物語は一つになる
宇宙が静まり返っていた。
『運営適性 100%』
その表示だけが、虚空に浮かんでいる。
藤井壮馬は困っていた。
本当に困っていた。
「何かの間違いでは?」
運営第一管理官・田中は首を横に振った。
「間違いではありません」
「でも僕ですよ?」
「はい」
「木星と土星をくっつけましたよ?」
「記録されています」
「富士山と東京タワーも」
「記録されています」
「宇宙怪獣を飼ってます」
ナマちゃんが鳴いた。
「記録されています」
「適性ゼロでは?」
「むしろ逆です」
田中の声は静かだった。
「あなたは問題が起きた時、まず現場へ行く」
「……」
「権限を欲しがらない」
「……」
「そして誰かを排除するより、繋ごうとする」
その言葉に、
諏訪貴信が目を細めた。
黒崎も何も言わなかった。
なぜなら。
運営が言っていることは正しかったからだ。
その時。
読者が口を開いた。
『だが一つ問題がある』
宇宙が揺れる。
『運営が必要になる時点で』
『世界は末期だ』
空気が変わった。
今までのような冗談ではない。
田中も否定しなかった。
「その通りです」
そして巨大なモニターが現れる。
そこに映し出されたのは、
宇宙ではなかった。
もっと外側。
無数の宇宙が浮かぶ海。
その一つ一つに亀裂が入っている。
所長が息を呑む。
「これは……」
「全宇宙ネットワークです」
田中が答えた。
「接続者」
「作者」
「編集者」
「読者」
「運営」
「本来交わるべきではない存在が接触し続けた結果」
画面の亀裂が広がる。
「世界同士の境界が壊れ始めています」
壮馬は初めて笑わなかった。
「つまり」
「このままだと?」
佐藤が答える。
「全ての物語が一つになる」
諏訪が小さく呟く。
「最悪だな」
本当に最悪だった。
戦争の物語。
恋愛の物語。
冒険の物語。
悲劇の物語。
喜劇の物語。
全てが混ざる。
世界の意味が失われる。
やがて。
何も語れなくなる。
読者が静かに言った。
『物語は違うから面白い』
誰も反論しなかった。
その時だった。
没王アーカイブが笑った。
「なら簡単だ」
全員が振り向く。
アーカイブは立ち上がった。
「境界を壊せばいい」
「どうせ捨てられた世界だ」
「全部一緒になればいい」
その目は本気だった。
彼はずっと居場所を求めていた。
採用されなかった設定。
忘れられた主人公。
終わらなかった物語。
それらを抱えて生まれた存在。
だからこそ。
「俺たちの世界も認められるべきだ」
初めて彼の本音が見えた。
静寂。
そして。
藤井壮馬が前へ出る。
能力はない。
ただの一人の男だ。
それでも。
「認められるべきだと思います」
アーカイブが目を見開く。
「……は?」
「でも」
壮馬は続けた。
「だからって全部壊したら」
「今ある世界もなくなります」
「それは違うでしょう」
誰も喋らない。
壮馬は笑わなかった。
真っ直ぐにアーカイブを見る。
「あなたの世界を残す方法を探しましょう」
「一緒に」
その瞬間。
諏訪貴信は、
ほんの少しだけ微笑んだ。
黒崎はため息をついた。
読者は黙っていた。
運営は記録を続けていた。
そして。
失われたはずの能力が、
藤井壮馬の手に微かな光として戻り始める。
謎の立方体が告げた。
『管理者適性再判定』
『接続能力進化』
『ジョイントレベル3』
『対象:モノではない』
『心を接続可能』
壮馬はその表示を見た。
アーカイブも見た。
二人の間に、
小さな光の糸が生まれる。
次の戦いは、
宇宙を壊すための戦いではない。
宇宙を残すための戦いだった。
そしてその先には、
まだ誰も見たことのない、
最後の敵が待っていた。




