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転生おっさんのミリしら乙女ゲームRTA〜悪役令嬢を影から助けようと思ったらとんでもないことになった〜  作者: 二葉 葵


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第1話 前世の記憶は突然に


「知ってるか?王太子殿下が卒業の式典でついに婚約破棄を宣言するらしいぞ。」


 仕事の通りすがりに、壁際で話していた学生の噂話を聞いてしまった俺に電流が走った。


「おい、そんな確証のないことをこんなところで言うのは軽率だぞ。」


「でも例の伯爵令嬢を王子の婚約者が嫉妬からいじめてるって噂が広がってて、実際食堂でも言い合っているところを見てるだろ?それにその令嬢は自分のクラスで王子から卒業後のプロポーズもされたって言ってたぜ?「どんなにいじめられようと負けません!」って泣きながら意気込んでいたらしいよ。」


「はぁ?そんなことになってるのか?」


 思わず動きを止めてしまっていた体に鞭を打ち、急ぎ近くの柱の影に滑り込ませた。声が漏れぬよう口を抑え、押し寄せてくる衝撃と興奮の波を押し殺した。

 

 そうか、俺はいわゆる「乙女ゲーム」に転生したのか。


 よく考えてみれば、無駄に周り奴等や環境がやたらとキラキラしていると思っていたのだ。


 最たる例が、この国「アダマス王国」だ。王都は、八角形の高い城壁に囲まれており、内地と外地を隔てた作りとなっている。また、貴族や名のある家の家名には必ず宝石の名前がついており、周辺国からは「宝石の要塞都市」と言われている。

 王都内は中央の王宮がさらに壁で囲われ、北側から時計回りに、王宮。宮廷関係者の住居がある「ベゼル地区」、貴族の住居や別邸のある「スター地区」、そして学園のある「クラウン地区」に加え市民が住まう「パビリオン地区」の4区画に分けられている。白い王宮と外壁を中心にその屋根の色も、それぞれ青・水色・緑・橙色と彩られ、上空からみればその名の通り宝石のような景観を臨めることであろう。

 

 そんな世界の中で、俺は辺境伯4男のライオネル・オブシディアンとしてこの世界で生を受けた。生まれた頃から前世の記憶があり、赤ちゃんの頃は精神的に苦労したが、個人的にはとても充実した人生を歩んでいると思っている。

 前世では過酷な仕事の過労とストレスの捌け口としてヘビースモーカーとなり、肺を患ってからも喫煙を止められず、50を前にして息を引き取った記憶がある。

 晩年の苦しい記憶を持っている俺にとって、今世はボーナスステージのようなものだった。異世界ということに加え、家のスペア以降の4男というなんのプレッシャーも与えられないポジションに生まれたのだ。普通の貴族の子であれば荒れたり、将来のことに不安を持つかもしれない。

 だが、俺は生まれてから前世のおっさんの記憶を引き継いでいたため、そんな同世代の子を親や兄のような気持ちで見守りつつ大人になった。仕事も高望みをせず、ただ実家の為にもなりつつ安定した仕事に就き平穏に暮らしたいと思い、宮廷の防衛省事務職に就いている。


 この仕事は、前世でいえば公務員のような職務なため定期的に出向がある。その中に、王国が国をあげて経営している王立学園へ2年ほど前から異動となり、出向していたのだ。

 現在は32歳で独身。せっかく優雅な独身生活を満喫していたというのに…。


「どうりで周りの連中も無駄にキラキラした顔をしてるわけだ。乙女ゲームだったとは…。」


 口を覆っていた手をゆっくり下ろし、ため息をついた。まぁわかったところで、この世界ではモブであろうし、前世で乙女ゲームを全くしていなかった俺には関係のない話だ。しかもヒロインらしき令嬢をいじめているのであれば当然助ける義理もない。


 落ち着きを取り戻し、書類を抱え直した俺が再び歩き出そうとした時だった。


「でもあのソフィア・アメジス公爵令嬢だぞ?あんな賢女がそんなことするなんて、女の嫉妬は怖ぇなぁ。」


 再び俺に電流が走った。今度こそ動けなくなった俺の手から書類の束がバサリと音を立てて滑り落ちた。流石に気づかれるかと思ったが、その矢先に運良く予鈴の鐘が鳴り、学生達は足早に去っていった。


 俺は足元に落ちた書類を呆然と見つめながら初めてソフィア嬢に会った日を思い出した。


 あれは俺がまだ宮廷に勤め始めた頃、王宮内への用事があり向かっていたところ、当時幼かった彼女が柱の影で泣いているを見つけたのだ。

 最初、誰かの職員の子供が一緒に来て迷子になったのであろうと声をかけポケットから飴を取り出しあげたのだ。今考えれば、アメジス家特有の紫色の瞳に淡い紫色の髪を見ればすぐ分かっただろうに…。

 それで、少し気が紛れた彼女を人通りの多い場所まで道案内している矢先、公爵家の遣いの者が急いで駆けつけたことにより、アメジス家のご令嬢だと知り肝を冷やしたのは苦い思い出だ。


 「あの初対面から10年立ってるから今は18歳か…。時が経つのは早いなあ。」


 おっさんらしく少々ノスタルジックな気持ちに浸った。だが、よくよく考えてみれば、その後メキメキと頭角を現す程の才女となり、加えて人柄の良さで次期王妃として国中から期待されていると噂の人物だ。色恋程度で嫉妬などするだろうか。

 それにあの迷子になっていた小さな娘があんなことをするようには、どうしても思えなかった。

 

 もし乙女ゲームをやった経験があるのであれば、ある程度傾向が把握できると思うが、いかんせん俺は一度も乙女ゲームなるものをプレイしたことがない。その上、書籍化やアニメも興味がなく見てこなかったのだ。前世で妹から「やってみない?」と勧められても拒否していたのだ。

 今思えばなんで拒否してしまったんだ…おのれ、過去の俺。


 冬の祝宴まで今からちょうど6ヶ月。まずはこの噂が本当なのか、事実確認でもしてみるか。

 

 俺は書類を拾い終えた後、ポケットから飴を取り出し口に放り込みながら足早にその場を後にした。


 口の中で、彼女にあげた飴と同じレモン味がほろ苦く広がった。



最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

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