エピソード2 幽霊は殺人事件の犯人を知っている 第16話
第16話です。
「――情報をまとめると、マンションは十五階建て。地下には駐車場。そして久留和吾郎の部屋は十五階。久留和吾郎が逃げるとしたら正面玄関を出るか、地下の駐車場までエレベーターで降りて車で出ていくかのどちらかだね」
シオンはスマホで目の前のマンションの情報を確認しながら言った。
「それなら二手に分かれるのがベストかな」
「でも、どうやって分かれる?」
「えー、どうしようかな~」
「佐渡以外は久留和の顔が分からないから、二手に分かれると久留和が逃げるときに止められないんじゃないか?」
「……それなら私が教えればいいのではないか?」
作戦会議中に口を挟んだのは意外にも長澤だった。
「手が足りないならこいつも使えばいい」
「もう部下でもないのにコイツ呼ばわりするのは失礼じゃないか!?」
「でも、全員がお二人のことを見えるわけじゃないんで……」
「どうかしたの?」
「長澤社長が自分たちも手伝うって言ってて。でも、俺と藤原だけじゃん? 二人が見えるのって。声に関しては俺しか聞こえないし」
長澤と大久保のやり取りをシオンに説明するとシオンはきらりと目を輝かせた。
「いいね……幽霊を助手として使うなんて幽霊探偵らしいじゃん! ――じゃあこうしよう! ボクとカエデ、佐渡クンとユウマで分かれよう! それで長澤社長や大久保さんからの連絡をそれぞれ幽霊が見える人が相棒に伝えるって形にすれば問題ないよ!」
「俺は声が聞こえるからそれで大丈夫だけど、藤原はそれで大丈夫なのか?」
「あらかじめサインを決めさえすれば大丈夫じゃないかな?」
「ああ、それいいな」
「じゃあ、組み分けはそれでオッケーだね! あとは、幽霊二人の内、一人が久留和の部屋で見張ってて欲しいんだけど、できそうかな?」
「それなら、俺が久留和の部屋を見張ろう。部屋を出たら、すぐに君たちに知らせるよ」
シオンの問いに大久保が名乗りを上げた。
作戦がまとまり、マンション正面出入口を藤原とシオンが見張り、地下駐車場で佐渡と竹内が見張ることになった。
そうして佐渡と竹内、それから長澤は久留和の車から少し離れた柱の陰に身を隠した。
「……久留和は今日、動くんかな?」
「動きそうだよな。死体をそう何日も車のトランクに入れとくのも無理だろうから。……警察が来るまでは来てほしくねーけど……」
竹内と佐渡がそうぼやいたときだった。
エレベーターの到着する音が地下駐車場内に響く。
二人は慌てて口を閉ざし、柱の陰からそっとエレベーターの方を見た。
「久留和だ! 久留和が来たぞ!!」
大久保が声を張り上げながらエレベーターから飛び出してくる。
そしてその背後には一人の男性が立っていた。
これに長澤が怒鳴った。
「幽霊のくせになんでエレベーターを使ってるんだ!! もっと早く言いに来い!!」
「仕方がないだろうっ! こっちは霊になったばかりで勝手がまだ分かってないんだからっ!」
怒鳴られた大久保は情けない声で答えた。
「あっちの二人にも声を掛けてくる!」
大久保は人間のようにエレベーター横の非常階段から上階へと上って行く。
「そんなことをしなくても飛べば床をすり抜けられるだろうっ!! 大馬鹿者!!」
生きていたら長澤は唾を飛ばしているところだろう。
「竹内、あの人が久留和だ」
「了解! ――メッセージ、既読になんねーな……」
上では何かあったのだろうか。
それとも、何かのスマホの不具合か。
こうなると大久保だけが頼りだ。
佐渡は改めて久留和の様子を確認した。
以前は体に合ったスーツをきっちりと着こんでいたが、今日は帽子を目深まで被り、どこでも手に入りそうな黒い上下のジャージを着て、ボストンバッグを手に持っていた。
まるでこれから何か汚れ仕事でもするような恰好だ。
「久留和ぁぁぁ! お前のことを見損なったぞ!! 二人も殺す殺人鬼め!!」
長澤は久留和の顔を見て怒りが爆発したのかずかずかと近づいた。
「お前のことを息子だと思ったことはなかったが、優秀だったお前を筆頭秘書まで引き上げ、色々と目を掛けていたというのに、恩をアダで返しおって!!」
長澤の言い分は端から聞いていると身勝手なものだった。
だが、その言葉は久留和には届かない。
久留和は目の前に立つ長澤の体を文字通りすり抜けた。
「おいっ、待てっ! 私の話を聞けっ!!」
怒りの形相の長澤は振り返って久留和の肩を掴んだ。
だが、久留和は手を振り払うどころか、掴まれた事実を感じていないのでそのまま何事もなく、真っ直ぐに自身の車の方へと向かっていった。
「シオンたちから連絡は?」
「無い。俺の送ったメッセージも既読がまだついてない」
佐渡は焦りながら竹内に確認すると喜べない報告があった。
(このままだと、逃げられる……!)
佐渡の中で焦燥感が大きくなる。
久留和はきっとこれから遠くへ行って大久保の死体を片付けるつもりだ。
そのときに凶器に使われた包丁も捨てられたらこの事件は解決しないかもしれない。
久留和がドアに手を掛けたのが佐渡には見えた。
(まずいっ……)
車で逃げられたらもう終わりだ。
そう思った佐渡の体は自然と動いていた。
「――あのっ、すみませんっ……!」
佐渡は柱の陰から飛び出していた。




