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ゴーストライター ~幽霊専門代筆屋~  作者: 都宮 アキ


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エピソード2 幽霊は殺人事件の犯人を知っている 第10話

第10話です。




「じゃっ、ボクとユウマはここで待ってるね~」

「みんな、頑張れよ~!!」



施設の横手にある駐車場に車を停めた五人は外へと出た。

そのうちシオンと竹内はその場で待機することになり、二人は手を振って三人を見送った。



「……楽しそうだな、シオンのやつ」



門の方へと向かいながら佐渡は呟く。

これに藤原は淡々と答えた。



「昔からお祭り騒ぎが好きなやつなんだ」



門の前まで来ると、小紫がくるりと二人を振り返る。



「二人とも、余計なことは言わないでくれよ? 問題があったときは色々と言われるのは俺なんだから」

「分かりました。気を付けます」

「安心してください。もし何かあった時には父経由で口添えしますので」

「ははは……さすが『ケンコミ』。言うことが違うね。なら、そのときは頼むよ」



小紫は乾いた声で笑い、門の横に付いている呼び鈴を押した。


しばらくして建物の中から白髪の男性がやってきた。



「どうも。お約束させていただいた世田谷中央警察署の小紫です」

「いえいえ。警察の方も暑い中大変ですね。施設長の田村です。どうぞ、こちらへ」



施設長の田村は人好きがするような笑みを称えて三人を中に迎え入れた。

子供の笑い声が響く中、施設長室という部屋に通された。


促されるまま三人掛けのソファに座り、その対面に田村が座った。



「ここは静かでいいところですね」

「そうですね。子供たちにとってはこういう場所が一番だと思いますよ」

「この施設は長いんですか?」

「去年、八十周年を迎えましたから、古い方ですかねぇ」

「田村さんはその頃から施設長で?」

「いや、私は前職が校長職で、二年前に採用されたんですよ」

「そうでしたか」



さすが刑事というべきか、小紫は話を引き出すのが上手かった。

田村もリラックスしたようで和やかな空気が流れた。



「――それで、久留和吾郎さんについてお聞きしたいということでしたか?」



会話が一段落したところで田村が話を振った。

これに小紫は頷いた。



「ええ。彼について分かることがありましたら少しでも教えていただきたいと思いまして」

「その久留和吾郎さんは何をしたんですか?」

「すみません。捜査上答えられないものでして」


「そうですか。そうですよね。ただ、彼がいたのはもう三十年も前の話なので、残ってる職員もいなくて、あまりお話しできることはないんですよ」

「本当にちょっとしたことでいいんです。ここにいたのは長かったんですか?」

「記録を見てみたんですが、彼はちょっと特殊だったみたいで、おうちに帰ったり戻ったりを繰り返してたみたいなんですよね」

「というと?」

「当時の職員の記録を見ると、彼のお母さんが少し不安定みたいでしてね」



そう言って田村は立ち上がり、執務机に置いてあったノートを開いて三人の前に置いた。

そのノートは入所者の記録という形だった。

氏名から家族構成、入所した経緯、入所した期間が記載されていた。

どちらかと言えば引継ぎ用の記録に見えた。



「最初に預かったのは小学校四年生の時みたいですね。三か月ここで生活して、家に引き取られて、また小学生六年生の時にここで生活してますね。中学生の時も出たり戻ったりしてたみたいです」

「拝見させていただきます」

「どうぞ」



小紫がノートを見ると、それから藤原、佐渡に渡された。

ノートには中学生の頃も六回ほど、高校の頃も二回ほどここで生活していた時期があるようだった。



「母親はここに書いてある久留和奈々さんですか?」

「そうです」



小紫と田村の会話を聞いて、佐渡は視線だけを長澤に向けた。

長澤はその視線を受け、「記憶にないな」と首を横に振る。

その姿は嘘をついているようには見えなかったので本当のことなのだろう。



「記憶には無いみたいです……」



佐渡に耳打ちされ小紫は小さく頷いた。



「ちなみに、母親が何の職業をしていたか分かりますか?」

「さぁ……そこに記載が無ければ私共も分からなくて……」

「そうでしたか……」



それから小紫はいくつか質問を投げかけたがどれも「分からない」という答えだった。

これ以上ここに居ても情報は得られそうにない。

そんな雰囲気が流れた時だった。



「失礼します。お茶をお持ちしました」



一人の女性が施設長室へ入って来た。

その女性は四十代くらいの細身の女性だった。

施設の職員で間違いないだろう。

女性は三人の空っぽになった茶器を回収し、新たなお茶を置いた。


その姿を見て「そうだ」と施設長が言った。



「確か新井さんはここの施設の出身だったよな?」

「え? ええ、そうですけど……」

「久留和吾郎くんのことを知ってるかい?」

「久留和くん? ああ、はい、知ってます」

「本当かい? いやぁ、良かった! それじゃあ、ちょっと一緒に同席してもらってもいいかな?」

「え、ええ……」



新井は戸惑いながら田村の隣に座る。

少し緊張気味なのかその表情は硬かった。



「こちらの三人は刑事さんなんだ」

「そうなんですか? 随分若い刑事さんなんですね」



新井はそう言って佐渡に視線を向ける。

佐渡の背にじっとりとした汗が流れた。



「よく言われるんですよ! あははははっ!!」



小紫が新井の視線を奪うように笑いながら警察手帳を見せた。

そうすれば新井の表情が幾分か和らいだ。



「久留和吾郎くんについて聞きたいということではるばる東京から来てくれたんだ!」

「まぁ、東京から……お疲れさまです」

「ありがとうございます。――新井さんは、どうして久留和さんをご存じで?」

「一緒の時期をここで過ごしたんです。と言っても、歳も違いますし、喋ったことは無かったんですけど……」

「当時、彼の印象はどんな感じでしたか?」

「静かで頭のいい人でした。いつも本を読んでいて高校も県内のトップ高に通ってたんです」

「そうですか。何か問題を起こしそうな様子はありましたか?」

「まさか、ないですよ。久留和くんは女の子たちに優しくて、特に小さい子たちには人気でしたから。いじめっ子の男の子から守ってくれたことはありましたけど、それだって暴力を振るったことはありません」

「そうですか。では、久留和の家庭環境はご存じですか?」

「シングルマザーだったというのは聞いてます。あと割と近所に家があるというのも。亡くなったお祖母ちゃんの家に住んでると、当時聞きました」

「なるほど。母親の職業は分かりますか?」

「はい」

「教えてもらえますか?」



新井は視線を彷徨わせ、少ししてから口を開いた。



「……スナックです」







施設を出て、駐車場に向かいながら佐渡はぐっと背筋を伸ばした。



「あー、緊張したー!」

「あー、バレなくてよかった」



小紫も隣で肩をぐるぐる回していた。

田村が勝手に勘違いしてくれたおかげで話がスムーズに進んだ。



「とりあえず、その母親ってのが怪しいですよね」

「でも、名前は知らないんだろう?」

「名前は知らなくても、お店の名前が分かれば思い出すんじゃないですか?」



新井は勤めていたスナックの名前までは知らなかったのだ。

佐渡は期待を込めて長澤の方を見る。

だが長澤はつまらなそうに佐渡を見返した。



「私がこんな場末のスナックにわざわざ来るわけないだろ」

「えぇ……」



長澤の傲慢な物言いに思わず佐渡は非難の声を上げる。



「どうしたんだい? ……もしかして長澤社長かい?」

「ええ、はい……そのぉ……こんな場末のスナックにわざわざ来ない、って……」

「じゃあ、母親絡みってわけでもないのか?」

「なら、父親関係ってことですかね?」

「そっちかー。さっきの見せてもらった資料だと父親の欄には名前が無かったから、引き返して聞いても無駄だよな。母親本人に聞かないとだが、もう亡くなってる」

「じゃあ、藤原なら調べられる!?」

「初恋の人は調べられても、母親しか知らない父親の相手はさすがに無理かな」



藤原はすげなく答えた。

三人の足取りは自然と重くなった。


駐車場が見えるところまで来ると車近くの日陰で竹内とシオンが休んでいるのが見えた。

向こうも気が付いたようで、シオンは立ち上がり、三人に大きく手を振った。



「ねぇねぇ、みんな~! 久留和吾郎の情報が手に入ったよー!」

「なんで?!」



シオンの明るい声に佐渡は思わずツッコんでいた。

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