第10話 NOT TRUE LOVE
昼の一波乱があった後、ヨボヨボと自分のデスクに戻り、約束の時間まで仕事をこなす。その業務の中には、騎士科の夏休み中の課題の採点もあり、よくできた子にはニコニコ顔の花丸を描いてあげている。前世から落ち込みそうな時になると手癖のように描いているそれは、友人や生徒からは笑われたりするが個人的には気に入っている。
約束の時刻より少し前の時間になると、受付から電話がきた。客人が来ており、生徒指導室まで案内したから対応をお願いしたいとのことだ。
仕事を切り上げ、歩調を早め生徒指導室へ向かった。生徒指導室は、俺のいる職員室から8分程歩いた場所にある。
「失礼します」
軽くノックをし、中に入ると目に入ったのは、事前に連絡は受けていたものの予想外の大物だった。
「初めまして、オブシディアン殿。私は王国魔術師団長をしております、ユーシス・オニキスです。隣にいるのが息子のユージン・オニキスで、今回はこの子からの話がありこちらにうかがいました。この度は私どもの予定に合わせてお時間を作っていただきありがとうございます」
そう丁寧にご挨拶をしてくれている隣で、息子のユージン君は黒いマントのフードを目深に被り不貞腐れたような顔をしている。ハロルド君と違って、歳相応か、それ以下な雰囲気だ。
「こちらこそ、先に手紙をいただけ助かりました。それで、お話しというのは…」
「その前に、ちょっと失礼いたします」
こちらが話を振ろうとしたら遮られ、何かブツブツ唱えた後室内に魔法を展開した。
「こ、これは…防音結界ですか?」
「はい、いきなり申し訳ない。…これからお話しする事柄は、貴方にお伝えしなくてはならない反面、我が家にとっては″恥″を見せなくてはいけないお話になるので。失礼を承知ながら、周囲に聞こえぬよう防音結界を張らせていただきました」
「は、はぁ。…驚きはしましたが、実際目にしますと実に見事なものですねぇ」
「ありがとうございます」
困惑しつつも、あまりの手際と見事な結界を張るところを目の当たりにし素直に口にすると、なんとも言えぬ顔で苦笑された。息子のユージン君はというと、俺の様子をじっと見てきている。…な、なんだこの子。
彼の様子に当惑しつつも改めて話を促す。
「…それで、ご子息は掲示板を見てきたのかと思うのですが、どういったお話でしょうか」
「…えぇ、本当は気が進まないのですが、直接本人の口から説明させていただきます。さぁ、挨拶しなさい」
「…ども、ユージン・オニキスです。この前処分を受けてた騎士科の奴らに捕まってアンタの話をしてしまったのがこの僕だ。だから、…ごめんなさい」
「あぁ!君だったのか。そんなことよりケガは大丈夫だったかい」
小さい子を諭すように父親に促され口にした言葉に驚いた。この子だったのか。しかし、話だと少なくとも1発はもらっていそうな感じがしたため不安になり尋ねる。すると、キョトンとした顔をした後、無表情だった顔を緩めた。
「大丈夫だよ。顔を殴られて痕が残ったけど…。ほら、この通り」
目深に被っていたフードを軽くずらし、グイッと顔を近づけ殴られたと思われる頬を見せてきた。
うっ…、顔が良い…。忘れてた、この子も攻略対象だったと思わぬイケメンを浴びてしまい眉間に力を入れてしまう。
「…確かに、綺麗になってる。もしかして魔法かい?」
「うん。でもやられた日はすぐ治さないであいつらの処分が決まる前の証拠として残して先生に診断書付きで見せてやってから治したよ。もう2度とあんな馬鹿とは顔を合わせたくないからね。そんな顔して心配なくていいよ、優しいんだね」
そう言うと、片側の口角だけ引き上げニヤリと笑ってみせ、それを見た父親は額に手を当てた。…なるほど、なかなかしっかりしている…というか変に手を焼く子なのだろう。魔術師団長の気苦労を察し、一瞬意識を飛ばしかけた。
「…うん、そうか。とりあえず無事でよかった」
「うん」
…静寂が満ちた。おいおい、話に来たんじゃないのか?と父親に目を向けると首を横に振る。いつものことみたいだが、俺を巻き込むな。
「そ、それで僕にしてくれる話というのはどんなことなんだい?」
仕方なく、頬を引き攣りながら微笑んで見せ尋ねる。すると、マントの裏ポケットから手のひらに収まる程度の何かを取り出した。
「…?これはなんだい」
「うん、アンが胸に付けているブローチから話していることを受信して聞ける魔道具」
「え゛…そ、それってつまり…」
「…そうなんです。この愚息は懇意にしている令嬢を盗聴していたのです」
思わず変な声を出してしまいながら促すと、ゲンナリと諦めたような表情で父親が説明した。
「別に好きなわけじゃないよ。彼女、他の人とは違うオーラの色をしているから気になって近くにいただけ。それで、普段何を考えているとあんなオーラをしているのかと思って、女の子が好むデザインのブローチに魔鉱石と装置を仕込んで、この受信機で録音しながら確認していたんだ」
「…この子は、人の魔力の色がオーラとして視認できるのです」
父親の説明に"心外"とばかりに不機嫌そうに自分のした犯罪の手口を詳らかに教えてくれるが、ジト目で父親の方を見やるとさらに歳をとったような様子で話の補足をしていく。…庇うことを諦めているらしい。この後王弟にも話さなくちゃいけないと考えると良心が少し痛む気がする。
「それで、その中の内容で、外に出しちゃいけない情報じゃないかというものがあってパパに相談してから貴方のところにきたってわけです」
「なるほど」
「すみません、ライオネル殿。…だが、まずは私の顔を立てるという名目で構わないから一つ聞いてもらえるだろうか」
まだ犯罪的な内容に納得しかねている俺に、引き続き申し訳なさそうにしつつも、深刻な表情で懇願してきた。
…そこまで言われてしまうとひとまずは納得せざるを得ないと思い、つかえている気持ちを無理矢理飲み込み、一つ頷いて見せ了承した。
それを確認し、ユージン君が手元の装置の再生ボタンをカチっと押した。
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