第19話 survival pRince 〜no no cry more〜
「陛下、こちら今年の雨期で水害があった地域の被害範囲と損害額が…」
「陛下、本日の午後からの予定がこちらに…」
「陛下、来週の教会の祭事に参加される要人の名簿がこちらに…」
「陛下」
「陛下」
「まず、水害で被害があった現場に専門家を派遣し対策を練らせるよう手配してくれ。被害があった場所の住民が必要な物資はその地区の領主に手配させ、それぞれ会計士を派遣し必要金額を明記た上、宮廷に請求するように言付けてくれ。午後の予定についても問題ない。教会の参加者だが…この人物は聞いたことがない、至急調査してくれ。次が…」
…すごい、複数の側近からの内容を聖徳太子のように聞き分けてズバズバと業務をこなしている。この方がいてこそ、この国はここ数十年平穏でいるのだ。
現在50歳近いとにも関わらず、王弟に劣らず精巧な顔立ちに口髭を蓄えている。
「ア・二・ウ・エ〜♡」
邪魔しないようにと気配を消していた俺を裏切るように、王弟がスキップをしながら陛下のいるデスクに向かっていく。
陛下は最初ギョッと目を見張らせたが、半ば呆れたような表情で王弟を見た。そして横に目を走らせると側近達も頷き必要書類だけその場に置き、こちらに一礼した後部屋から出払った。その動きは洗練されており、…いつものことなのだろうか、ということがうかがえた。
「…ジーク、秘密の通路を頻繁に使うなと、あれほど言っているであろう」
「ンフフ♡だって、例の″ふるい″にかかった貴族共が押し寄せて来たんだモン〜、…それに今回は兄上に会わせたかった人を連れて来たんだヨ⭐︎こちらがライオネル・オブシディアン君、今回の件の発見者及び功労者ダヨ〜♪」
ため息まじりな陛下からの苦言を流した王弟が、そのままの流れで俺を紹介した。
「そうか、君が…。弟から話は聞いているよ、いつも世話になっているね。…コイツはいつもこんな感じで周りを振り回してばかりだから、君も苦労しているんじゃないか?」
「ハハ、おかげさまで…」
ペンを置き、こちらに目を向けた陛下に一瞬ドギマギしたが、発せられた内容に思わず遠い目をしながらなんとも言えぬ返答をしてしまった。…本当におたくの弟君には振り回されてますとも、えぇ。
「ひどいな〜兄上。彼の助言のお・か・げ⭐︎で私は晴れて周りからの継承者レースから外れて兄上のサポートができてるの二ィ♡」
「そんな助言してません!!」
陛下の前でとんでもないことを言い出した王弟に目をひん剥きながら否定した。きっと顔色も真っ青になっていることだろう。
それを聞いた陛下がキョトンとした後、みるみるうちに険しい表情になり、立ち上がったかと思うと王弟の襟首を掴みこちらに向かってきた。
「その節は、ほん…っとに申し訳なかった!!」
「…へ?」
処罰されると思い身構えていたら、目の前で勢いよく頭を下げる王と後頭部を鷲掴みされ一緒に頭を下げさせられている王弟が目に入った。
「ひぇ…っ、いや、いえ!どうか頭を上げてください!!こちらも何か誤解を招くような事を言ってしまったのかもしれませんし…私は償いますので、どうか実家だけは!」
「いや、君は何にも悪くないよ。当時、この件をコイツから聞いてからすぐに申し訳ないが君について調べさせてもらってたんだよ。そしたら、まぁ出るわ出るわ……コイツが君と君の友人を巻き込んだ事件がね。だから、機会ができればこうして君に謝りたかったんだよ。一方的な押し付けのようになってしまって本当に申し訳ないが、どうか許してくれないだろうか」
いつの間にか調査したと言われドキリとしたが、王弟と関わっているのだからしかたのない事だろう。しかも、その上で問題ないという結論が出ているのであれば御の字である。
「もういいじゃないですカ、兄上。そのお陰で色々とこの国の膿も絞り出せた事ですし、私も今もこうして頑張ってるんですよ〜褒めて褒めテ♡」
「お前は…」
反省の色も見せず、さらには自分を褒めろと言う自分の弟を拳をわなわなと振るわせて睨みつけている陛下に慌てて声をかけ、無理矢理話題を変えた。
「私は大丈夫です。そういえば、カメラとビデオを証拠品として使用できる許可を承認をしてくださりありがとうございます」
「あぁ!私もあれは実際見て試用もしてみたがすごいな!この件が落ち着いたら、この情報も国内に解禁予定だからそうなったらこの国の大きな銘産物と技術になるだろう」
「あれすごいよネ〜、早速私の影達にも使用させてて役になっているヨ♪ 兄上が必死に守っているこの国をいい餌にしようとしているクソ共を一掃させる証拠が揃ってきているしネ⭐︎また増産をかけたいんだけど兄上いいカイ?」
「あぁ、問題ない。今回は急を要するしな……、それに、お前がやりたいと言っていることは、大体いいことだから構わん」
そう言う陛下は、先程のキリッとした顔とは打って変わって少しショボショボしている。…王弟殿下、陛下の生気でも吸ってる?
それ対して、まさか褒め言葉(?)を陛下からもらえると思わなかったのか、キョトンとした後、ぱっと満面の笑顔になった。
「やった〜!兄上大好き〜♡ちなみに〜、この前私の分の魔導映写機を作ってもらって、それを使って影達に兄上を隠し撮りしてもらってるんだヨネ〜⭐︎凛々しい顔で仕事をこなす兄上素敵でしたヨ♡」
室内がしん…と静まり返った。え、何それ知らん。こわ、何やってんのこの人…。ほら、陛下も知らなかったみたいで顔色が真っ青になってさらにショボショボになってんじゃん!
「その私だけに権力の使い方を間違えるのだけはやめてくれないか…、全く慣れないのだが…」
いや、慣れなくていいと思いますけど!ここに入室した時に比べ、王弟を前にみるみる老け込んでいく陛下を見て、…俺はもしかしたら、この尊い方の犠牲の元、平穏な生活が今までできていたのでは、と隣にいる王弟という悪魔の存在を感じながらも申し訳なさから思わず手を合わせてしまった。
「…まぁ、ここではなんだから、ここに座って話を聞こうか」
そう言い、執務室の応接ソファに促された。初めて陛下の部屋に入ったのに加え、歴代の偉人や要人もこうやって座ったであろうソファに緊張しながらも座った。
応接ソファの中央テーブルには、様々な分野の書類が陛下のデスク同様に山積みされている。そして、先程いた側近が作業していたであろう形跡が残っていた。
「冬までに処理したい仕事がこの通り山積みになっていてね。散らかっていてすまないな」
「いえ、こちらが約束もせず押し掛けてしまったわけで、お話をうかがっていただけるだけでもありがたいです」
「…そういえば兄上、レオンの様子はどうだネ。薬は効いたカイ?」
机の上の書類を見ていたら、対面に座った陛下から予期せぬ気遣いの言葉をいただいてしまった。それに慌てて俺が改めて時間をいただいたお礼を伝えていると、ふいに王弟が話を切り出した。
実は、ユージン君はカメラの前にまず、薬の作成に着手してくれ、完成後、ケイの″鑑定″スキルで問題ないことを確認し、王弟経由で渡していたのだ。
「あぁ!今までの状態が嘘のように落ち着いているよ。病気の影すらない…ただ、懸念があったように長年寝たきりだった影響による身体的なリハビリが必要そうではあるが…」
「大丈夫そうですか?」
治ったとはいえ、今まで王族を苦しめていた難病だ。心配になり尋ねる。すると、髭を撫でながら苦笑した。
「それがな、レオンは今まで自分を苦しめていたその膨大な魔力を駆使して、すでに身体を起こせるのだよ。さらにリハビリする時なんか、補助をする魔法を使って行っているのだよ。まったく…アイツにはいつも驚かされてばかりだ」
なんだって〜〜!!?
あまりの第一王子のスペックの高さに絶句していると、横にいる王弟がご機嫌そうに口笛を吹いた。
「へぇ、伊達に″次期賢王″と云われていただけはあるネ⭐︎でも、それは生きることをずっと諦めないでいたってことでもあるんじゃないカナ」
「あぁ、それに関してだが、…君には言いづらいことではあるが、どうもサイラスのおかげのようなんだ」
俺の方を向き申し訳無さそうに陛下がそう言った。
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