第2話 崩壊の引き金と決意
封印区画最下層には、基本的に出口、入口という概念が存在しない。
外部からの観測者が出入りする場合と、その観測者による許可が出た場合のみ、中にいる存在が外へ出られる仕様になっている。
つまり、だ。
「ハァ……ハァ……! ちくしょう……ちくしょう……!」
内部にいる存在、俺がいくら中から攻撃を加えようと、その『扉』は開きはしない。
どれだけ暴れようと、それは体力をただ消耗するだけなのだが、今の俺は冷静な判断ができないでいた。
眠っている最中にナシャラがユフの連中に連れて行かれたのだ。
あり得ない。
本当にあり得ないことだった。
いつもなら、俺は自分の神鎖をナシャラに結び付けているが、今日に限ってそれが解けてしまっていた。
なぜなのか、それがわからない。
ユフの連中に解かれることもない。
俺の鎖はそんなヤワな作りになっていないし、何より眠った程度で解けるものでもなかった。
考えれば考えるほど、パニックに陥ってしまう。
頭の中に浮かぶ疑問符が尽きない。
その疑問符が増えれば増えるほど、それは俺の呼吸の感覚を小さくさせていった。
荒く、空気を吸って吐く中、封印区画最下層から出られる方法を模索する。
ただし、その方法を模索した結果がどれも力技になっていく。
冷や汗が浮かび、最悪な状況が脳を支配していった。
……ナシャラ……!
彼女が『アレ』に耐えられるとは思えない。
『アレ』は、神鎖を多く持つ俺でないと生き延びられない拷問だ。
それに、心臓と左目なんて、そんなところの神鎖を奪われようものならどうなるか。
答えは簡単だった。
死ぬ。
ナシャラが、死んでしまう。
「ッぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
観測者がいつも開けるゲート。
そこに向けて俺は色彩の無い魔法陣を発生させ、攻撃し続けた。
ただし、当たりの手応えは皆無だ。
壁が壊れるとか、天井が崩れるみたいな、わかりやすい効果はまるで望めていない。
それが、より一層俺に焦りを生じさせる。
この状況からどうにか抜け出さなければ、と。
ただ、そんな折だった。
「……!?」
封印区画最下層全体に轟音が響き渡り出し、激しい警告音が鳴り始める。
聴き慣れたものだった。
これは、この封印区画最下層に実験不要物、つまりゴミが捨てられる時の合図だ。
「どういうことだ……? 何でこんなタイミングで……?」
ゴミが捨てられる時間というのはいつも決まっている。
それに合わせてどうにか脱出できないか、というのもナシャラと考えたことはあったが、結局それはユフの連中全てを一気に敵に回すことになるから、と取り止めた作戦だったのだ。
そもそも、この巨大空間の仕組みそのものを俺の魔法で崩壊させる、というのも可能かどうかわからないから、と。
ナシャラ俺にそう言ってきた。
が、今ならその答えを示すことができるだろう。
「クソ野郎どもが……! このタイミングで口を開けたこと、後悔しやがれ……!」
瞳を閉じ、歯を食いしばる。
纏う神の鎖は揺れ動き、擦れ合う金属音がジャラジャラと鳴る。
全身に力を込めて発生させた、色彩の無い俺だけの魔法陣。
無属性のそれは、周囲に地鳴りを発生させ、空間の轟音に負けないくらい大きなものとなった。
「戦う準備は元からできていた……。俺は今から……」
ユフを。
この施設全てを滅ぼすぞ。
待っていてくれ、ナシャラ。




