第13話 Wanderin' Destroy
「「「…………はあぁ?!」」」
室内に俺達の叫びがこだました。王弟にいたっては上を見ながらカラカラと笑っている。
「いや〜、私の元で動いてもらっているクォツ君が国に仇なす盗賊サマだって?キミ…実は危険人物だったのカイ?」
「ち、違いますよ!おい、嬢ちゃん…どういうことか説明しろ。…俺が盗賊だァ?何でだ…」
王弟に揶揄うように言われ、ギョッとした顔をブンブン振りながら否定し、焦った様子でミスティ嬢に理由を尋ねた。
「なんかね、過去に市民から奨学制度を使い王立学園に入学するも、その優秀さに嫉妬した貴族の生徒達に陰湿ないじめを受けたのよ。それで酷く荒れて…最初は追い返すこともできたんだけど、いじめの主犯者の1人がね、あなたの妹に目をつけて…その、お手付きにした上に心の病を患わせちゃうの。それで貴族に恨みを持ち、相手を痛めつけ退学になった後、悪徳貴族達を成敗しながらその金銭を奪っていく盗賊のリーダーとして登場するの」
『妹』というワードにドキリとする。確かにケイには3つ程離れた妹がいる。可愛がっていて俺達も学生の頃ちょくちょく会ったことがあった。ケイと同じ白髪を綺麗に長く伸ばしており、明るく気立のいいお嬢さんだった。ケイの方を見ると目がすわっている。
「ほう…。ちなみにその犯人の男の顔か名前はわかるか?」
「確か、くすんだ金髪で体は結構太ってて…なんかナルシストっぽい?感じだったかしら」
「ぷっ…アイツじゃないか?」
首を捻りながら思い出しているミスティ嬢の言う人物像にたまらずジャックがふき出した。
「"アイツ"って誰だよ」
「ほら、ライがいつもの調子でやってたらしょっぴかれた…」
「え?…あぁ、アイツか!!」
真犯人の検討がつかず不機嫌に尋ねるケイにジャックが答えると、思い出したのか剣呑な様子が吹き飛び驚いた表情をしている。…俺は誰かわからない。″いつもの″ってなんだ。
「なぁ、俺まだわかんないんだけど…」
「オイ、それこそライが当事者だぞ。学園でよォ…お前の拳が覚えてねぇのか?」
「えぇ?俺そんな人前で殴るなんて………あ、あぁ!!あれか?!」
思い出した。学生時代、荒れていたケイに出会って友達になりたての頃、ケイにあまりにしつこく突っかかってくる奴がいた。流石の俺も、イライラしたものだ。
そんな中、いつものようにケイに突っかかって来たのを仲裁に入った時、相手が俺に殴りかかってきて1発もらったから正当防衛とばかりに殴り返したところ1発KOしてしまったんだ。
その後、取り巻きに抱えられながら捨て台詞を残して退散していったけど、脅迫めいたその捨て台詞が"少し気になり"、相手の身辺を調べたら、なんと人身売買に手を広げている悪徳貴族だったことが判明したんだ。
どう訴えればいいか3人で考えていたところに当時高学年に在学していた王弟に見つかり、そのまま王弟と協力して結果的にそいつだけじゃなく家丸ごと処罰することになったんだったったか…。
「なんだよ、今からでも正攻法で潰してやろうかと思ったのによォ」
ニヤニヤ笑いながら冗談話にしているケイに胸を撫で下ろす。ちなみに妹さんは、すでにケイの仕事関係の人と結婚し、去年3人目の子供が生まれている。
室内の雰囲気に「?」を浮かべているミスティ嬢に事情を説明する。
「よかったわ!なによ、じゃあライオネルさんがケイさんを攻略済みってことね。それじゃあヒロインは正攻法では材料が手に入らないわけね」
安堵しながらそうこぼした言葉に苦笑し、ケイは「いやん♡」というポーズをふざけて取っている。
「なぁ、もう1回その内容を見せてくれるか」
ケイが改めて、自分が関わる素材を確認するべくレシピを見てしばらく考えている。
「…ん?この材料ってもしかしてローゼリア国付近で採取できる物だったりしないか?」
「そう!ローゼリア国とこのアダマス王国国境付近で2年に1度起こる日食の日にしか採取できない花なのよ。でも場所が国境の険しい山奥の高地で採れる物だからなかなか採取できないそうよ」
「見た目はどんな感じだ?」
「確か…その国境付近の山で採れる青い鉱石に寄生してその魔力を吸い取り成長しているの。それで日食の夜にその魔力と同じ青い光を放ちながら開花すると云うわ」
「なるほどな。…殿下、もしかしたら入手できるかもしれないですよ」
「…っ、本当か?」
合点がいった様子でニヤッと笑い王弟に話を向けた。
「最近、俺のギルドに人づてで紹介された奴で、魔術や魔法薬に使用する珍品を集めている行商がいるんスよ。その範囲は近隣の国まで延ばしていて、その中に確かローゼリア国や、もちろんこの国も含まれている…そして、確か商品の目録にこの花もあったのを記憶していますよ」
その場に安堵した空気が流れた。だがふと気になったことを尋ねる。
「ミスティ嬢。ゲームの中でこの薬を調合していたのは誰だったんだい?」
「えっと、確か好感度を上げた攻略対象のユージン・オニキスが協力して作ってくれてたわ。魔力の保有力はあるのだけど魔法を使うことが苦手で魔法を扱うより魔導具や魔法薬を作成する才能に長けているのよ。それに悩んでいるところをヒロインに助けてもらう、のような流れなんだけど…、ライオネルさん達も面識はないと思うし、確かヒロインの逆ハーレムメンバーに名前があったから難しいわよね」
「あぁ、それなら大丈夫ダヨ⭐︎…じゃあ、通してもらえるカナ⭐︎」
気を落としたように言うミスティ嬢に、王弟が指をパチンと弾いて応えた。どうやら先ほど部屋の周囲を警護していた影に指示しているようだ。間も無く扉をトントンと叩く音がした。
「失礼します…うわ、人が多い…」
おずおずと扉から入って来たのは、今話していた渦中の人物であるユージン君だった。
「え?!ユージンがなんでここに…どういうこと?!?」
「元々ここに用事で来る予定だったんだけど、キミがいきなり突撃してきたものだから一旦待っていてもらっていたんダヨ」
「初対面で人の名前を呼び捨て…、あっライオネルさん、どうも。…何ですか、この女」
予期せぬ登場人物に目を白黒して混乱しているミスティ嬢に王弟が説明する。さっき笑っていた時に上を向いてたのは、どうやら影から合図があったようだ。
いきなり見知らぬ女性に呼び捨てされ気味悪がっていると、俺に気づき軽く挨拶しつつも俺の後ろに隠れ悪態をついた。執務室の人口がさらに増え、なんだか空気が薄くなってる気がする…。
「先日言われた″モノ″作って持って来ましたよ、確認しますか?」
「わぁ、本当かい?君は本当にすごいね…。どれどれ…」
ユージン君が持って来た厚手の大きな袋から魔導具を取り出し、目の前の机に並べていく。
「なんだァ、こりゃあ…」
「…うそ、これってまさか」
「そう、ミスティ嬢は前世でお馴染みかもしれない″カメラ″と動画が撮れる″ビデオカメラ″だ」
友人や王弟が不思議そうに見つめる中、ミスティ嬢が信じられないモノを見たかのように口元を抑えている。簡単にユージン君にこれらの道具の操作方法を教えてもらい、俺から使い方を説明することにした。
「まず、この″カメラ″だけど、こう構えて…はい、2人ともポーズ取って」
「「え?」」
カシャッ
「なんだよ、絶対変な顔で写ってるぞ」
「だから、なんなんだよこれはッ!」
「まあまあ…。じゃあお手本にミスティ嬢、協力してもらえるかな?」
「任せて!可愛く撮ってくださいよ」
ケイからのクレームを聞き流しながらミスティ嬢を撮影する。流石にわかっているミスティ嬢はソファで絵画のような佇まいに正し、聡明そうな表情を決めてくれた。
カシャッ
「…よし!こうやって撮影をした後、専用の用紙に印刷するんだけど」
「これはこの道具の中でココを押せば印刷して出せますよ」
説明途中ユージン君が横から声をかけボタンを押すとカメラから2枚の用紙がジジっと音を立てて出てきた。
「わ!インスタントカメラか!!」
「…?なんですか、それ」
「わからず作ったのかい?!君は天才だな!!」
「…!それほどでも」
手放しに褒めると、少し驚いた後まんざらでもないように頬を高揚させ口元を緩ませている。
「…ライオネルさん、天然人たらしなのかしら。こんな調子でここにいるみんなは…もしかして攻略されてる?」
「まぁ、…そんなところだろうね」
ミスティ嬢の呟きにジャックが遠い目をして返す。俺はそんなやり取りを知らず徐々に浮かんでくる写真をケイと見つめていた。
「…よし、こんなところだろうか。ほら、こんな感じで絵とは違い、撮影した場面を切り取るようにこの用紙に焼き付ける道具なんだ」
「こ、こりゃあ…すげぇな」
写真が完成し全員に見せる。ミスティ嬢とユージン君を除いた全員が驚いた表情をした。
「それでもう1つは、今ユージン君にすでに撮影してもらっていたんだけど…こんな感じで、あった出来事を映像…さっきの写真が動いたモノで残しておける道具なんだ。」
「事前に聞いてはいたけど、これはすごい発明ダネ…」
王弟もユージン君が撮った映像を見て、流石のことに唸っている。
「こんなものがお前の″前世″ではあったのか…」
「あぁ、それでこれを学園のいたるところに設置しておけば防犯にもなるし、…ソフィア嬢の冤罪を防ぐためにも役立つかなと思って頼んでたんだ」
「本当にソフィア嬢のことばかりねぇ〜、ふ〜ん…」
「…あ〜、そういうのじゃないからね」
ミスティ嬢がよからぬことを期待しているのでしっかり否定しておく。それにつまらなそうにしているが、流して話を進める。
「この2つをケイとユージン君で連携してもらい、学園に取り付ける分を早めに量産してもらいたいんだけど…できそうかな?」
「あぁ、材料が分かればそれを調達するのは問題ないが…、俺としては他の発明をするなら一つ噛ませてもらいものだな」
「こっちも作る分には問題ないよ。…でもオジサンだけ利益になるならヤダ。ライオネルさんの役に立つならやる」
「随分懐かれたものねぇ…」
ケイがユージン君にウィンクして目を向ければ興味なさげに返され、ケイがこめかみをピクピクさせている。そしてユージン君の様子にミスティ嬢が感心しているようだ。…ただ素直に褒めてるだけなんだけどなぁ。
「さて、ユージン君。別件で悪いが、これに書かれている薬なんだけど…キミ、作れそうかネ。あいにく今は材料と簡単な作り方が書かれたものしか手元にないが…どうカナ?」
「え?薬?」
王弟にそう言われ、あまり状況が飲み込めぬ様子でひとまずレシピの書かれた紙を見て思案する。
「…ウン、これなら材料や道具が揃えば作れると思う。こんな薬あるのか…」
「ちなみにどれくらいで作れそうだネ」
「ん、…おそらく早くて1ヶ月、遅くても1ヶ月半ってところですかね。まだちゃんとしたレシピがない状態なのでなんとも言えないんですが、書かれている材料の1つが多分だけど少し毒抜きしないと使えないモノだと思うから」
目を細め口元に拳を当てながらブツブツ思案した後、しっかりと受け答えする。先程までの人嫌いな様子が嘘のようだ。自分の分野の話になると気にならなくなるようだ。
「そうなると10月から11月カ…。ミスティ君、薬が無事効いたとして、体力回復までの期間や副作用のようなものはわかるカネ」
「副作用は特にないですわ。この薬は、例えるなら魔術回路を魔力に合わせてゴムのように伸ばし、その繊維を強化しつつ馴染ませる作用なんです。ただ、ずっと寝たきりとなりますと、物理的な筋力の強化やリハビリは必要になるかと…。」
「なるほど、確かにそれも考えないとね」
「…ねぇ、この薬を作って誰に使うの?」
今後について思い悩んでいた室内の空気が一瞬止まった。
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