敵だらけになった
「読者と友達になります」
そう宣言した藤井壮馬。
宇宙は静まり返った。
黒崎エディター。
「何を言っているんだ」
虚無卿ゼロ。
「正気か」
銀河十三人卿。
「無理だろ」
所長。
「私もそう思う」
ナマちゃん。
「ぎゃお」
しかし亀裂の向こうの存在――
読者は少しだけ興味を示した。
『理由は』
壮馬は考えた。
そして答えた。
「だって」
「敵になったら面倒そうですし」
全員。
「それが理由か」
「あと」
壮馬は続ける。
「友達になった方が楽しいじゃないですか」
沈黙。
読者は黙った。
宇宙も黙った。
すると突然。
読者が言った。
『なるほど』
黒崎が青ざめる。
「通じた!?」
諏訪も驚いた。
「初めて見た」
その瞬間だった。
失敗宇宙の空に巨大な机が現れる。
長さ十万キロ。
さらに巨大な椅子。
無数の資料。
コーヒー。
ドーナツ。
ホワイトボード。
所長が聞く。
「何が始まるんです?」
読者が答えた。
『会議』
全員。
「会議?」
『面白い物語を決める』
宇宙規模の編集会議が始まった。
読者が議長席に座る。
諏訪貴信が作者席。
黒崎が編集席。
壮馬はなぜか主人公席。
所長はお茶係。
「なんでだ」
「似合ってますよ」
「嬉しくない」
すると読者が資料をめくる。
『問題点』
巨大スクリーンに表示された。
【主人公が能力に頼りすぎ】
壮馬。
「確かに」
【所長が苦労しすぎ】
所長。
「分かる」
【ナマちゃんが人気】
ナマちゃん。
「ぎゃお!」
【銀河十三人卿の半分が何をしているか分からない】
十三人卿。
「それはそう」
会議は妙に有意義だった。
しかし。
その時だった。
謎の立方体が突然真っ赤になる。
『警告』
『警告』
『第三宇宙接近』
全員が凍りつく。
「第三?」
読者ですら資料を落とした。
諏訪が立ち上がる。
黒崎が立ち上がる。
ゼロが立ち上がる。
三人同時だった。
「まさか」
宇宙の彼方。
さらに巨大な裂け目が開く。
そこから現れたのは。
無数のノート。
無数の原稿。
無数の没設定。
無数の未完結作品。
そして中心に立つ一人の影。
顔が見えない。
しかし声だけが響く。
「やあ」
諏訪の顔色が変わる。
黒崎の顔色も変わる。
読者まで黙る。
影は笑った。
「忘れたとは言わせない」
「作者」
「編集者」
「読者」
そして。
「接続者」
壮馬が聞く。
「誰です?」
影はゆっくり名乗った。
「私は」
「ボツ案」
宇宙が震えた。
そう。
物語から捨てられた全ての設定。
採用されなかった全ての主人公。
消された全ての宇宙。
その怨念の集合体。
最悪の存在。
没王アーカイブ。
アーカイブは笑う。
「今度は私が主役だ」
その背後に、
一億人のボツ主人公たちが立ち上がった。
所長。
「規模がおかしい」
壮馬。
「確かに」
読者。
『これは少し面白い』
アーカイブ。
「おい」
「今の聞こえたぞ」
こうして、
作者。
編集者。
読者。
主人公。
そして没設定。
宇宙史上最大の物語戦争が始まろうとしていた。




