エピソード2 幽霊は殺人事件の犯人を知っている 第4話
第4話です。
授業が終わると三人は白石家に向かった。
白石家は佐渡と同じ区内にある二階建ての一軒家だった。
プランターに植えられた朝顔の蕾が玄関先でにぎやかそうにしていた。
シオンにそっくりな母親に出迎えられ、そのまま応接間に案内してくれた。
部屋には四人掛けのソファが中央にあり、棚には数々の賞状とトロフィーが並べられていた。
断りを入れてからその賞状を見ると、『白石研二』という名前で柔道の優勝が記されていた。
聞けばシオンの父親なのだという。
しばらくしてシオンの父親がやってきた。
「失礼。少し遅くなった」
百九十はありそうな大柄な中年男性。
熊のような体格で、これなら優勝も納得だった。
「ご無沙汰してます、白石警部」
「ああ、藤原のところの、楓くんだったかな? 久しぶりだね。お父さんは元気かい?」
「はい。元気に世界を飛び回ってます」
「今は総理と一緒に欧米だったかな? 君のお父さんも忙しいね」
親し気に話す白石と藤原の会話の内容に佐渡はこっそり驚いた。
今まで見えてこなかった藤原の父親の輪郭がほんの少し垣間見えて佐渡は藤原がとんでもない大物なのかもしれないと思う。
挨拶を終えると白石は佐渡を向いた。
「君ははじめましてだね。私は汐恩の父だ。刑事をしている」
「は、はじめまして、佐渡佳己と言います」
「佐渡くんか。早速話を聞こうか。うちの汐恩から長澤慎吾の犯人のことで話があると聞いたが?」
「はい、その……信じてもらえるか分からないんですけど、俺、幽霊が見えまして……」
「ほぉ……」
白石は目を細めた。そしてゆっくりと頷いた。
「大丈夫だ。信じるよ」
「本当ですか?!」
「ああ。何せ、健康美神社が関わってるんだ。信じないわけにはいかない」
昨夜藤原が言った「うちは特殊」という言葉が脳裏に蘇る。
自分が知らないだけでそうした常識があるのだと、佐渡は思い知らされた。
「それで?」
「その、今、俺の後ろに長澤慎吾さんがいまして、その長澤さんが言うには、自分を殺した犯人は秘書の久留和吾郎……さんだということで、捕まえてほしいと俺に言ってまして……」
「楓くん、それは本当なのかい?」
「おそらく。ただ残念ながら、俺は霊は見えても話をすることはできないので佐渡の言葉を信じて言ってます。もちろん、長澤社長さんはそこにいますよ」
「そうか……ふむ」
白石は少し考え込んで、それから佐渡を見た。
「――では、私の方から長澤社長に質問させてもらおう」
「分かりました」
「まず、何故犯人が久留和だと分かる?」
「そんなの、会話をしてる途中で正面から刺されたからだ!!」
白石の質問に長澤は当時のことを思い出してか声を荒げて答えた。
「……なんか、会話をしてるときに前から刺されたみたいです」
「なるほど。では、殺害された理由は?」
「そんなの私が知るわけないだろう!」
「えー、知らないそうです」
「凶器の包丁を久留和はどこに隠した?」
「だから、知るわけがないだろう!! 私は殺されたんだぞ!!」
「えっと、知らないそうです……」
佐渡は困惑しながら長澤の言葉を通訳した。
白石は溜息を吐く。
「話にならないな」
「なんだと!? お前は無能か!!」
「いいかい? 幽霊がいくら犯人はコイツだと言っても動機も凶器の行方も分からなければ話にならない。まして、幽霊が見えるのは限られたごく一部の人間だけだ」
「それは、そうですよね……」
「一応、久留和を注意してみるが、すぐに捕まえることはできない。久留和にはアリバイがあるからな」
白石は時計を見て「そろそろ署に戻らないといけない。悪いね」と腰を上げた。
(これは一筋縄ではいかなさそうだな……)
佐渡は白石の背に向かって罵詈雑言を投げかける長澤の姿を見ながらそう思うのだった。




