第16話 ドラマティックに会いして 〜断罪まであと2ヶ月〜
隣国への機密情報流出の証拠が発見されてから週が明けて10月になった。
ひとまず王弟と約束が取り付けられて、足早に約束の場所である王弟の執務室に証拠を携え向かっている。
その間も色々とバタバタしており、学園の職場では、なにかと迷惑をかけてしまっている。だが、王弟からすでに連絡が来ていたようで、みな快く送り出してくれている。
前世とは違い、良い職場環境に恵まれ感謝はあるが、王弟が絡むと知ってから一様に同情の目で見つめてくるのはいただけないと思う…。
王弟の執務室は、宮廷の最上階である5階の北側角部分を大きくとった大部屋となっている。執務の他に会議もそこで行っている為広く取っているのだ。本来であれば中央の王宮に執務室を持っていいのだが、王弟がそれを断り、自分も兄王を守護する城壁の役目もある宮廷で皆と同じく仕事をすると言ったのだ。
勿論その側面は本当だと思うが、もう一つの理由として、自分が王宮にいることでまた自分を担ぎ上げてくる輩が出てこないように予防線を張っているのだろうと個人的には考えている。
「ライオネル・オブシディアンです。入ります」
他の部屋の白い扉とは違い、金縁の豪奢な装飾が施された扉をノックする。中から了承の声がして王弟の側近と思しき人が開けてくれる。
「失礼します」
側近に目礼した後、100畳は余裕でありそうな広い部屋の最奥にあるデスクに目を向けると、意外な人物が先に王弟と話していた。
「やあ!お疲れサマ⭐︎アメジス殿、彼が話していたライオネル・オブシディアン君だよ」
「そうか、彼が…」
手を振りながら挨拶してくる王弟の声に反応し、こちらを振り返る人物に見覚えがないわけがなかった。
少し白髪の混じる濃い紫の髪を撫でつけ、鷹のように鋭い目つきに紫の瞳を持っているこの人物こそソフィア嬢の父親であるアメジス公爵だからだ。
「ちょっと前にアメジス殿もここにお越しになられたところなんだヨ⭐︎さ、あちらで話そうカ!」
そう促され、王弟のデスクの前にある3人掛け程の応接ソファに、机を挟んだ形でアメジス卿と向き合うように座った。そして、その間の重厚な1人掛けチェアに王弟が腰を下ろした。
「先程まで軽くアメジス殿と今回の件についての進行度合いを擦り合わせていたんだけどネ、君も来たことだからせっかくのことだし、共有できる部分はしたいんだけど…アメジス殿は問題ないカイ?」
「あぁ、問題ないよ。ただね、1点彼に確認したいことがあってね。この際だから聞いておきたいのだが…よろしいかな?」
そう言い、こちらに鋭い目を向けてきた。…な、なんだろう。
「君はあのオブシディアン家の四男で、宮廷勤めではあるが、現在は出向で学園にいるそうだな。そこで、今回の娘関連の噂を聞き自ら動いてくれているの知っている。…その点は感謝する」
「い、いえ。こちらこそ殿下に話しているにせよ、卿に連絡もなしに勝手に動いてしまい申し訳ございません。あまり事を大事にしたくなかったという気持ちが先立ってしまいまして…」
予想外に感謝の言葉をいただいてしまい、身構えていた分たじろぎながらもこちらの気持ちを伝えた。その様子を目を細め見つめられた後、本題にうつった。
「だが、こちらとしては、なぜ我が娘と関係がない貴殿がここまでしてくれるのか…よくわからなくてな。そうなると、何かこちらに目的でもあるのかと勘繰ってしまうわけだが…。オブシディアン殿、貴殿の目的は何かな?王太子との婚約が解消されたら歳の離れた我が娘を嫁に据えて我が家と繋がりたいのかね。それとも、金かな?」
「違います!」
こちらを試すような温度のない低い声色で問われた内容にギョッとして、思わず強く否定の言葉を叫んでしまった。アメジス卿は想像以上の声量で返ってきた返答にキョトンとした顔をしている。
しまった〜…という気持ちが、室内にビリビリと反響した俺の声のように心の中でこだましている。
「…すみません、俺はそういうことには1番縁遠い人間で。貴族らしくない考え方ですが、本当に日々平穏に過ごせたらそれでいいんです。ただ、宮廷に入所したての頃、迷子になっていたところを助けたソフィア嬢が、今困っている状況になってるのを知って…、おせっかいとは思ったんですが、単純に影から助けられないかな〜って思っただけなんです。…まぁ、それがこんな大きな事態に発展するとは思わなかったんですけどね」
取り繕いながらもなんとか事情を説明し、後半は「どうしてこんなことになったんだ」という気持ちも出てきて、頭をかきながらタハハ…と笑った。
「…本当に何もないのかね?」
「えぇ、これっぽっちも」
訝しげに眉間に皺を寄せ、逡巡しているようだ。
「娘もいらないのかい?」
「それこそないでしょう!娘さんとは歳が離れていますし、何より彼女は小さい頃に片想いした相手がいるかもしれないらしいですよ。王弟殿下の前で言うのもあれですが。でも、もしあるとするなら、…どうか今回のことが解決しましたら、家の為だけではなく、ソフィア嬢の為にも動いてあげていただけたら嬉しいです」
そう告げると信じられないモノを見たような表情をした後、王弟に顔を寄せて何か話している。
「…彼のあれ本当なのか?こんな純粋培養したような人物、貴族にいるのかね」
「ンフ♡残念ながら本当なのダヨ。汚れを知らないってワケじゃないが、家族や友人に恵まれているようでネェ。今のところはイイけど…、今後を考えると手綱となるナニかしらの″鎖″が欲しいところなんだよネェ⭐︎」
「なるほど、そこまでか…」
王弟とヒソヒソ話した後、さらに天然記念物を見たような顔をされた。それに引き攣った笑みを返すと、あちらも気付き咳払いをした。
「オホン、失礼した。貴殿の願いは承知した。こちらとしても願っていることではある。…娘には、苦労かけているからな」
そう言うと、彼女の事を思っているのか、少し苦しそうな表情を一瞬見せ言葉を詰まらせた。その様子を見ていると、こちらをふと見て軽く微笑んで見せた。
「では、改めてだが、こちらが動いている事と情報を共有しようか」
姿勢を正し、王弟に目配せした後、俺に向き合い話し始めた。
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