氷の少女、調査開始
氷の少女、調査開始
雪の舞う外へ出た四人は、ゆっくりと山道を下り始めた。
氷の迷宮での激闘が嘘のように、外の世界は静かだった。
カレンはかんなの手を握りながら、時折ふらつきながら歩く。
「疲れたら言ってね」
「……うん……」
その返事は小さく、どこか頼りなかった。
りゅうとは後ろから見守りながら、ふとカレンの背中に目を留めた。
「……まだ、氷の気配が残ってるな」
カレンの背中には、淡い光の粒が時折ふわりと浮かび上がっていた。
それは氷の魔力の残滓のようで、風に溶けるように消えていく。
「痛くない?」
「……わかんない……でも……さむい……」
カレンは自分の腕を抱きしめるようにして震えた。
「クロのマフラー貸すクロ!!」
クロは自分の首に巻いていた小さなマフラーを外し、カレンの首に巻いてあげた。
「……あったかい……」
カレンは少しだけ笑った。
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村の入り口に着く頃には、空は夕焼けに染まり始めていた。
「ただいまー!」
クロが元気よく叫ぶと、村の人々が驚いたように振り返った。
「おかえり……って、その子は?」
「えっと……事情があってね。まずは家に連れて帰るよ」
かんなは余計な詮索を避けるように、軽く会釈して歩き出した。
カレンは不安そうに周囲を見回しながら、かんなの服の裾をぎゅっと掴んだ。
「こわい……」
「大丈夫。みんな優しいよ」
かんなが微笑むと、カレンは少しだけ落ち着いたように見えた。
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家に入ると、暖炉の火がぱちぱちと音を立てていた。
カレンはその暖かさに驚いたように目を丸くする。
「……あったかい……」
「ここが私たちの家だよ。ゆっくりしてね」
かんなは椅子を引き、カレンを座らせた。
「お腹……すいてない?」
「……すいてる……かも……」
「よし、なんか作るか」
りゅうとは台所へ向かい、クロはカレンの隣に座った。
「カレン、ここ安全クロ! 怖くないクロ!」
「……うん……」
カレンはクロの頭をそっと撫でた。
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かんなはカレンの背中に残る淡い光を見つめた。
「……やっぱり、氷の魔力が残ってる」
「呪い……とかじゃないよね?」
「わからない。でも……放っておけない」
かんなはカレンの肩に手を置いた。
「カレン。少しだけ、身体を見てもいい?」
「……うん……」
カレンは素直に頷き、かんなの方へ身体を向けた。
かんながそっと手をかざすと、
カレンの胸の奥から、淡い光がふわりと浮かび上がった。
「……これは……」
「クロ、なんか見えるクロ……!」
光は氷の結晶のように揺れ、
まるで“心の核”の欠片がまだ残っているかのようだった。
「完全には……消えてないんだ」
かんなは息を呑んだ。
「じゃあ……カレンは……」
「まだ何か抱えてるってことだな」
りゅうとは腕を組み、真剣な表情で言った。
「でも……痛くない……」
カレンは胸に手を当て、首を横に振った。
「ただ……さむい……ずっと……」
その言葉に、かんなは決意を固めた。
「カレン。あなたのこと、ちゃんと調べるよ。
絶対に……全部わかるようにするから」
カレンはかんなの手を握り返した。
「……ありがとう……かんな……」
その声は、氷が溶けるように優しかった。
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次回予告
第15話:カレンの中の“氷”
かんなたちの家で暮らし始めたカレン。
しかし、彼女の身体にはまだ“氷の核の残滓”が眠っていた。
それは力なのか、呪いなのか、
あるいは――氷姫の記憶そのものなのか。




