エピソード2 幽霊は殺人事件の犯人を知っている 第2話
第2話です。
佐渡佳己は大学近くの居酒屋でテニスサークルの先輩たちと別れた。
久しぶりということもあり随分と長居をしてしまった。
夜は更け、電車には間に合いそうにない。
それならばと電車で帰るのを諦め、上弦の月の下でゆっくりと歩いて家へと向かった。
知らない道を右へ左へ。
途中賑やかな繁華街を通り抜け、住宅地へと入る。
(さすがに夜にもなるとこの辺も静かになるか)
立ち並ぶ高層マンションを見上げ明かりがぽつぽつとしか点いていない様子を見て、佐渡は眠らない街東京というキャッチフレーズもパンデミック以後は失われてるように感じられた。
と、そのとき、佐渡は曲がり角から曲がって来た人物とぶつかってしまった。
「あっ! ――すみませんっ!」
マンションの方にばかり気を取られていた佐渡は相手の革靴を思い切り踏んでしまった。
慌てて足を退けて頭を下げる。
相手を見れば四十代くらいの気真面目そうな男だった。
夜中とはいえこの真夏の暑い最中、体に合ったスーツをきっちりと着こんでいるところを見ると大企業の会社員のように見えた。
「……いえ」
たったそれだけを言って、男はマンションの中へと入っていった。
佐渡が目で追うとエントランスホールの自動ドアをくぐり、その奥のエレベーターに乗ってるところを見ると間違いなく住人のようだった。
この辺は高級住宅地の一角だ。
その高層マンションに住んでいるのだからかなり稼いでいるのだろう。
佐渡はどんな生活なのだろうと興味を抱きつつ歩みを再開させる。
すると今度は目の前に老人が立っていた。
先ほどの佐渡と同じようにマンションを見上げるようにしている老人は徘徊しているようには見えない。
ぶつかった男と同等か、それ以上の立派なスーツを着た老人だった。
佐渡は不思議に思いつつ彼を避けた。
すると、
「――お前、私のことが見えているのか?」
と、問われた。
佐渡は反射的に、「えっ」と反応してしまう。
これに瞬時に(しまったっ!!)と思った。
何故なら、月の光を浴びて尚、老人の影はどこにもなかったからだ。
「見えているのか、声が聞こえているのか! これは運が良い! さすがは私だ!」
老人の幽霊は歓喜の声を上げる。
佐渡はそれを無視して老人の幽霊から離れるように急ぎ足で歩き続ける。
「見えてないです聞こえてもないです」
「嘘をつけ! 死んでいる私が見えてるんだろう?? それなら私の頼みを聞いてくれっ!!」
「またこの流れかよっ!?」
佐渡はつい二週間ほど前にあった猫の霊を手助けした件を思い出していた。
自分はもう幽霊なんて見たくないのに何故こうも絡まれるのか。
「嫌だよ、嫌っ! なんで幽霊の頼みなんて聞かなくちゃならねーんだよ!」
「何を言ってる。知らないのか? 若いうちの苦労は買ってでもしろというのを」
「今はしなくてもいい苦労はしないほうがいいってのが定説なんですっ!」
「それは間違ってる! だから最近の若いやつはどいつもこいつも根性が足らんのだっ!」
「知りませんよっ。とにかく、用があるなら他を当たってくださいっ。じゃっ!」
佐渡は後を付いてくる老人の幽霊に走って逃走を図ったが、しかしあっという間に追いつかれた。
「私は諦めが悪くてなぁ。頼みを聞くまで逃がさんぞっ!」
「勘弁してくれ!! ええいっ!!」
深夜だろうが関係ない。
佐渡はポケットからスマホを取り出すとある人物に電話を掛けた。
そして、繋がった瞬間、
「藤原ー!! 助けてくれっ!! 老いぼれ悪霊に絡まれてるーっ! 除霊してくれっ!!」
「誰が悪霊だぁぁぁぁっ!」
老人の幽霊は佐渡に向かって怒鳴りつける。
「私は、私を殺した犯人、久留和吾郎を捕まえてほしいと頼みたいだけなんだっ!!」
その声は残念ながら佐渡の耳にしか届かなかった。




