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ゴーストライター ~幽霊専門代筆屋~  作者: 都宮 アキ


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エピソード2 幽霊は殺人事件の犯人を知っている 第17話

第17話です。




「あっ、おいっ、バカ……!」



背後から竹内の焦る声が小さく聞こえてくる。


竹内の言う通り、バカなことをしたと自分でも思う。

だが、今更自分の行動を無かったことにはできない。


佐渡は震えそうになる足を叱咤しながら久留和を見つめた。



「……何か?」



ドアに向かって手を伸ばしていた久留和は柱の陰から飛び出してきた佐渡を見た。


気真面目そうな顔が怪訝そうに歪む。

それが余計に佐渡を緊張させた。


だが、このまま取り逃がしてはいけないという使命感から、佐渡は必死に頭を巡らせた。



「……その車、カッコいいですね。なんて車なんですか?」

「えっ? ああ、ありがとう……これはクラウンだが……」

「ああ、通りで王冠のマークがついてるんですね!! 高いんでしょうね? いくらぐらいするものなんですか?」



佐渡はとにかく話を繋げなければ口を動かした。

足止めをするための話題は他にないだろうか。

ここにシオンが居ればもっと上手く話ができただろうに。



「すまないが、急いでいるんで、もういいかな?」



しかし、久留和は佐渡の質問を素気無く躱す。

久留和は車に乗り込むためにドアハンドルに触れる。

ピカリと、車のライトが薄暗い駐車場の中で一瞬だけ光った。


佐渡はいよいよマズい、と思った。

久留和の気を引かないといけない。


固い唾を飲み込み、佐渡は腹を括った。



「――お仕事、大変ですね。長澤社長が殺されて」

「……君は、私のことを知っているのかい?」

「ええ、知ってます。久留和吾郎さん、ですよね? 長澤社長の秘書をやってる……」

「何故、私を知ってる……君は誰だ?」

「俺はしがないただの大学生です。あなたの名前を知っていたのは、ある人に教えてもらったからです」

「ある人……?」

「ええ。長澤社長の霊に……俺は幽霊の姿が見えるんです……話もできる……」

「フッ……幽霊が見える? 何を馬鹿なことを言って……ふざけるのもいい加減にしてくれっ!!」

「俺は、聞いたんです! 長澤社長から! あなたに、殺されたって!!」

「っ!?」



核心を突かれ、久留和は言葉を詰まらせた。

佐渡はその姿に確かな手応えを感じた。



「それから、大久保さんからも話を聞きました。あなたのその車のトランクには大久保さんの死体が入ってるんですよね?」

「何故知っている!? どこで見ていた!!」

「見てません! 聞いたんです! 全部、幽霊からっ!」

「そんな馬鹿な話あるか!!」

「どんなに否定されても事実です。……もうすぐここには警察が来ます」

「は?」



ちょっとしたハッタリだった。

実際に小紫が警察に応援を頼んだのかは分からないので来るかは分からない。

だが、久留和には効果てきめんだったようだ。


久留和は周囲を確認するように目配せする。

警察が隠れていないかを確認するようだった。



「……逃げられないと思います。だから、自首、しませんか?」



彼の不憫な幼少期。

元を質せば母親も被害者だった。

もしも長澤慎吾がもう少し人を思いやる気持ちがあれば――


そう思うと、佐渡は久留和が哀れに思えて、なんとか今からでも良い方向にいかないだろうかと思った。


佐渡は久留和の反応をじっと待った。

久留和はそんな佐渡を同じようにじっと見返した。


それから久留和は目を細め、口角を上げた。



「……何故、自首をしなければならない?」

「そ、そうすれば少しはあなたの罪が軽くなるかもしれないから……」

「君は、二人も殺しておいて本当に罪が軽くなると思ってるのか?」

「それは……その……」

「ハッ! これだから世間を知らないガキは嫌いなんだ……綺麗ごとばかりではこの世は回らないんだよっ!!」



鬼の形相になった久留和は佐渡に向かってボストンバッグを投げつけた。



「うわっ!?」



飛んできたボストンバッグを思わず佐渡は受け止めてしまい、一瞬久留和から注意が逸れてしまう。


その間に久留和が車に乗り込んでエンジンを掛けた。

駐車場にエンジン音とタイヤが擦り付けられる音が響いた。


車は急発進する。

そして、佐渡に向かって突っ込んできた。


迫る黒いクラウン。

佐渡の視界はクラウンの白いライトでいっぱいになった。



「佐渡、避けろっ!!」



竹内が柱の陰から飛び出して、佐渡の体ごと違う柱の陰へと引き込んだ。


次の瞬間、久留和の黒い車が佐渡と竹内の後ろを通り過ぎた。

轢かれそうになった佐渡はどっと冷や汗が出てアスファルトに座り込んだ。



「クソっ! 逃げる気か!?」



竹内が振り返ると、久留和の車はそのまま駐車場の出口へと向かっていた。

このまま外に出られたら追うことは難しい。


車のスピードが上がる。

そしてもうすぐ駐車場を出るというときだった。


今日一日乗り回した藤原のハイエースが滑り込むようにして駐車場出口前で停車した。



「ッ!? くっ……!!」



久留和は前方に突如現れた障害物に慌ててブレーキを踏み込みその場で急停止する。



「クソっ、クソっ!!」



ハイエースのせいで駐車場を出られない。

久留和は苛立ちに任せてハンドルを思い切り叩いた。

そしてその後ろからは竹内が「うおおおおおっ!!」と叫びながら迫ってくる。


竹内は身長百八十センチ近い筋肉質の大柄な青年だ。

その迫力はかなりなものだった。

車内にいるというのに久留和はその覇気に気圧された。


久留和は後方の竹内に追い立てられるようにして車を捨てることを選択し、運転席を飛び出して駐車場出口へと向かって逃走を図った。



「退ケェェェェェェェェェ!!」



ひっくり返った久留和の声。

それを迎え撃つのは、ハイエースから降りた藤原だ。


藤原は竹内以上に身長が高いが、見た目には竹内ほど筋肉が無いので迫力はない。

久留和は勝てると思ったのだろう。


藤原に殴りかかるようにして腕を振りかぶりながら駆けていった。



「――すみませんね」



藤原はそう言いながらなんの躊躇いもなく久留和のみぞおちに拳を入れ、そのまま腕を取って背負い投げをして久留和を地面に押し付けた。



「うおっ!! うぐっ!! 放せっ!! 放しやがれっ!!」

「放しませんよ。――シオン、至急、小紫さんを呼んで!」



藤原は久留和に体重を掛けながら駐車場出口で待機していたシオンに指示を出した。



「分かった!」



これにすぐさまシオンは外へと走って行った。



「クソっ! クソっ!! クソぉぉぉぉぉぉっ!!」



久留和は悔しそうに雄叫びを上げるのだった。

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