エピソード2 幽霊は殺人事件の犯人を知っている 第21話
第21話です。
佐渡はその日のテストを終えると自宅ではなく世田谷中央警察署へと向かった。
初めて訪れるそこは歴史を感じさせる古い八階建ての建物だった。
内部は節電のためか電気が疎らについていて薄暗い空気が漂い不気味さが蔓延っていた。
「佐渡くん!」
「小紫さん!」
佐渡が一階フロアで辺りを見回していると、先日世話になった小紫が佐渡を見つけて声を掛けてきた。
「テスト期間中に悪いね、呼び出しちゃって」
「いえ」
そんな会話をしながら階段を上がった先は机が犇めく刑事課だった。
ほとんどの席は空席で在席している刑事も忙しそうに仕事をしていた。
「こっちなんだ」
「あ、はい」
小紫の先導で連れていかれたのは奥の方の部屋だった。
小部屋がいくつも並ぶ。
使用されていない部屋は扉が開いていた。
少し覗くと中はドラマでよく見る取調室に似ていた。
そして小紫は一つの小部屋に佐渡を案内する。
「部屋には容疑者がいるが俺たちもいる。安全は保障する。だから安心してほしい」
「分かりました」
「じゃ、入るよ。――失礼します」
小紫がノックしてから扉を開ける。
先ほど通り過ぎていった小部屋より一回り大きな部屋だった。
机の中央にある机には久留和が座り、その反対側には白石が座っていた。
記録係だろう女性刑事が部屋の端に、久留和の両サイドには警官二人が待機していた。
「やぁ、ゴーストライターくん。来てくれてありがとう」
「えっ?」
佐渡の入室にいち早く反応したのは久留和だった。
久留和は佐渡を見て『ゴーストライター』と呼び、笑いかける。
佐渡は何のことかと戸惑い眉を顰めた。
それに小紫が慌てて耳打ちしてきた。
「――久留和が勝手に君のことをそう呼んでるんだ。幽霊の手紙を代筆したからと……あえて本名を名乗ることもないから、悪いけどここでは『ゴーストライター』と名乗ってくれ」
「……はい」
佐渡は小紫の説明に頷き、久留和を向いた。
久留和は先日の駐車場で会った時よりどこか明るかった。
警察に捕まっているのに場違いなその姿に佐渡は寒気がする気がした。
「……これで話してくれるんだろうな?」
そう凄んだのは白石だ。
白石は久留和を語調を強くして問い詰めた。
だが久留和はその言葉を無視するように佐渡を見続けた。
「ゴーストライター、教えてくれ……そこに長澤はいるのか?」
「あっ、はい。……います」
久留和の質問に、佐渡は小紫の陰に隠れるようにして答える。
佐渡の解答に久留和の声が一段低くなる。
「どこに?」
「その……」
佐渡は長澤の姿を目で追った。
「……あなたの正面……白石警部の背後にいます」
「そうか」
久留和は見えていないはずなのに正確に長澤の顔の位置を捉えていた。
「席を代わろう。その方が話しやすいだろう」
白石がそう言って席を立った。
見た目には空白の席。
しかしその席には長澤が座っていた。
久留和は少しの間目を閉じた。
そして深呼吸を二度、三度繰り返し、それから目を開いた。
「本当にそこにいるなら、隠し金庫の暗証番号を言ってもらおうか?」
「そんなものはない」
「長澤社長は『ない』と言っています」
「……どうやら本物のようだな……」
久留和は目を細め、口角を上げた。
「ああ、嗚呼……死んでもなお、アンタに復讐の機会があるなんてなァ」
高揚した声が取調室に響く。
「さぁ、聞かせてもらおうか」
側に控えた白石が再度促す。
そうすれば久留和は頷く。
「アア、聞いてもらおうかッ!」
久留和は血走った目をしながら吠えた。




