エピソード2 幽霊は殺人事件の犯人を知っている 第14話
第14話です。
「少し、久留和に話を聞いてみない?」
シオンがそう言ったのは埼玉からの帰り道のことだった。
車窓から夕陽が車内を照らし、シオンはオレンジ色の光を浴びていた。
「小紫さんからちょっと揺さぶりかけるっていうか……」
「それはいいけど……でも、なんて?」
助手席の小紫がルームミラーから問い掛ける。
「包丁の隠し場所を聞いてみる、とか……? ……凶器さえ見つかっちゃえば、アリバイなんてあとで自白でどうにかできるかと思って……」
「それで凶器を逆に隠されたら困るよ」
「そこを後を追うんだよっ! 犯人なら凶器を隠そうとするでしょ??」
「もう手放してる可能性もあるし、あまり刺激したくないな……」
「だけどっ」
シオンと小紫があーでもないこーでもないと話しているときだった。
意外な人物が口を開いた。
「――なら、私が部屋の様子を見てこよう」
「えっ!?」
長澤が自ら役を買って出たことに佐渡は驚きシオンの後ろに座る長澤を見た。
しかし、長澤の声は佐渡以外聞こえない。
佐渡の驚きの声に佐渡の後ろに座る竹内が心配そうに声を掛けてきた。
「佐渡、どうかしたのか……?」
「あ、その……長澤社長が自分で久留和の部屋を確認する、って」
「ソレ、いいね!!」
途端にシオンが明るくなった。
興奮しているのか目を大きく開きながら長澤の方を振り返った。
「幽霊だったらどこでも見放題だもんね! っていうか、なんで今までしなかったの?」
「……気が付かなかったんだ」
シオンの指摘に苦虫を嚙みつぶしたような表情をする長澤。
だがそれも佐渡以外には伝わっていないので、佐渡は言葉だけを皆に伝えた。
「気が付かなかったんだって」
「そっか、まー、死んだばっかりだもんね! お葬式とかもあっただろうし。じゃ、早速久留和の住んでる場所に行こうっ!!」
シオンの提案で車は久留和のマンションへと進路を変更した。
都内に戻って来たのは夕日がすっかり沈んだ頃だった。
高層マンションは都会の明るい夜の中、星のように窓から明かりを灯していた。
「ここ……」
「何かあった?」
「長澤社長と最初に会った場所だ……」
佐渡は見慣れた道とマンションを見てそう呟いた。
「そうだ。私は久留和を追ってここまで来たんだ」
「そうだったんですか」
長澤の言葉に佐渡は自然と一昨日ぶつかった気真面目そうな男性を思い出していた。
(もしかして、あの人が久留和吾郎なのか……?)
画像でもあれば確認ができるのに。
佐渡はもどかしい気持ちを抱いた。
「――それじゃあ、みんな、いってらっしゃい! 何かあったらすぐに連絡してね!」
「ああ、分かった」
大勢がマンション前にいると目立つという理由から長澤と佐渡、それから竹内が車を降りた。
運転手の藤原と顔が割れてる小紫、そして派手な見た目のシオンは車に残ることになった。
傍目から見ると二人、本当は三人でそろそろとマンションへと近づいた。
「……久留和は部屋にいるんかな?」
「どうだろうな」
「っていうか、俺ら顔が分かんないから、久留和が逃げても分からないんだよな」
「ああ、それなら俺、顔が分かるかも。たまたまこの間、それっぽい人とぶつかったんだ」
「そっか! それなら安心だ! 何か取っ組み合いとか必要なら俺に任せろ! 普段から鍛えてる筋肉を見せつけてやるからさ!!」
竹内はそう言って自身の太い二の腕を叩いた。
そして、三人がマンションの入り口まで来た時だった。
「お前は、大久保!?」
長澤が突然大きな声を上げた。
佐渡が何事かと長澤の視線の先を見れば道の真ん中でスーツ姿の小太りな中年男性が高層マンションを見上げるようにしていた。
その男性は長澤の声に反応してか、視線をこちらへと向ける。
そして、長澤を見た瞬間、化け物でも見るかのような表情になった。
「長澤社長!?」
殺されて幽霊になった長澤が見えている。
この男性は自分と藤原と同じ霊が見える体質なのだろうか。
分からないが、唯一分かるのは彼は長澤と知り合いで名前を大久保ということは分かった。
(大久保って……もしかして大久保久? 確か、行きの車で第一容疑者だって言われてた人だっけ……)
佐渡が二人の様子を見ながらそう結論付けている横で、大久保は険しい表情をしながら大股で長澤に詰め寄った。
「なんで死んだあんたがここにいるんだ!?」
「それはこっちのセリフだっ! どうしてお前がここにいる!!」
「そんなの、さっき殺されたからだ!!」
「はぁぁ!?」
佐渡は思わず大声を上げてしまった。
それに竹内も驚き、佐渡の顔を見た。
「どうした??」
「あ、と……竹内は、スーツ姿の男性って見えてる……?」
「えっ? ここには俺らだけだろ?」
竹内の返答に佐渡は確信する。
目の前にいる大久保久は幽霊だ。
佐渡は意を決して口を開いた。
「お話し中すみません……ちょっといいですか?」
「――なんだ? ……俺が見えてるのか……?」
「この若者は霊が見える体質なんだそうだ」
「はー、そんな奴がいるのか」
言い争いをしていた二人は佐渡の言葉に静かになる。
長澤の説明に大久保は感心したような様子だった。
「それで?」
「一応確認ですが、あなたは大久保久さんですよね?」
「そうだが……どこかで会ったことがあったかな?」
「いえ、会ったことはないです。長澤社長殺人事件の容疑者の一人というのは知っていますが」
「そんなわけあるか!! 俺が殺すわけないだろっ!!」
「あー、すみませんすみません! 落ち着いてください!! 俺が聞きたかったのは、あなたが誰に殺されたのか、ってことなんですっ!」
憤る大久保に佐渡は慌てて謝る。
大久保は鼻息が荒いまま、唾を飛ばしながら答えた。
「いいだろう、教えてやる! 俺を殺したのは、コイツの秘書――久留和だよっ!!」
そう言いながら大久保は長澤を指さした。
佐渡は一人の犯人の手によって新たな悲劇が生まれたのを知り、背筋がぞくりとするのだった。




