第20話 星の手紙
第一王子が、長年の難病でも諦めずにいられた理由が王太子のおかげとはどういうことだろうか。
「実は、サイラスは寝たきりだった兄にずっと手紙を送っていたそうなんだよ。それも病に伏してから3日に1回、忙しい時も1週間に一度は必ず送っていたそうなんだ。見舞いにもよく来てくれてたそうだ。…薬を飲んで落ち着いた知らせをもらって、見舞いに行った時に初めて知ったよ。…親として情けない限りだ」
そう言う陛下の顔は切なげな色をしていた。…この状況で、俺の情報を伝えるのは酷ではないか?
「…陛下。改めてあなたに伝えたいことがありますのでお伝えいたします」
俺が逡巡していると、陛下と同じ色を顔に写した王弟が、あえて″陛下″と呼び、国王に仕える為政者の面を被り、俺の発見したあまりに残酷な現実について、悲しい程までに淡々と説明した。
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「そうか………」
王弟からの説明を受け,額を手で覆い事態を身に落とし込むように重く答えた。王弟も目を伏せて言葉を待っている。第一王子の心の支えだった王太子が隣国に情報を漏らしている証拠が現実として残ってしまっているのだ。その重さたるや、一介の俺でも想像は難しくない。
「しかし兄上。まだサイラスが率先して機密情報を漏洩させているのか、そこは惚れ薬の副作用がある以上まだ確証がありません。また、何か脅迫めいたことをされている可能性もあります。ちなみに、サイラスに兄王子の容体については…?」
「…いや、レオンや周りの者にはこうなった以上箝口令を敷いているから知らない。実際会うことはできない状態にし、手紙も伏せた物をいつもより少なめに書かせている」
先程より幾分老けたような顔を上げ応えられた。
「さすがです。…兄上には悪いですが、年末の計画まで引き続きこのまま箝口令を敷いて置いていただけますと助かります」
「うむ、表は私が回しておくから裏は頼んだぞ。…オブシディアン殿もすまないね、こんな厄介事に巻き込んでしまって」
「あっ、いえ…逆に私が持ち込んでしまったようなものですので、本当に申し訳ないございません」
「何度も言うが、君のせいじゃないヨ。それに今回の調査で相当な範囲の国の膿みが出せそうだからネ」
思わずソファから立ち上がり、最上級の謝罪の礼をすると、頭上から王弟の声がし、見上げると2人とも優しい目をしていた。
「それにしても、件の娘経由での証拠は出てきたが、サイラスが隣国と繋がって何をしたいのか、その目的が掴めていないんだよネ〜。兄上の方には何かサイラスからの接触はあったりするカイ?」
「そうだな、通常の国政に関しての企画書や予算についての話し合いなどはしていたが…もうやめた方がいいだろうか」
「イエ、怪しまれると思うので今のまましてもらっていいですヨ。なんてったって今回オブシディアン君のおかげで相手の手法がわかったんだからネ!影に本物は抑えてもらって偽造したものとすり替える予定サ☆」
申し訳なさそうにしている陛下に王弟がウィンクして明るく応える。それに苦笑しつつも「ありがとう」と呟いた。
「しかし、防衛費が漏れている可能性があるとなると、少し見直さないといけないだろうな」
「そうですね…、今回あちらにこの内容は漏れなかったにせよ、これが一部の可能性がある以上、隣国にどこの防衛に力を入れているか把握されている可能性が捨てきれないですものね」
口元の髭を撫でながら、背もたれに身を預けてため息まじりに陛下が呟いた。それに対して、俺も頷きながら応える。隣国と隣り合っている領が|我が家《オブシディアン辺境伯領》なこともあり少し熱が入る。
「君の実家にはいつも助けられている。だが、今回のこともあるし、こちらとしても予算をもっと渡しても問題ないのだが…」
「辺境伯殿がそれをいつも断ってくるんだよネ〜、「十分ですわ!!ふはは!!」なんて言ってネ〜…」
少し困り気味に陛下が提案しするが、王弟が父の真似をしながらやれやれといった風にソファに肘をつき手をヒラヒラさせてぼやいた。…これは、父の『敵意はないが有無を言わさないオーラ』を何度か経験しているのであろう。
「父がすみません…。ありがたい話なのですが、本当に我が家の場合十分なんですよ。『我が身は自身で守れ。然らずんば死あるのみ。』が家訓ですからね。どうしようもないんですよ…」
頭をかきながら申し訳ない気持ちになりつつも我が家の性分を伝えた。芯があって個人的にもその通りだなぁと思っており、気に入っている家訓だ。
「それよりも新しい技術や魔鉱石は喜ばれるかと思いますよ。我が家は隣国だけでなく国境付近の山脈からのモンスター退治もしてますからね。それに使えるものは、大雑把なお金で渡すよりも非常にありがたいと思います」
「そうか、ではその線で検討してみよう。今そちらに置いてある結界石や武器に関しては問題なく使えてそうか?」
「はい、兄からの手紙では問題ないようです。これもスフィアの管理をご多忙の中してくださっている陛下のおかげです」
「それは良かったよ。しかし、ジークの話だとそのスフィアも狙われてる可能性があるという話も聞いているが…」
そう言うと、再び難しそうな顔になり、腕を組みながら考え始めた。王弟に目を向けると、一つ俺に頷いてみせた。つまり、俺が″転生者″であることやその他諸々も共有済みというわけだ。
王弟が視線を陛下に戻し、陛下の言葉に続けて応えた。
「今回の根っこには、サイラスのソフィア嬢に対する劣等感を抱えていることが要因の1つに含まれていると思うんだよネ。そう考えると、優秀なソフィア嬢の功績を覆す″何か″を隣国の王子と交渉しようとしてるんじゃないかと実は考えているんだヨネ…。サイラスがどのような功績を残そうとしているかはまだわからないが、こちらで持っている情報とさっきの兄上からの話で隣国から″何″をもらいたいかは理解できたヨ」
「…!本当ですか?!」
驚き王弟を見ると、何か苦い顔をしながらこちらをみようとせず続けた。
「あぁ、…おそらくサイラスは隣国から″秘薬″か″秘薬に必要な材料″をもらう予定なんだと思う。今回私達はクォツ君のおかげであの素材を入手でき、ユージン君という味方がいたから作れたが、変わらずあの材料は希少なようだ。そして、こっちはあの秘薬の材料をサイラスが探しているという情報を掴んでいる。…同じ弟として、少し身に刺さる思いがするよ…ネ!」
「…サイラス」
自分が同じ境遇だった場合を考えたのだろう、説明した後なんとかおどけてみせようとしたが、その表情は苦い表情のままだ。陛下も、再び額を手で押さえ俯いた。
「なんとかサイラス殿下にその件については言ってもいいのではないですか?これではあまりに…」
「…いや、サイラスにはこの件についてはこのまま最後まで伏せるつもりだヨ。何せ私達の相手は隣国の例の第4皇子だからネ」
サイラス王子の思惑が分かり始め、すっかり同情してしまい緩いことを言うと、言葉を固く王弟が応えた。
どういうことだろう、あれはあくまで"アナザーストーリー"だったはずでは?と不思議に思っていると、それを察してか陛下が自ら説明してくれた。
「オブシディアン殿は頻繁に目立って軍事力を上げようとしている兄皇子達の方が警戒対象になっているかもしれないが、我々王族からしてみると、この第4皇子がこの後継者争いの勝者になることを予想しているんだよ」
「え?それはまたなんで…」
第4皇子は隣国の側妃の子息で、1番上の皇子と比べると10は余裕で歳が離れている。
「第4皇子はこの国に『世継ぎ争いから逃げるため』の体で来ているが、私達の調べでは、どうやらその争いが一層激しくなる″火種″を蒔いてからこちらに来ているようなんだよ」
「…は?」
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