第12話 今すぐTell Me
ミスティ嬢が叫んだ後は王弟の独断上だった。
叫んだ直後、王弟が素早く影に指示をし、ジャックの執務室周りを封鎖、ミスティ嬢を座らせ、執務室のデスクから用意した書類をジャックから受け取り、守秘義務と持っている情報を詳らかに教えないと処すよ⭐︎…という内容の契約書を書かせていた。…恐ろしい程美しい笑顔を湛えて。
メイドさんにも守秘義務の契約書は書かせていた。可哀想に…とばっちりにも程がある。
「わ〜ん!王弟がこんな怖いなんて聞いてないわよ!!どういうことよ〜ライオネルさん!!」
「ンッフッフ、元気な娘だネェ…。そんなことを言っていると処すヨ?…さぁ、今回ライオネル君にどういうことを伝えようとしていたんだネ?…正直に答えた方が良いと思うナ⭐︎」
俺に向かい悪態をつくミスティ嬢に、尋問をするかのように圧をかけている王弟という図に俺達は同情を覚えたが、自業自得という言葉も頭に浮かんで何もできなかった。飛んで火にいるなんとやらで助けなんかしたらこちらも巻き込まれること必須だからな。まぁ、ジャックは王弟の部下だし、ミスティ嬢とメイドに席を譲り俺の後ろに移動したケイにいたっては、この状況を楽しんでニヤニヤしている。
俺達が助けないことを察したミスティ嬢は、不貞腐れたように口を尖らせ、こちらを見ながら話し出した。
「…この前ライオネルさんと話していて、王太子が″半年前にすでに攻略されているのが気になる″ことを私が言ったことは覚えてるかしら」
「あ、あぁ…そういえば言っていたね」
話しを進めながらも、見向きもされていない王弟が気になりそちらに目を向けると、とても迫力のある笑顔でとりあえず話を続けろと合図された。ミスティ嬢はそれに気づいていないようで王弟をあくまで無視するようだ。…恐ろしい度胸の持ち主だ。
「それで思い出したのよ。…なぜ半年前が無理だったのかを」
少し前のめりになり続ける。
「王太子の最後の攻略条件の″第一王子を助ける秘薬を手に入れる″っていうイベントが婚約破棄から2ヶ月前位に発生しないと攻略できないからなの…ってキャアッ!!」
「…おい、その話をどこで聞いた。…その話が嘘ならお前の首だけじゃすまんぞ」
話を聞いたとたん彼女の向かいに座っていた王弟が身を乗り出し、前のめりになっていた彼女の顎を強く掴んだ。メイドが慌てて止めようとするが、王弟から発せられる威圧に「ひっ…」と声をあげて手を引っ込めてしまった。
「っ殿下!いけません、彼女は先ほど伝えたように″転生者″でこの国のことを″物語″として知っているだけです!」
「わからんではないか。件の娘のようによからなぬことを企んでるかもしれんのだぞ。…何を根拠に私に申している」
ガタっと立ち上がり、たまらずとばかりに王弟に声をかけると、彼女の顎を掴んだままぐるりとこちらに顔を向け圧をかけながら問うてきた。
「…それは、ハロルド君のために動いている彼女を信じているからです。それにさっき聞かせた録音にあった″秘薬″について彼女は知っているようですし、急ぎ対応すべきかと」
「…ハロルド?…そうか、カーネリアン家の子息の婚約者かい、君は」
思いあたったのか顎を掴んだまま彼女を覗き込む。
「…っそうよ!さっさと離しなさいよ!王弟だからってセクハラで訴えてやるんだから!」
そう言いながら、当の本人は王弟に怯まず威嚇し返した。…すっごいな、この子。俺の隣に未だ座っているジャックは「あれが、近衛騎士団長長子の婚約者とは…世も末だ」なんて辛辣なことを呟いている。
「…あ〜、嬢ちゃんに完璧に肩を持つ気はサラサラないが、嬢ちゃんは良からぬことは少なくとも考えてないと思いますよ」
「ほう、何を根拠に…」
頭をかきながら告げるケイの言葉に対し、王弟が意外そうな顔をしながら問うと、ケイはミスティ嬢を見て複雑そうな顔をした。
「俺の″鑑識″のスキルで嬢ちゃんを見ると、『転生者』『馬鹿正直』というのと…『ハロルド・カーネリアンの守護者』、…えっと『推ししか勝たん』?って書いてあるからな。最後のは意味がわからないねェけどな」
「なるほど、そんなことがネェ…」
「い、いやあああああああ!!何見てんのよえっち〜〜〜〜!!」
「ふむふむ、婚約者のハロルド君が弱点ネ。最初はどうしようかと思ったけど、案外御しやすいみたいでよかったワ♡」
知られたくないところまで読まれてしまい、顎を掴まれつつも顔を真っ赤にしながら泣きじゃくるミスティ嬢。…うわぁ、これは墓まで持っていきたい内容だな。
いつもの調子に王弟が戻りミスティ嬢を掴んでいた手を下ろすことを確認し、ホッと息をついた。
「ケホケホッ…録音って何よ?」
涙声で咳き込みながら状況の説明を促されたので、王弟に目線で確認し了承を得た後、先ほど3人に聞いてもらったローズクォツ嬢の録音を再生して聴かせた。
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「うわ…エグいわね。本当だったらヒロインってすごい性格の良い子なのに、実際転生者になるとこうも違うの…」
録音を聴かせた後、ミスティ嬢はヒロインのあまりの様子に顔を歪めドン引きしている。
「あぁ、それでこの内容を解読して迅速に対応できたらと思っている。その為にこの場にいる彼らに僕が″転生者″だということを伝えたばかりのところに君が突撃してきたってわけさ」
「そうだったの、それは申し訳なかったわ。でもできる限り私も協力するから安心してちょうだい!」
そう言うと先ほどのしょげていた雰囲気はどこへやら、胸をはり得意げにはりきっている。「安心できねぇだろ…」と俺の後ろに突っ立っているケイの呟きは聞かなかったことにしよう。
「それじゃあ…、まず″秘薬″について聞かせてもらえるかな」
「えぇ…と言っても、第一王子のことは王弟殿下はともかくライオネルさんとお二方も把握してると思っていいのかしら?」
少しうかがうように尋ねられ、俺とジャックは頷いたが、ケイは「病気という噂は聞いたことがあるが、詳しいことは知らねぇな」と首を横に振った。
「…″王家の血の呪い″とも言われる病でネ。王族は保有する魔力量が多いことは知っていると思うが、稀に膨大な魔力量に対してそれを排出する身体の魔術回路が追いつかない為に身体を弱らせ、最悪命を落とす病があるんダヨ。」
ケイの様子に重く口を開き、王弟が説明する。
「特に血の濃くなる長子がなるケースが多い。発症時期は成長期にあたる12〜14歳位が多く、それもあり王族は長子と次の子の歳が離れているんだ。幸い私や兄は大丈夫だったが…、次の世代の第一王子である甥にその病がでてしまった。次期賢王と期待されていたが、成長期のちょうど学園入学を前に魔力量が桁違いに膨れ上がってしまってネ…。現在王太子である弟王子のサイラスも、私と同じく兄を慕ってた分当時は見ていられなかったヨ。その頃まだ5歳位だったからネ…。」
当時を思い出してか、少し目を伏せる。
「…その次の年に時期王太子としてソフィア嬢と婚約を結ぶことになったんダ。憧れていた兄の代わりになるべく必死に勉強しているのに、それ以上に優秀な婚約者を見て焦りと嫉妬を感じていたんだろうとは思うヨ」
「そんなことが…」
ケイとそこまでの裏話を知らなかったミスティ嬢はそれぞれ驚いた様子を見せている。そんな2人を苦笑するように微笑んだ後、スっと為政者の顔となり話を続けた。
「だが、だからといって隣国に情報を流しているとなると話が別だ。この件が終われば、サイラスにはそれ相応の沙汰が下されるだろう。そうなれば、継承権は第一王子に戻る。その際にこの病気が治せるのであればそれ以上のことはない。…だから、どうかこの国を思うなら教えてくれないか」
そう言うと、ミスティ嬢の正面に座っている王弟は頭を下げた。
「頭を下げないでください!!元はといえば私が突撃したのが悪いんですから!喜んで教えますから!!」
「…悪いとは思ってるんだね」
「ムッ…なんか言ったかしら?」
彼女の言葉に思わずツッコミが漏れると頬を膨らませてこちらを睨め付けている気配を感じ、瞬時に目を逸らした。横にいるジャックと目が合い、やれやれと苦笑された。…解せぬ。
「秘薬の作り方ですが、結構複雑な手法なため時間はかかりますが、詳細につきましては書面でまとめたほうがいいかと思います。なのでよろしければ後日お送りする方法でできたらと存じますがいかがでしょうか」
「あぁ、それで構わないヨ」
「それで、材料なのですが…それがこちらになっております」
そう言い見せたのが、材料と効能、簡単なレシピが書かれた一枚の紙だった。それを男4人で覗き込んでみる。材料は希少な物も含まれているが、頑張れば手に入るような物や身近なものだった。…1つを除いて。
「なるほど、材料は意外と手に入りそうなものなんだね。…でも1つが見覚えないな」
「えぇ、それがポイントなの。でもこれも条件が揃ってるから手に入れられると思うわ」
「え?どういうことだい」
「実はこの最後の1つの材料はイベントで手に入る材料で…そのイベントを起こすキャラクターが、ここにいるケイさんなのよ!」
「え?俺ェ!?」
いきなり自分を名指しで呼ばれ、室内の注目を集めてしまい、素っ頓狂な声をあげた。
「そういえば、ケイは隠しキャラと言っていたけど学生の彼女とどうやって出会うんだ?」
「それがね、あの…怒らないかしら?」
「怒られるようなことなのかよ…まぁ、もうここまでしておいてこれ以上のことはねぇと思うし、怒ることもねぇから安心しろ」
素朴に気になり俺が尋ねると、少し言葉を濁してこちらの様子を窺ってくる。ケイは呆れながらも話を促した。
「あのね…、ケイさんはゲームだと、……"盗賊"で登場するのよ」
「「「…………はあぁ?!」」」
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