第14話 驚の言霊(ことだま)
「…ねぇ、これを作って誰に使うの?」
室内の時間が一瞬止まる。そうだ、まだユージン君に話してなかった…。申し訳ない気持ちになりつつも簡単に事情を説明する。説明が終わる頃には流石のユージン君も顔色が紙のように白く染まってしまった。
「そ、そんな責任重大なこと俺には無理…!聞いただけで吐きそう…っ」
「ごめんね!…でも君の力が必要なんだ。よかったらコレ食べて、ゆっくり考えてくれればいいから」
プルプルと震えるように体を縮こまりながら吐露するユージン君の背中を優しく撫で、上着のポケットからいくつか飴を取り出し渡す。…無理もない。いきなりこの国の未来がかかった一大任務を王弟からお願いされたのだ。
メイドのカミラさんが、ジャックに許可をもらい執務室内にあったお茶道具を使い、ユージン君に温かいお茶を入れて俺経由で渡してくれた。できるメイドさんだ。
「…もし作れたなら、君が件の娘を盗聴した刑を無くした上にキミの家に支障がないように配慮するけどどうするカナ?」
成り行きを見守っていた王弟が静かに言った。それにユージン君が反応し、体の震えがとまった。
「さらに、この件が無事解決すれば、その間にキミが発明した魔導具や魔法薬について全てキミの功績となるよう計らおう。そうすればキミは父親に文句も言われず自分のやりたいことに専念できると思うんだケド…どうダイ?」
「…それ、本当にやってくれる?」
少し逡巡した様子を見せた後、唇をグッと引き結び覚悟したような表情で王弟を睨みつけた。
「あぁ、約束しよう。なんなら誓約書だって書いてあげるヨ⭐︎まぁ君も契約書を書いてもらうけどネ⭐︎」
「…わかった、約束」
そしてジャックがまたどこからか王弟用の誓約書とユージン君用の契約書を用意し、お互い記入した。ユージン君はその控えをマントの懐にしまうと、先程のレシピを手に取り、またブツブツと呟きながら考え始めた。
「…さて、話は戻るけど、ミスティ君の話だと症状はすぐ落ち着くが、その後の体力回復にはそれ相応に時間がかかるかもってことだネ?」
「えぇ、ずっと寝ている状態だったのであれば、体を起こして歩く筋肉をまたつけないと…」
「何か体を支えて補助する魔法や機械があるといいんだけど…ホラ、前世であったアシストスーツみたいな」
「…何それ、詳しく教えて」
ミスティ嬢がいることをいいことに前世であったものをポロリというと、レシピを見返していたユージン君から興味深げに尋ねられた。少し驚きつつも、軽く図解しながら詳細を教える。すると、目をキラキラさせながらそこに必要な情報を補足するように書き足していった。
「ウン、これも材料が揃えば半月で作れるよ。…ねぇ、オジサン。協力してくれるんでしょ?だったら薬の材料と一緒にこれ揃えてよ。」
「このガキ…、だがまぁいいぜ。第一王子がよくなるんだったら協力するさ。それに回り回って今回はライの役に立ちそうだしな」
「フーン、…なら頑張らないとね」
生意気な口で無茶振りするユージン君にイラつきながらも承諾してそう言えば、ユージン君もなぜかやる気を見せはじめた。
「やめてくれ、僕はそんな2人に期待されても返せるモノなんて持ってないよ…」
ニコニコしながらこちらを見る2人を片手で制しながら、上着から飴を取り出し口の中で転がしながらキリキリしだしたお腹を抑えた。
「心配しなくても2人はライに褒められたいだけだよ」
「え?そんなことでいいのか?いつも本当にお世話になってて頼もしいばかりなのにな…」
隣に戻ってきたジャックにそう言われたが、こちらとしては何もできず申し訳ない気持ちになり、何か埋め合わせできるものがないか腕を組み考える。
…うーん、ユージン君にはご飯を奢って、ケイには何か採取が必要なものの手伝い…か、やはり飯を奢るがいいだろうか。
「嘘がない褒め言葉や感謝の言葉はこの貴族社会では、ある意味で宝石より希少だと思う…だから欲しい」
「お、じゃあ俺がお前のこといっぱい褒めてやろうか?」
「…いやだ。オジサンは歳以上にオーラが汚いし、嘘とお金の匂いがするからいらない」
「ウルセェわ!終わったら商品開発には協力してもらうぞ、クソガキ」
2人が歪みあっているのを見つつ、そう思われていたのかと、呑気にも少し感動した。
「…そういえばジャックと殿下も″隠しキャラ″とやらでヒロインのことを好きになんだろ?2人はどんな感じなんだ?」
「え」
ケイに尋ねられ、ミスティ嬢が2人のやり取りをニヤニヤと見ていた笑みを硬直させた。次第に顔色が悪くなり冷や汗を流しはじめた。その様子に王弟が「おや」とニンマリしながら再びミスティ嬢に目を向けた。
「何、隠すようなことなのかナ?ンン?」
「い、いえ…ただ言って私の首が繋がってるか不安にナッタダケデス」
語尾がおかしくなりながらもそう言うミスティ嬢だが、逆にそれが王弟の興味を刺激しているようだ。
「別に処さないから教えてよ。もう私達はそのルートから外れているんデショ?」
「そうですけど…」
チラとこちらをまた見てくる。いやな予感がするが、王弟はこうなるとしつこい性格の持ち主だ。
「言ったほうがいいよ。殿下はこうなると言うまで多分君を返さないから」
「えぇ〜、わかりましたよ。…まず王弟殿下は2周目から攻略対象者として解放されるキャラクターで…その、…ストーリーを通して王位簒奪を図ってる人物でした。なんか、周囲の貴族に担ぎ上げられて。それでジャックさんは、そんな王弟に就き、中盤からヒロインの命を奪おうとする暗殺者として登場してまし……た」
さっきまで活気のあった室内の空気が再び重くなった。そして周囲の影の気配が乱れているのを感じる。…影、しっかりしろ!
「ほう…、この私が兄上に…ネ」
「ダマスカス家の本来の生業を知っているのか…どうします?やっぱり消し…」
「イヤァ〜〜〜ライオネルさん助けて〜〜〜!!」
2人の空気がおかしくなって発狂気味に俺の座るソファの後ろに隠れ、俺の肩にしがみついて盾にしてきた。これで俺の後ろはケイ、ユージン君、カミラさんにミスティ嬢と大所帯だ。
「どうどう、落ち着いてミスティ嬢、2人の冗談だから…2人も大人気ないですよ。自分から聞いておいてかわいそうじゃないですか」
「ンフフ♡悪いねミスティ君、思わず、ネ⭐︎」
「……俺は半分本気だったけどな」
おどけて見せる王弟に対し、まだ鋭さを残すジャックの背中をトントン叩く。
「王弟は兄王の子供ではなく、将来できる自分の子供を王太子にするつもりで動いていたんだけど…、ヒロインに止められてそこからヒロインを意識しだすの。…ジャックさんは途中から仲間になって、高難易度のダンジョンや採取のメンバーとして加わってくれるって感じだったんだもん…私のせいじゃないもん…」
少し年齢が退行したような口調でなんだかんだ説明してくれる内容に、王弟がピタッと止まり少し考える仕草をした。
「…ん〜、そう考えると私もオブシディアン君に攻略されてるってこと…カモ?」
「え?気持ち悪…いえ、どういうことですか?」
「…!殿下、それは言ってはなりません!」
思わず本心がほとんど出かかっていたところを止め尋ねた。ケイや他3人も首を傾げているが、ジャックだけ血相を変え止めはじめた。ジャックが顔色を変えるなんて珍しい。
「だって、私が今″種なし″になってそういう奴らから解放されて兄上の為に動けてるのはキ・ミのおかげだモノ⭐︎」
「………は?」
あまりの内容に思考が停止する。室内の空気も固まっているのがわかる。だが、視界の端でジャックが額に手を当てているのが見え、…今の話が冗談ではないことが察せられた。頭の中でグワングワンと警鐘が鳴り響いている。
「な、何言って…、殿下がそうなったのは熱病だったはずでは?」
「熱病?そんなわけないじゃないカ!本当は薬を飲んだんダヨ⭐︎」
「…は、なんで?」
「ん?覚えてないカナ?学生の頃さっきミスティ君が言っていたように周りの貴族たちが自分を担ぎ上げてきて大変だったことを相談したら「そういうケースの場合子供が産めない身体だと言われなくなったりしますよね〜。そういう歴史ありますし」なんて言ってくれたじゃないカ⭐︎」
プンプン!と腰に手を当て怒ったポーズを見せながら、その場にいる者達の気持ちを他所に話を明るく続ける。
「私なりに後日調べて、そういう歴史は見つけられなかったんだケド、…今思えば前世の記憶ではそうだったのかと思うが、当時は確証となる事実は見つけられなかったが良い案だと思ったんだヨ!それで薬を飲んで、流石に毒だから数日は寝込みはしたネェ。その後、それを言いに行った時の兄上の反応といったら!アワアワ言いながら泡吹いて気絶しちゃって大変だったよネ〜⭐︎…まぁ目が覚めた後、しこたま兄上に怒られたけど、それだけ私を心配してくれてたってわかってとても嬉しかったんダ⭐︎これもキミのおかげだヨ!ありがとうネ♡」
「は…」
怒涛のカミングアウトという名の爆撃をくらってしまい、視界が真っ白になるのを感じた。
「お、俺のせいで王弟殿下の血脈が途絶え…ヒュッ…」
「ライ!!おい、しっかりしろ!!メイド!気付けになる酒かなんか持って来い!!」
「はい!!」
気が遠くなる瞬間ケイに支えられ、メイドさんがバタバタと外に向かう音が聞こえた。
「殿下!絶対本人には言わないでくれとあれほど言ったではないですかッ!!ライは優しいから責任を感じてしまうと…!」
「責任なんて感じなくても良いのに〜、ネェ?」
「いや、流石に引くし。可愛そすぎだよ…」
「サイッテェです!王弟だからって感謝するならこんな酷いこと本人に言わないですって!!王様にもそんな事言うなんて…、人の心はないんですか!そんな変態はこれ以上ライオネルさんに近寄らないで!!」
ジャックから聞いたことがないような怒号が放たれる。それを受け、王弟が未成年2人に同意を求めるも、揃ってドン引きされた上、俺に近寄らせないように先程とは反対に俺の前に立ち、盾になってくれているようだ。
「おい!ライ、しっかりしろ!」
「ライオネルさん!」
「ン〜そんなにみんなに嫌われてるんならオブシディアン君に責任とって貰っちゃおうカ・ナ♡」
「「「「アンタは黙ってて((ください!!))」」」」
みんなが必死に気をやらないように声をかけられてる中、王弟からさらに爆弾を投げられ、ダメージを食らってしまいみんなの怒号の中、いい歳したおっさんなのに情けなくも意識を失うのであった。
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「アララ〜、意識飛んじゃったネ〜ンフフ⭐︎」
「アンタのせいでしょうが!変態!」
「でも…さっきの話ではないが、オブシディアン君はソフィア・アメジス嬢のことなんも思ってないみたいだケド、彼女の方は違うみたいだし、これから楽しくなりそうなんだヨネ〜⭐︎」
「「はっ?!」」
「え!そうなの?!ちょっと!!王弟殿下様!詳しい話を聞かせてくれやがれですわ!!」
「…何?ついてけないよ」
ユージンと意識を失ったライオネルを取り残して、その場の者たちの熱気は高まり、気付けの酒をメイドが持ってきた後も、本人をそっちのけでそのまま話を詰めるのであった。
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