また落ち着いたら来ます」
そう言いこちらに目もくれず背を向けて温室の出口に向かうかと思ったら、ふと立ち止まりこちらを振り返り、
「そういえば、今日の僕達の服装、なんだか合わせて着たみたいだね。僕と違い、ソフィア嬢は冬の妖精のようで綺麗です」
少し照れくさそうにそう告げると「それじゃあ」と軽く頭を下げ、帽子を被り、そのまま温室を出ていった。
それを見送ろうと思ったが、あまりの連続にその場から動けずに先程ライオネル様に言われた言葉を反芻していた。
『今日の僕達の服装、なんだか合わせて着たみたいだね。』
『ソフィア嬢は冬の妖精のようで綺麗です』
(〜〜〜〜〜〜っ/////同じことを思ってただけでも嬉しいのに…!!)
今にも叫びそうになっている自分を抑えるように身体を抱き締めていると、コツコツという音が近づいて杖をついたお父様がやってきた。
「ソフィア、オブシディアン殿が1人で出ていったぞ。送っていかなくてよかったのか?………と思ったが、この様子では無理そうだな」
不思議そうに尋ねた後、私の様子を察し、呆れたように言った。それに思わずムッとした顔をすると、クハッと笑いながら言ってきた。
「クク…、ソフィアもこんな顔をまだしてくれるのだな。でもまぁ、相手があの男ならそれもしょうがないか」
笑いながらもライオネル様を認めるようなことをいうお父様を驚いたように見つめた。
「私が今後のことで反対すると思ったのか?だったら、先日オブシディアン殿がお前の為に動いていることなんて教えるはずないだろう」
やれやれというように先程ライオネル様の座った椅子にどっかりと座りそう言う父親はどこか愉快そうな様子だった。
「それにしても今日のあれ見たかい?すごい怪しい色気があって邸内のメイドや執事達までざわついてたぞ。お前の初恋の相手と聞いてたが、ああいう雰囲気の男が好きだったのか?」
「あれは想定外でしたわ!!」
思わず大きい声で反論するとお父様まで声を上げて笑っており、近くにいた長年我が家にいる執事も口を開けて驚いている。
「クク…ああいう男が我が家に入れば、新しく良い空気が入るだろうな。……カミュと違ってな」
義弟の名前に思わず身を固くする。そう、ライオネル様達が婚約破棄の件で動いてくれているが、カミュが企んでいる冤罪に関しては、我々で払拭しなくてはいけない。
そんなことを考えていると、目の前で立ち上がる気配を感じた。
「それじゃあ、私は行くよ。家のことは私も対処するが……お前も動くなら動いたほうがいいぞ。ジーク殿の話では年末の祝宴で婚約破棄を王太子が言い出した場合、最後にオブシディアン殿がメインで動くらしい。そうなると…国内有数の貴族の身分に、良い繋がりを持ち、将来も安泰な上に性格も良い独身男性……ことが終われば動く貴族も多いぞ?」
「まぁすでに夜会で話題になってるけどな」と楽しそうに言いながら去っていく父親を恨みがましく見送った。
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「義姉上、今日は客が来たようですね」
夕餉を食べて部屋で本を読んでいると、義弟が尋ねてきた。
「夕餉もいつもより豪華だったし、もしかして一緒にと考えていましたか?」
こちらに入るでもせずドアの影から顔を出して言う相手に「それができなくなったのは貴方のせいなのよ」と言いたくなる気持ちを表情に出さずに飲み込む。
「……それが貴方に関係があるとでも?」
「いえ、別に。それでは失礼します」
サラッと引き下がられ、首を傾げたくなるのを抑え相手の出方を見計る。
「………もう少しで、僕のものだ」
去る瞬間そう呟きこちらに寄越した湿度のある視線にゾクリとした。パタンと扉が閉まる音がしてもまだ気を休めず、相手の歩き去る足音が消えるのを待ってようやく息をついた。
「実の姉弟ではないけれども血は争えないものね…」
そう呟くと、そばの卓上に置いたロケットを見た。あの仄暗い視線の熱さの意味を知っている。私も同じような気持ちをずっと持ち続けていたのだから。
「…でも、ある意味で身をもって反面教師な経験になったわ。私のあんな気持ちを純粋なライオネル様が浴びてしまったらきっとひとたまりもないでしょうから」
もう一つ息をついた後、早く寝てしまおうと灯りを落とし布団に潜り込んだ。だが、今日は妙にさみしく感じてしまい卓上のロケットを優しく掬い取り胸元に包み込んだ。目を瞑ると浮かぶのは昼間に見たライオネルだった。自分の父親と王太子とのダンス以外であんな異性と、しかも自分の長年の想い人に触れることになるなんて…。王太子との件が解決し、もしライオネル様と結婚したらもっと親密な触れ合いに……。
「〜〜〜〜〜寝れるのかしら」
布団に潜り込みながら、おそらく赤くなっているであろう頬に手を当てを当てながら、なんとか眠れるよう無駄な足掻きを試みるのだった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
先週末はお休みいただいてしまい申し訳ございません。
無事体調も治ってきましたので引き続き執筆頑張ってまいりますので、
引き続きどうぞよろしくお願いいたします。




