第11話 友情という名のもとに
ジジ……プツッ……カチャ。
盗聴していた電子音が途切れ、手元のボタンを押した金属音が静寂を満たす室内に大きく響いた。
「…色々聞きたいことはあるが、″テンセイシャ″っていうのはなんだ」
しばらく場に重苦しい空気が包んだ中、最初に声をあげたのはケイだった。しかも核心をつく問いに喉を掴まれる心地がしたが、この録音を3人に聞かせると決めた時点で腹は括っていた。
「…あぁ、これは俺にも関わることだから、しっかり説明するよ」
いつもと様子の違う俺を見て、友人2人は表情を固くし、王弟は読めない表情でこちらの様子を観察するように見ている。そんな3人を見つめ、一つ息をついた後、説明をした。
″テンセイシャ″とは″転生者″、つまり″前世の記憶を持ち生まれ変わった者″ということ。このアンという令嬢はそういう人物で自分自身もそうだということ。そして、今生きてる世界は前世の″乙女ゲーム″という物語のようなモノと類似しており、自分は知らないが、このアンという令嬢はその内容を知った上で、学園内で物語と同じように男性を侍らせていること。加えて、王太子を利用しながらその物語の続編に関係する隣国の王子にまで手を出そうとしており、それまでに邪魔な存在であるソフィア嬢を排除しようと動いていることを伝えた。
厳しい顔をした3人の顔を見てしまい、申し訳なさから思わず下を向いていると、
「…ほぉ、じゃあお前もこの娘と一緒で俺達を″物語の登場人物″としか見てねぇっていうことか?」
「そんなわけないだろ…っ!最近までそうだということも知らなかったし、知ったとしてもずっとここで生きてきたんだ!だから2人に前世の記憶があることを話す事自体言いたくなかったんだ。2人の友人をもしかしたら失ってしまうのが…こんな歳だからこそ、怖かったんだよ」
低い声でケイから言われた言葉にバッと顔を上げ、声を荒げながら反論した。それと一緒に今までの気持ちも王弟がいるというのも忘れぶちまけてしまった。
2人の前だけでなく前世も含め、人前でこんなに声を荒げるのは初めてかもしれない。
「…まぁ、そうだろうな。おい、ジャック。コイツやっと尻尾を出したぞ、こんな歳になってな」
「あぁ、やっとだな。…全く、″そんなこと″をずっと深刻になって黙ってたなんてね」
「…え?」
こちらの様子をじっと見つめた後、アッサリと自身の言った言葉を否定し、ジャックに声をかけた。それにジャックもやれやれとばかりに応え、こちらに呆れたようなどこかホッとしたような表情をよこした。
「つまり、お前が″何か″を抱えていたのはずっと昔から俺達は知ってたってワケよ。だがまぁ、それが前世の記憶を持ってるなんてトンチキな話だとは予想外だったがな。…だからといってそのことを信じないなんて誰が言ったよ。」
「え、でも…。」
「別に俺やケイはライを追い詰めたいワケじゃないよ。だた、こんなになる前に言ってもらいたかったってだけだよ。…俺もそう思う」
ケイが少し不機嫌そうに言ってくる言葉に反論もできず詰まっていると、ジャックが優しくケイの言葉に補足した。それにケイも一つ頷いて座っているソファから身を起こして続ける。
「そうだ。お前はなんでも自分の気持ちを″少し″という言葉で抑え込みすぎてんだよ。俺達は何年付き合ってると思ってんだ!前世のお前は知らなくても今世のお前はずっと見てきて知っている。…まぁ前世もどうせこんな調子で抱え込んでたんだろうがな。でも俺達は遠慮なんてしねぇでどんどんぶつけて頼ってもらいたいし、お前とそういう関係でいたいんだよ」
ケイに強く言われ、ガツンと頭を打たれたような気持ちになった。少し呆然としたままジャックに目を向けると、優しくはあるが真剣な眼差しをしながらこちらに頷いてみせた。
「……っ、あ、ありがとう…っ!」
2人の叱咤と激励にお礼を言う終える前にいい歳して声が嗚咽に沈んでしまった。その様子を2人とも優しく落ち着くまで見つめ隣にいたジャックは軽く背中を撫でてくれた。
ケイが言っていたように前世では、過酷な仕事で友達や周りの人との縁が遠くなり、相談する相手もいなくて1人抱え込んだ影響で酒やタバコに走り、結果それが死因となってしまった。だから、今世では前世で手放してしまった一つ一つを大切にしていきたいと思い、また無理をしてしまっていたようだ。こんな俺に気づいてくれるこの2人の友人を大事にしていきたいと心から思った。
「ん〜、良き友情シーンだネ⭐︎そろそろ本題に入っても大丈夫カナ?」
こちらが落ち着くのを待っていてくれたように王弟から声がかかる。
「すみません、殿下。もう、大丈夫です」
「ウン⭐︎それじゃまずこのローズクォツの娘なんだけど…、先ほどの話を簡単にまとめると『この国の未来を君達の前世にあった予言書のようなモノで知った上でこの国を混乱させようとしており、さらに隣国の王子と懇意にしたいがためにこの国の機密情報を流し危険に晒している』ということカナ?」
「…はい、その通りです。」
改めて王弟の口から現在の状況を聞かされ、その事実の重さを感じながら是と返した。
「まったく、本当にお前の『少し』は全然少しじゃねぇんだよな。今度から事態が大きくなる前に情報をしっかり共有しろよ。」
そんな俺の様子に悪態をつきながらケイが釘を刺してきた。でも俺を心配してのことだとわかっているので、その優しさに思わず苦笑しながら「わかった」と返すと、満足したように笑って返してきた。
「だけど、この″テンセイシャ″という存在は正直、危険ダネ。ライオネル君はこんな性格でこちらの味方とわかっているからいいが、今回のことを鑑みるに見つけ次第監視下に入れる必要がある。ただそうするとして、今後どのように探せばいいのか…」
珍しく王弟が真剣に考え込んでいる。″こんな性格″ってなんだ、と少々引っかかるところはあるが、確かに少なくとも国内で″転生者″がいた場合、少なからず最初のうちは監視が必要であろう。なぜなら、アン嬢のように今後の未来を知った上で暗躍する輩が出る可能性が考えられ、国の危険因子になりかねないのだから。
「あぁ、それなら俺わかるぜ」
「「「は?」」」
みんなで考えているとケイがサラっと言ってきた。
「え?そ、それってどう、」
「『どう』ってそりゃ、この『鑑定』スキルで見えるぜ。ちなみに、教会でスキル認定されてからお前の鑑定情報でもずっと見えてるぞ」
「「「…はぁ?!」」」
衝撃の事実に再び3人の声がかぶる。
「じゃ、じゃあ今まで知っていたのに黙ってたのって…?」
「ん?意味はわからなかったけど、ライがそれがあるからって変なことしたことなかったし、いつか知っているのなら教えてくれるかなってな。まさかこんな大事になるなんてなぁ!あはははは!」
そう言いながら楽しそうに笑う友人の姿を見てがっくりと肩を落とした。お、俺がずっと悩んでいた意味っていったい…。
「クォツ君」
「あ?なんスか?」
「後で契約書にサインしてネ。じゃないと…処すヨ⭐︎」
「…げぇっ!ま、まさか国民全員やれ、なんていうんじゃ…っ」
「ノンノン⭐︎"今すぐ"じゃないヨ。君の仕事に支障がでない程度に″徐々に″…だヨ⭐︎」
「結局やんじゃねーか!!」
王弟からいい笑顔を向けられ、顔色を悪くし脂汗を垂らしながらうめくケイを見て、巻き込んでしまい申し訳ない気持ちにもなりつつも改めて「今度からちゃんと相談していこう」と固く誓った。
「ところで、ライの前世ではどんなものがあったんだい?」
「え?どんなものって」
「あ、俺も気になる!」
ケイの様子を気にせず王弟がこちらに尋ねてきた。それに今さっきまで絶望した顔をしていたケイも身を乗り出し反応した。
「どうせなら今回の件が終わったら打ち上げにライの前世で美味かったものとか食べてみてぇな〜!」
「ライは前世の食べ物でこっちでまだ食べられていないものってある?」
ジャックに言われ考えてみる。
「う〜ん、そうだなぁ。…『寿司』かな?」
「スシ?」
「うん、"米"って穀物を炊いて"酢"って調味料を混ぜ込んだものに、新鮮な生の魚を短冊状に薄く切ったものを、…こう、一口サイズに握ったものなんだ。それを最後に"醤油"っていう調味料をつけて食べるんだ」
身振り手振りをしながら寿司について説明した。3人とも想像しているようだが思いつかないようで少々驚いた顔をしている。
「聞いたことないネ…」
「俺もないな…」
「生魚ってことは海に近いところに同じような食べ方があるかとも考えたが…。取引している行商の話でも聞いたことねぇな」
みな初めて聞くモノに類似したものがあるか首を捻って考えくれているのを見て頬をぽりぽりとかきながら苦笑する。
「まぁ、そうだよね。だから今世では諦めてるんだよね…」
「…あるわよ、『寿司』」
「「「「?!」」」」
その場の者ではない女性の声に一同声がする方に目を向ける。声がした扉の方を見ると不敵な顔でニヤリと笑うミスティ嬢と無表情でどこか呆れた様子のカミラというメイドが佇んでいた。
「え?ミスティ嬢?!なんでここに…」
「えぇ!先日話したことで思い出したことがあって今すぐ伝えたくてライオネルさんの自宅に直撃、いえ伺ったら宮廷に向かったと聞いてね。お父様とライオネルさんの名前を使ってここまでたどり着いたってワケよ!」
「申し訳ございません、オブシディアン様。この状態になったお嬢様は止めることができず、問題を起こさないように手を回すことしかできませんでした」
大変だったわ〜なんて言いながらドヤ顔をしている横でメイドが可哀想な位に顔色を悪くし横でぺこぺこ謝っている。
「それだけの手がかりでここまで来るなんて大した胆力を持ってんな、お嬢ちゃん」
ケイが呆れつつも面白いものを見つけたような様子でミスティ嬢を褒める。やめてくれ…、調子に乗ってしまう。
「そうでしょう!この行動力を持ってして今や寿司はアゲット領で知る人ぞ知る珍品として…って貴方は!!」
途中まで自分の武勇伝を説明しようとしていたミスティ嬢がケイに目を向けた瞬間硬直した。そしてキョロキョロと室内にいるメンバーを凝視して驚いている。…これは嫌な予感がする。
「どうして隠しキャラが揃ってんのよ〜〜〜〜〜?!!」
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
評価やブックマークをいただけますと励みになります。




