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ゴーストライター ~幽霊専門代筆屋~  作者: 都宮 アキ


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エピソード2 幽霊は殺人事件の犯人を知っている 第23話

第23話です。




世田谷中央警察署の取調室に一人の若い女性が座っていた。


幼さが残る可愛らしい女性は一見すると大学生のようにも見える。

だが、膨らんだ腹部とバッグについたマタニティーマークから妊婦であるということが分かる。


若くして未亡人となってしまった長澤の三番目の妻、長澤瑠梨だった。


瑠梨はおどおどとしていて俯きながら落ち着きなく膝の上で組んでいた指を動かしていた。


そこへ取り調べを担当する女性刑事の青柳が口を開いた。



「――奥さん、久留和が自供しました」



瑠梨は弾かれたように顔を上げた。



「久留和さんが……?」

「はい。……長澤慎吾さんが殺されたあの日、自分は奥さんを脅して協力させたと言っています」

「えっ……!」

「それは本当ですか?」

「いえ! いえ! そんな事実はありませんっ!」



瑠梨は顔を青褪めさせた。

それから意を決したように長い長い息を吐き出した。

瑠梨の表情が変わる。



「……すべて、お話しします。あの日のことを」



そして瑠梨の口からあの日何があったのか語られるのだった。







あの日は長男の真さんの副社長就任とお誕生日のお祝いのパーティーでした。

パーティーは夫のデリカシーに欠ける発言で散々でした。

そしてパーティーが終わった後、夫は私に言ったんです。

「子供は生まれたらすぐに乳母に任せて完璧な教育をさせて跡取りにする」と。


私は絶望しました。

はじめての赤ちゃんを取り上げられるのかと思いましたし、夫の言う完璧な教育というもので夫のように人でなしの人間になってしまうんじゃないかと恐ろしくなりました。


憂鬱になっていると家に大久保さんと一緒に久留和さんがいらっしゃいました。


はっきりと言ってしまえば、私は久留和さんと不倫の関係でした。

でも、仕方がないと思いませんか? 刑事さん。

私は好きで長澤慎吾と結婚したわけじゃないんです。

実家の事業を盾に脅されて結婚させられたようなものなんですよ。


それなら人として立派で、優秀で優しい久留和さんを好きになるのは女として当たり前じゃないですか。


私は大久保さんの面会が終わり、久留和さんが玄関まで大久保さんを送っていくときについていきました。

そして、そこで私は我慢が出来なくなり、大久保さんがドアを閉めた瞬間、久留和さんに泣きついてしまったんです。


そうしたら、久留和さんは私を慰めるために私の部屋まで来てくれたんです。

そして私が落ち着くまで部屋で話を聞いてくれました。


聞き終わると、突然久留和さんは「社長と話をしてくる」と言ったんです。

私は何を話してくるのか分からなかったんですが、でも、私はまだ気持ちが不安定でしたから、久留和さんがなんとかしてくれるのだと、本気で思ったんです。


でも、しばらくして、久留和さんは服を真っ赤にして私の部屋に戻ってこられたんです。


私は「どうしたの?」と聞きました。

すると、


「長澤を殺した」


と、久留和さんが言うので私は驚きました。

彼がそんなことをするとは思えませんでした。

だけど、真っ赤な服を見ると私はその言葉を信じないわけにはいきませんでした。


それから彼は私に頼みごとをしてきました。


それは長澤のスマートウォッチを腕につけててほしいということでした。



「この時計を俺が家を出てから三十分後までつけててほしい。そうすれば殺した時間が誤魔化せるはずだ」

「それで外したらどうするの?」

「そのあとは長澤の腕に巻き付けてほしい。何、大丈夫だ。間違いなく死んでるから抵抗しない」



久留和さんはそう言って脇差のようにベルトに差した血に染まった包丁を私に見せてきました。



「ひっ……!」

「凶器は私が持っていく。そうすれば君が疑われることはない」



私は驚きから何も言えませんでした。

それから久留和さんは私に注意深くゆっくりと言いました。



「ただ気を付けてくれ……誰にも見られないように……指紋も残さないようにきっちり拭き取ったうえで注意して取り付けろよ」

「ええ……ええ……分かったわ……」

「瑠梨」



久留和さんは不安になる私を抱きしめて言ってくれました。



「これで私たちは解放されるんだ」

「……そう、なの?」

「そうだ」



私は誰にも見られないように彼を一階の裏口から逃がしました。


――これが私から見た事件の全貌です。







瑠梨の口から話を聞き、青柳は深い溜め息をついた。



「……何故、このことを警察に言わなかったんですか? 恋人だったから?」

「違うんです、刑事さん。あの人はかわいそうな人だからです」

「かわいそう?」

「ええ……あの人には父親がいなくて、酷い母親に育てられた……ちゃんとした愛情を与えてもらえなかったかわいそうな人……だから、人の道から外れたことをしてしまった……」



瑠梨は本気でそう思っているようだった。



「あの人は夫の下でこき使われていました……あの人には、人権なんてなかったんです……」



ぽたり、と瑠梨の目から涙が零れ落ちた。

次から次へと瑠梨の膝を濡らす。


青柳はハンカチを差し出し、彼女が落ち着くまで待ってから尋ねた。



「……お腹の子は、本当に久留和吾郎の子なの?」

「……正直、分かりません」



瑠梨は手で顔を覆って涙声で呟いた。



「どうして、こんなことになっちゃったのかな……」



そこにいるのは社長夫人ではなく、二十五歳の若い女性だった。

そんな彼女を青柳は慰める。



「……きっと、みんな少しずつ言葉が足りなかったんだと思うわ」



昨日あった久留和の事情聴取。

それを思い出しながら青柳は言うのだった。

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