間話〜成し遂げたい悲願 王太子:サイラス視点〜
「…ふう、少し休憩するか」
生徒会室の窓から差し込む夕日に気づき、誰もいない室内で1人呟いた。最終学年である私は、午前授業のみとなり、午後からは生徒会長としての業務をしている。
現在は年末から卒業することに伴い、通常業務と次期生徒会長の生徒への引き継ぎ業務を並行して進めている。帰ってからはまた、王太子としての国政に関わる業務があるから、迎えが来る6時頃には切りが良いところまで終わらせたいところだ。
私はこのアダマス王国で第二王子として生を受けた。
すでに優秀な兄王子もおり、周りに支えられながらも、小さい頃は穏やかに過ごしていたことを覚えている。
…あの頃は、本当に楽しかった。覚えることも多くあり大変ではあったが、何より、大好きな兄上が王太子になり、ゆくゆくは叔父上のように国王になった兄上を補佐する王弟として役に立てることを楽しみにしていた。
しかし、その夢は兄上が学園に入学する前に儚くも消えていった。
まだ5歳足らずの私は自分の無力さが悔しくて、父上と叔父上に酷く八つ当たりしたのを覚えている。すでに国王になり、顔に少し皺がで始めた父上の隣で、同じく悲しそうな顔をした学園を卒業して数年ばかりの若い叔父上を見てまた歯噛みした。
わかってはいるんだ。小さい自分にも教えられている″王族の血の病″について。それにより、次の子は病が発症した場合の″スペア″として、次期国王にするために歳を離して作られることを。
「兄上にスペアなんていないのに…」
それでもなんとか兄上の代わりになるべく奮闘していたところで、次期王妃となる俺の婚約者ができた。ソフィア・アメジス、………アイツは私を支えるどころか、努力する私の心を手折るような女だった。
王妃教育に最初は泣いていたようだが、ある日を境にメキメキと頭角を表し、学園に入学する頃には目に見えた功績を残し、国内外で次期王妃として相応しいと注目された。……私を差し置いて。
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「サイラスはサイラスの良さがあるのだから、そんなに焦らなくてもいいんだよ」
そう兄上が療養している自室のベッドに身を預けながら優しく言う。その優しげな表情は長年の病に蝕まれ、頰がこけており儚げだ。
「私はサイラスが頑張っていることだって、実際国の為の提案を徹夜で練っていることだって知っているよ。…しかし、私がこんなことになったばかりにサイラスに苦労をかけてすまない」
「いえ!そんなことありません!僕が不甲斐ないばかりに……、兄上は療養している中でも症状が落ち着く時間が少しでもあれば勉学に励んでて…僕の自慢の兄です!」
「ふふ、こんな体だけど、国王になったお前を見たいし、できたら助けになりたいからね。お前は本当に私の心の支えだよ…っ…ゴホッ」
微笑みながら、優しく兄上が言った直後、ゴホゴホと薄い体をしならせて咳をし始めた。慌ててメイドを呼び、飲み物と薬を持ってこさせ飲ませた。この薬も王族の病で併発している風邪の症状を和らげるに過ぎない。それよりも、病により全身がボロボロになっている兄上にとって咳をすることは、剣で刺されるような激しい痛みを伴うのだ。
薬を無事飲み、咳症状が落ち着き始めヒューヒュー息をする兄上の体を支え横たわらせると、メイドに呼ばれた担当医が駆けつけてくれ、診療することになったので、私は邪魔にならぬようその場を後にすることにした。
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兄上に最後に見舞いに訪れた日のことを思い出し、ふと外を見た。気づけばすでに日が沈んでいた。この国は11月ともなると5時には陽が沈んでしまう。
「そういえば、今日はアンが訪れなかったな」
入学式早々、目を奪われた彼女。天真爛漫で、周囲を振り回すも私を癒してくれた。……しかし、それが私だけではないということはすでに知っている。それに本当の狙いが隣国の王子だということも。
「別に、私の隣は″飾り″で十分だ。私は所詮″スペア″なのだから、兄上が治れば″どちら″も必要なくなる」
業務を進めながら、アンからもたらされた兄上の病を治す秘薬について知った。材料が揃えば、彼女に侍っている男の1人、ユージン・オニキスが作れるという。ただ材料の一つが希少でアンの当初の伝手でも手に入らなかったのだ。
だが、現在進めている隣国の王子の施策が進めば、国交改善記念に、アダマス王国とローゼリア帝国の国境付近の山脈にあるという秘薬の材料を寄贈してくれることになったのだ。すでに、父上に提案書も提出し、通ればあの第四皇子を通して話を進められる。最近兄上からの手紙も少なくなり、面会もできなくなった。時間がない、一刻も早く秘薬の材料を手に入れなくては…。
ふと作業をしていると視界がくらっとして、思わず眉間を摘んだ。手のひらを見ると、視界がぼやけているのがわかる。最近よくなる症状だ。王宮の宮廷医からは問題ないと言われ、安定剤をもらう程度だが、アンからのクッキーがこういう時食べたくなる。最初は食べるとこの気分は落ち着いたが、最近は食べてもこの症状が治らない。それに食べた後は妙な幸福感があったが、今はない。これも兄上のことと男を追いかけてばかりのアンを冷静に見れるようにあったからだろう。
「そういえば、最近妙な動きをしている奴がいるようだな…。まぁだがそれでもいいか。アンにこの前頼まれていたことも叶えて、ソイツにやらせるか…」
この前、アンの取り巻きの2人が退学となったうち、騎士団長子息を助けてあげられないのかと泣きつかれたのだ。普段なら、断っているところだが、内密に動いてもらうのはいいだろう。
「あちらは私を利用していると思っていると思うが、こちらも利用させてもらうよ」
暗くなり、街灯に照らされた学園の外の通りを見ると王家の紋章が施された馬車が到着するのが見え、まもなく家来達の足音が近づいてくるのが聞こえた。
私は手元の書類を片付け、手荷物をまとめた後、デスクにお守りのように置いていた兄上からの手紙を触れた。
「私は私のやり方で兄上を助けてみせる…」
1人生徒会室でつぶやいていると、扉をノックされ、私は迎えに来た者達と共にその場を後にするのだった。
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