エピソード1 幽霊からの手紙 第5話
5話です。
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「――よし、いないな」
佐渡は玄関のドアを薄く開き周囲を確認した上で大きくドアを開いた。
猫の霊に怯えて外に出ないようにしたが、まさか大学をさぼるわけにはいかない。
ただでさえ一限の授業は出席日数が不足気味なのだ。これ以上欠席が続くと教授から白い目で見られかねない。
佐渡は注意しながら駅へと向かった。
「見つけたァァァァァァッ!!」
「うわぁぁぁぁっ!! なんでぇぇぇ!?」
折角猫に声を掛けられた公園を避けて駅に向かったというのに駅で待ち伏せされてた猫にあっさりと見つかってしまった。
そのせいで佐渡は早朝の駅で注目を浴びる羽目になった。
猫は佐渡の肩に乗ると「大した願いじゃない」「言うことを聞け」と煩い。
佐渡は猫の声が少しでも紛れるようにとイヤホンで音楽を聴くのだがそれでも脳に響くように猫の声が届いてくるので意味が無かった。
しつこい猫の抗議の声に辟易しながら佐渡は目的の駅で降り、大学へと向かう。
そしてキャンバス内に入ってすぐに藤原の姿を見つけ、佐渡は希望の光を見た気がした。
「ふじわら~!!」
「あ、おはよう。あれ、どうしたの? その猫」
「助けてくれ!! お願いだ!!」
「えっ、あの、佐渡?」
佐渡は藤原に縋りつく。
藤原はそんな佐渡に戸惑う。
藤原は佐渡の顔と猫の顔を交互に見比べるのだった。
ここでは目立つからと、学校の隅にある喫煙所に場所を移した。
錆びて至る所がボロボロのベンチに腰掛けた佐渡は藤原にこれまでの猫との経緯を話して聞かせた。途中猫がツッコむものだから中々話が進まず、一限の授業が開始した合図が遠くで聞こえてきた。
「ふーん。それは大変だったね。それで、猫のお願いは引き受けないの?」
藤原がそう尋ねると佐渡は目を吊り上げた。
「引き受けるわけねーだろ。俺になんの得もないのに」
「そうだけど、その猫はそれで諦めるの?」
「諦めねェよ。テメーがオレの言うことを聞くまで、ずっと耳元で鳴いてやるからなッ」
「はぁっ!? ふざけっ!!」
猫の宣言に佐渡は声を荒げる。
その姿に藤原は眉を顰めた。
「猫はなんて?」
「え? ああ。俺が言うこと聞くまで諦めねぇって」
「そっか」
「つーか、お前にはコイツの声聞こえないのか?」
佐渡はまさか猫の声が藤原には分ってなかったとは知らず、そう聞いてしまう。
これに藤原は「うん」と頷いた。
「よっぽど想いが強ければ断片的に聞こえることもあるけど、基本的に俺は霊の言葉って聞こえないんだ」
「そうなんだ」
「視る力と聴く力は別能力だったりするんだよね」
「へー」
「そういう意味では佐渡は霊視以外にも口寄せの才能もあるのかもね」
「口寄せ?」
「知らない? イタコとも言うけど。霊を自分の体に下ろして霊の言葉を代弁する人のこと」
「知らねー」
「まあ、一般は知らないか。とにかく、その才能が佐渡にはあるんだと思うよ」
「ふーん。そんな才能あってもいらねーけどな」
佐渡は無駄な知識が増えたと内心思ったが口には出さなかった。
藤原は猫に向けて言葉を放った。
「君は諦めないって言うけど、早くあの世に行かないと、悪霊になって転生できなくなっちゃうよ?」
「知るかッ! 悪霊になったらこの男に憑りついてやるッ!」
「なんて言ってるの?」
「『悪霊になっても俺に憑りつく』ってさ」
「っていうか、テメェがこの男を説得しろよ!!」
「また何か喋ってる?」
言葉は分からなくても何かを発してるのは分かるらしい藤原は佐渡に通訳を聞いてくる。
それに佐渡は頭を掻きむしり、空に向かって嘆いた。
「あー、めんどくせぇー!!」
通訳が疲れるというのをこのときはじめて知った。
「とにかく、この猫をどうにかしてくれ、藤原!!」
「それなら、除霊する? 俺の練習台としてなら料金は気にしなくていいよ」
「うわっ、マジか! それは助かるっ!!」
藤原の提案に佐渡は飛びついた。
すると肩にいた猫は文字通り飛び跳ねた。
「ハァ!? 除霊?? そんなの真っ平ごめんだッ!!」
猫は佐渡の肩から飛び降りると今までの執着は何だったのかと思うほどひらりひらりと逃げていった。
佐渡はその猫の姿を見て胸を撫でおろした。
「はー、助かった……」
「それにしてもあの猫は佐渡に何をお願いしたかったんだろう。聞いたの?」
「いや……聞いてないけど、別にいいだろ、そんなの。どうせロクでもないことだろ」
「そっか……あの猫が諦めて早く成仏すればいいんだけど……」
藤原はもう見えなくなった猫の姿を追いかけるように見つめる。
それが佐渡には不思議だった。
「なんで?」
「悪霊になって悪さするとあとあと面倒だろう、だね。死者が出ないといいけど」
「えっ、死者?!」
藤原の物騒な言葉に佐渡はぎょっとする。
「えー、そんな大げさな……たかだか猫だろ?」
「いやいや大げさじゃないよ。結構あるんだよ。そういう話。悪霊化した霊に感化された人が犯罪を犯すとってのが」
「はいっ?」
佐渡は藤原の言葉に目を見開いた。
自分が猫の願いを聞かなかったせいで、人が死ぬ可能性がある?
佐渡は一気に気分が悪くなった。
そんなことを言われて、猫を放っておけるわけがなかった。
佐渡は少しの逡巡の後、意を決した。
「――ええいっ! 藤原、今日の講義は休んでも平気か??」
「まあ、今日くらいなら」
「なら俺に付き合え! 猫を探すぞ!!」
もう一限の授業は間に合わないのだ。
例えこれで単位が取れなくても最悪来年に回せばいい授業だ。
佐渡は藤原を連れて猫を追って大学の外へ行くのだった。




