第17話 まったアリ!
「今回の件に関して、王弟殿下や君が裏で色々動いてくれている事を把握しているのもあって、娘とサイラス王太子周辺の証拠を集めている。殿下や王家には悪いが、ソフィアの面子の為にも、そこはしっかり落とし前を付けさせてもらうつもりだ」
「勿論⭐︎ソフィア君については一方的にこちらが悪いからネ。兄上も踏まえてそこは擦り合わさせていただこう」
そう言い2人は頷き合った。おそらく裏であちらが暗躍している事情もアメジス卿は把握されている為、お互いに大人な対応ができる関係ではいられているのであろう。
「王太子と件の娘周辺の現在の調査結果を簡単に説明しよう。殿下からも事前に教えられていた私の養子を含めた要注意人物2人についてなんだが、…どうやら2人とも改善は不可能なところまでいってしまっている」
両手を組み、口元を隠して思案したように告げる。
「まず、クンツァイト商会の子息であるブライアン・クンツァイト君だ。彼は、王太子があの娘に贈る宝飾品やドレスの費用が、国から支出している王太子婚約者への贈与品費用から横領していることを知った上で自分の商会を利用させていたことがわかった。知らなかったのであれば情状酌量の余地はあるが…、さらにあの娘が使用していた惚れ薬を裏で売っていたのが彼だという事が判明した。…つまり、『次期国王を傀儡にしようとしている』と思われても仕方がないところまできている。…まぁよくやるものだよ」
はぁ、と重いため息をつき、ソファの背中を預けながら呆れるように言った。
「…実は君の友人のクォツ男爵を王弟経由で紹介してもらってね、クンツァイト商会、つまり子息の父親に探りを入れるのに協力してもらっていたんだよ。王都のギルド長をしている彼なら警戒しないと踏んでね。そしたら、父親本人はあくまで『息子の縁で、王太子殿下が婚約者様のプレゼントを買っていただいている』とずっと信じているらしい。現在、ドレスや宝飾品周りはすでに息子に任せてしまっているようで、王太子が実際だれと買いにきているかは見たこともないそうだ。」
「まぁ、だからといって父親は無罪というワケにはいかないけどネ⭐︎」
「残念だケド」と苦笑しながら言う王弟に、アメジス卿も頷く。
確かにそうなるだろう。「知らないのは罪」ということだ。信頼しているとはいえ、監督不行き届きが発生し、不祥事が起こってしまっているのだ。しかも、クンツァイト家は大きい商家とはいえ、ケイと違って爵位がなく、あくまで″市民″が″王家″に対して起こしてしまっている大不祥事だ。首が繋がっているかすら難しい結末になる可能性が高い。
それを想像し、喉が詰まる心地で考えていると、目の前でアメジス卿が再びため息をつきながらテーブルに置いた資料をめくった。
「次にもう1人、つまり私の義息であるカミュ・アメジスなんだが…こやつはもっと酷かったよ」
眉間に皺を寄せ、悲しさより怒りからか顔が赤く染まっている。説明する声は淡々としているが、書類を持つ手に力が入りふるふると震えている。
「義息…いや、もうそう呼びたくもない…。アイツは、この『惚れ薬を使って王太子を傀儡にしようとしている』という罪と、アメジス家の資産を勝手に使い、あの娘にプレゼントしている自分がしでかしている『横領』の罪を、全て私とソフィアに着せようと暗躍していたことがわかった。…あの恩知らずめが!」
ダンッ
静かな室内に机を拳で叩いた音が響いた。うわぁ、義息君そんなことしちゃってんの…。
「2人に罪を着せた後、自分がアメジス公爵に成り代わりでもしたかったのカネ」
やれやれ、という風なポーズを取りながら王弟が言う。確かに、それにしては少し引っ掛かりが俺の中にある。
「まぁ、調査でわかっているから、こちらとも連携して実際は大事には至らないようにはできているヨ。これもアメジス卿の協力あってのことダネ⭐︎」
「いえ、こちらも寛大な対応をしていただき感謝している。まさか、我が家に巣食う蟲がいようとはな…」
眉間を揉みながら心を落ち着かせようとしているアメジス卿を見て、″乙女ゲーム″と実際起こっている″現実″の乖離に口の中が酸っぱくなるような気分になってきて、思わずポケットを弄り飴を口に素早く放り込んだ。この場と場違いないちごの優しい味が広がり少しホッと息をつく。
「あっ」
手のひらにある包みの中を見て思わず声が漏れた。
「ん?どうしたのかね」
「えっ、い、いや…大したことじゃないんですが」
喜びから発した声を拾われてしまったことに恥ずかしく思いながらも手のひらの飴の包みを見せる。
「…それは」
「私がよく食べている飴の包みなのですが…当たりが出まして、これがなかなか出ないものですから思わず声を上げてしまった次第です」
お恥ずかしい、という様に頭をかきながら苦笑する。
「…そういえば昔、宮廷で迷子になられてたソフィア嬢にもこれをあげたことがありまして、その時娘さんは見事この当たりを引いたんですよ!思わず私も嬉しくなってしまって、娘さんには苦笑されましたけどね…。私とソフィア嬢はそれ位薄い縁ではありますが、幸せになってもらいたいな、って思うんですよ」
「………」
手のひらの四葉のクローバーを見つめながら、ふと思い出した話題をアメジス卿に話すと、何かを思い出そうとするかのように思案し始めた。しばらくしてハッと目を見開きこちらを見たかと思うと、王弟に視線をやった。それに応えるように王弟は肩をすくめた。
「お察しの通りだと思いますヨ。一応擁護させてもらいますが、彼はまったくもってそういうことには殊更鈍感なヤツなんですヨ⭐︎」
「……なるほど」
俺のことではあると思うが、理解ができない内容を話し何か納得されていると、ふいに扉がノックされ、1人の男性が入ってきた。そして、アメジス卿の耳元で何か話し、卿も頷きすっくと立ち上がった。
「すまない。急用が入ったので私は失礼する」
「そうカイ、ではこちらの情報はまた後日連絡させてもらうヨ⭐︎」
「えぇ、よろしく頼みます」
王弟に礼をした後、ソファに立てかけていたアメジストとシルバーの装飾が施された杖を握り、最後にこちらを一瞥した。
「オブシディアン君、今日はありがとう。…よければ今度私の邸にも来てくれないか。招待させていただくよ」
「え」
「…くく、それでは失礼する」
いきなりのお誘いに硬直していると、先程対面したばかりの時とは違った柔らかい笑みを見せた。その後、俺達に黙礼して先程入室してきた側近と思われる男と共に退室された。
「ンフ♡なんだか気に入られたみたいだネ〜⭐︎」
「…えぇ?どこがですか?」
「…それより、タイミングよくアメジス卿もいなくなった事ダシ!君の要件でも聞こうカ⭐︎」
そう言いながら、先程アメジス卿が座っていたソファに座り直し、俺と対面で座り聞く体勢を取ってみせた。俺はゴクッと緊張で唾を飲み込んだ後、机に置かれたアメジス卿の調査資料を横に移動させ、自分が持ってきた物証を置き、説明した。
———————————————
「…………なるほど、これはマズイ内容ダナ。お手柄だが、つまりキミは『これと″同等″の内容がこれまでも隣国の王子に渡ってる可能性がある』、そう言いたいわけダネ?」
「…はい、おそらく」
「ウン、うん…。……サイラス」
目元に垂れた前髪を掻き上げ、うつむきため息をついた。その顔は、俺の前で隠そうともせず苦悶の色で濁っていた。
「…ですが、惚れ薬の薬効上、すべてが王子の所業というわけではないということも」
「…いや、ありがとう」
俯き、かける言葉に逡巡していると、ふいに声をかけられた。顔を上げると普段とは違った、穏やかな顔で微笑みこちらを見ていた。…それは何かと決別したかのようで、凪いだものだった。
「…話は逸れるが、こちらも君の言っていたスフィアについて警護を改めていたところ、サイラスが件の娘を連れて近くに来ていたのを把握している」
「…っそれは、本当ですか?」
「あぁ、こちらの物が近寄れないようにしたから無事だが…。まだ、あちらの動機もわからない上に、君は見たことがないだろうが、スフィアはそれなりに大きい。それをどのように奪おうとする可能性があるかも見えていない」
「そんなことが…」
「だが、隣国との密通内容がわかった今、どのようなやり取りをしているか、そしてその手法を把握できることようになった。それによって、こちらで内容を偽装したものとすり替え、実際の手紙の内容を確保できるようになったのは大きな進歩だよ。これもキミのおかげだ……と、いうわけデ⭐︎」
ポンっと手を叩き、いつもの胡散臭い笑顔をこちらに今度は向けてきた。…もう嫌な予感がしてきた。
「せっかくだから国王に会いに行こうカ!…今・カ・ラ♡」
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
評価やブックマークをいただけますと励みになります。




