エピソード2 幽霊は殺人事件の犯人を知っている 第12話
第12話です。
「ナナリーは、私が二十代の頃に関係があった女だ」
車に戻ると長澤はぽつぽつと喋りはじめた。
「大学の学費を稼ぐためにキャバ嬢をしていた女でな。私が社長だと名乗るとすぐに媚びを売って来た。だから少し遊んでやったんだ。結婚してやると言うと喜んでな。あいつは私の言いなりだった」
「結婚する気はなかったのに結婚の約束をしたんですか?」
「それはそうだろう。誰がバカなキャバ嬢と結婚するんだ?」
佐渡の質問に長澤は愚問だと言いたげだった。
「それで私が明里と結婚したのを何かで知ったのか、どういうことかと詰め寄ってきてな。五月蠅いから店に文句を言ってあの女を辞めさせたんだよ」
「そんな酷いことをしたんですか?」
「何が酷いんだ? 身の程を知らない女に自分の愚かさを教えてやっただけだろう」
明里は長澤の最初の妻だ。
長澤は表情を歪めて腕を振り上げ車の窓を叩く動作をした。だが、車は一つも揺れない。
「クソっ! あいつが子供を妊娠してたと知っていたら……!」
「知ってたら結婚したんですか?」
「そんなわけあるかっ! 堕ろせと言ったわっ!」
「…………」
佐渡はもう呆れて物が言えなかった。
「長澤社長はなんて言ってるの?」
シオンが興味津々という感じで佐渡に尋ねた。
佐渡はどう説明したものかと悩んだ。
「あー……久留和の母親とはやっぱり知り合いで付き合ってたこともあるみたい。結婚の約束もしたことあるけど遊びだったって……」
結局佐渡は長澤の言葉をオブラードに包んで翻訳することを選択した。
「……久留和吾郎は長澤の子供ってことか……」
「それなら長澤社長を恨むのも当然だよね。だって、自分が虐待された原因の一部なんだもん」
「殺された長澤ってヤツは酷い奴だな! 誠意ってものがねーんかよ!」
「あのさ、竹内、ここに長澤社長いるからな」
「あっ! わり……つい……」
「とにもかくにも、これで動機はバッチリだね!」
「これで久留和の逮捕に一歩近づいたな!」
シオンの満足そうな言葉を聞いて車内に明るい竹内の声が響く。
だが小紫が「これだけだとまだ弱いけどね」と水を差した。
「確かに動機はこの方向だろうけど、もう少し裏取りは必要だと思う。――ただ、みんなありがとう。おかげで捜査が前進したよ」
「どういたしまして!」
「あとは凶器が見つかればな……」
「資料には凶器は包丁だって書いてあったよね?」
「いったい凶器はどこにあるんだ?」
「凶器だけじゃないだろ? アリバイも崩さないといけないんじゃなかったか?」
運転席に座る藤原の指摘に皆の表情が一気に暗くなった。
「……久留和吾郎が犯人だとしたら凶器もアリバイも、いったいどうやったんだろう」
小紫はぽつりとつぶやいた。




