エピソード2 幽霊は殺人事件の犯人を知っている 第13話
第13話です。
世田谷中央署近くの食堂から戻って来た白石は自席にどかりと座り、伝言メモが無いのを見て苛立った様子でデスクを指で叩いた。
「小紫の野郎……少しは報告入れろってんだ」
「彼は一応休暇中ですから」
報告のために来た青柳が白石の苦言に苦笑いをしてみせる。
「白石警部、第一容疑者の大久保ですが連絡が取れません」
「たくっ……どいつもこいつも……」
殺された長澤慎吾の会社の前副社長である大久保久。
今日は三回目の事情聴取の予定だったのだが時間になっても来署しなかった。
それで連絡を取らせたのだが結果は青柳の報告の通り。
「……携帯は繋がるのか?」
「はい。電源は切ってないようなのですが留守電になってしまいます」
「仕方ねぇーな。繋がるまで連絡入れといてくれ」
「ハッ!」
今日の事情聴取では久留和吾郎について聞く予定だっただけに、白石はいつになく焦りを抱いていた。
昼に食べた定食の魚の骨が喉の奥に引っかかってる気がする。
白石は気を紛らわせるために乱雑に置いてある資料を手に取った。
――関係者からの聞き取りから長澤慎吾の殺害が確認された前日のパーティーでトラブルがあったのは分かっていた。
長男の長澤真は副社長に就任したが後継者として認めない旨を長澤慎吾から言われ言い争いに発展。
長女の明依は事務長として働いているがパワハラで訴えられかけていて長澤慎吾から苦言を言われていた。
グループ会社の社長をしている次女の珠理亜については経営不振が続き長澤慎吾から責められていたという。
パーティーは険悪なムードで途中でお開きになったそうだ。
そしてパーティーのあとには大久保久が解雇の不服を申し立てに来訪し、そこで大久保は長澤慎吾に掴みかかるという場面も。
聞き取りから分かるのは長澤慎吾は多くの人間から恨みを買っていたということ。
「……にしても、長澤の奥さんは気の毒だな。妊娠してる上に若くして未亡人だなんて」
「そうですね。これから遺産整理とか大変なんじゃないですかね」
「ホテル王が亡くなっちゃな」
白石の独り言を青柳が拾った。
青柳は署の固定電話の受話器を戻し、「やはり、大久保と連絡がつきません」と白石に伝えた。
その言葉に喉の違和感が復活した気がした。
白石はデスクに資料を叩きつけ、警察署の無機質な天井を見上げた。
「――大久保はなんで連絡が取れない? 犯人でないなら、いったいどこへ……?」
今度の独り言は独り言のままで空気に消えていった。




