エピソード1 幽霊からの手紙 第3話
3話です!
徐々に話が動き始めます。
住宅地の中に紛れ込むようにある健康美神社。
色が剥げている赤い鳥居に苔だらけの狛犬。
しかしその狛犬をよく見ると普通と違うことが分かる。
犬の頭に体は虎、尾っぽは蛇になっていた。
境内の中にある社は建て替えたばかりということで立派な作りであった。
「幽霊を見えなくする方法ね……」
「はい……」
板の間の本堂。
その中央に座る巫女服を着た年齢不詳の女性――藤原の姉、伊藤薫が深く考え込んだ。
ちなみに藤原と姓が違う理由は結婚しているからだ。娘もいる。
佐渡は薫の返事を待つ。
薫は目を閉じ考えに考え、
「うん。無いわねっ」
切れ長の目を開ききっぱりと言い切った。
「即答!? ちょっと、金を取っておいてそれはないんじゃないですか?? 藤原の姉ちゃん!」
「『薫さん』と言いなさい」
薫は腕を組み溜息を吐いてみせる。
「そもそも、前にも言ったでしょ。『霊が見えたとしても気にしないようにしなさい』って」
薫の言う通り確かに二か月前にも佐渡は軽く相談していた。
そのときは正式な相談というわけではなく立ち話という形だったが。
二か月前の佐渡はそのときの薫の返答を軽く考えて受け取っていたところがあった。
「そうですけどっ、でも実際に生活しててもうヤダっていうかぁっ!」
「贅沢な悩みよ。私たちの界隈だと、貴方みたいに霊が見えるようになりたいって人がわんさかいるんだから」
薫の言葉はどこまでも軽かった。
佐渡はそんな薫に向かってついつい声を荒げた。
「俺的には深夜にコンビニへ行ったとき血みどろの男が出てくる生活とかもうちょっと勘弁って感じなんですよっ! これじゃあ気軽に心霊スポット近くにも出かけられないっすよ!」
「それはお気の毒としかいいようがないけど。それなら邪を祓う方法を学んだ方が早いと思うわよ」
「はい……?」
「自分が強くなれば幽霊だってヘッチャラよ。よく言うじゃない? 『霊力がすべてを解決する』って」
「言いませんよ。てか、知りませんよ、そんなこと言う界隈」
「あら、そう?」
提案された解決方法が力技過ぎて佐渡は肩の力が抜ける。
佐渡はそれでも諦めきれなかった。
「マジな話……見えなくする方法ってないんですか……?」
佐渡は迷い子のように薫を見つめる。
だが、薫は無常だ。
「私の知る限りは無いわね」
やはり薫は即答だった。
それでも佐渡が多少哀れに思えたのだろうか、一呼吸置いて口を開いた。
「……例外は、子供が大人になる過程で霊が見えなくなったっていう話ね。……でも、大人になって見えるようになって、また見えなくなるなんてねぇ……聞いたことないわ」
「そうすか……」
佐渡の言葉に力は無かった。
「すんません。ありがとうございました」
ふらりと立ち上がり、本堂を出ていこうとする。
だが、それを薫が止めた。
「ああ、ちょっと待って」
薫は佐渡が手渡した五千円の内、三千円を渡してきた。
「相談時間が短かったから返してあげる。そのお金で帰りにうちの神様にお祈りしていきなさいよ。神様が佐渡くんの願いを叶えてくれるかもしれないわよ」
薫は微笑んでそう言った。
佐渡は薫の助言に従いお参りすることにした。
本堂を出ると藤原が境内の草むしりをしているのが見えた。
夏のせいか草は青々と茂っている。これは骨が折れる仕事だろう。
「おーい、藤原ー。神様に祈る場合はここでいいのかー?」
少し遠くにいる藤原に声を掛けると藤原は汗を拭いながら立ち上がった。
草の匂いとともに藤原が歩み寄ってくる。
「何を祈るの?」
「霊が見えなくなるように祈るんだ」
「それなら奥の社の方がいいかな? ここは縁結びが得意だから」
藤原の案内で本堂の奥の社へと案内された。
前来た時には気が付かなかったが奥は随分と広かった。
大きな広場があり、左右に小さめの社が一つずつ。
そしてその奥には階段があり山の上に登れるようになっていた。
「佐渡の場合は犬の神使がいいと思うんだよね」
「犬? なんで?」
「犬の神使は厄除祈願に強いんだ」
「へー。ってか、他には何があるんだ?」
「うちは神様が一柱と、その神様の神使が三柱。さっきの本堂は蛇の神使、あっちは虎の神使。山の上には神様が祀られてるんだ」
藤原はそう言って左手の犬の神使を祀っている社に案内してくれた。
歴史を感じる社の賽銭箱の前に立つとQRコードが見えて佐渡は少し神聖な気持ちが薄れた。
だからではないが、返してもらった三千円のうち千円だけ抜き取り、賽銭箱に落として紐を引っ張りガラガラと鈴を鳴らした。
(……こんなので願いが叶うなら苦労しねーよ)
内心そう思いながら、それでも佐渡は(幽霊が見えなくなりますように)と一応は願った。
用事が済み、佐渡は藤原に別れを告げ、駅へと向かう。
佐渡は駅の改札を通りすぎる瞬間、目の端にフサフサの尻尾が見えた気がした。
「えっ……?」
既視感を覚えるそれに佐渡は自然と目で追う。
だが、もうそれは見つけられなかった。
佐渡は首を傾げながらホームへと向かう。
その背後では子犬ほどの大きさの美しい猫が佐渡から隠れるように柱の影へと隠れるのだった。




