カレンの中の氷
カレンの中の氷
暖炉の火がぱちぱちと音を立てる中、
カレンは椅子に座ったまま、胸の前で手をぎゅっと握りしめていた。
かんながそっと手をかざすと、
カレンの胸の奥から淡い光がふわりと浮かび上がる。
「……やっぱり、これ……」
光は氷の結晶のように揺れ、
まるで心臓の鼓動に合わせて脈打っているようだった。
「完全に消えてないんだな」
りゅうとは腕を組み、真剣な表情で光を見つめた。
「カレン、痛くない?」
「……うん。痛くない……でも……」
カレンは胸に手を当て、少し震えながら続けた。
「ときどき……さむい……こわい……そんな感じ……」
その言葉に、かんなの胸が締めつけられた。
「それって……氷姫だった時の記憶……?」
「わかんない……なにも……思い出せない……」
カレンは首を横に振り、涙をこぼした。
「ごめんなさい……わたし……なにも……」
「謝らなくていいよ」
かんなはカレンの手を握り、優しく微笑んだ。
「思い出せないのは、悪いことじゃない。
ゆっくりでいいんだよ」
「クロもいるクロ!!」
クロがカレンの膝に乗り、胸を張る。
「カレンのこと、全部調べるクロ!
絶対にわかるクロ!!」
カレンは涙を拭い、クロの頭をそっと撫でた。
「……ありがとう……クロ……」
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「まずは、カレンの魔力を調べてみよう」
かんなは机の上に魔導具を並べた。
水晶玉、魔力測定器、古い魔法書――
どれもかんなが大切にしている道具だ。
「カレン、手をここに置いて」
「……うん」
カレンが水晶玉に手を触れると、
水晶の中に淡い水色の光が広がった。
「すごい……」
かんなは息を呑んだ。
「この魔力……普通の氷魔法じゃない。
もっと……深いところから来てる」
「深いって……どういうことだ?」
「たぶん……生まれつきの力じゃない。
“与えられた”か、“宿った”か……」
りゅうとは眉をひそめた。
「つまり……氷姫だった時の影響が残ってるってことか?」
「それだけじゃない気がする」
かんなは水晶玉を見つめながら続けた。
「この魔力……カレン自身のものでもある。
氷姫の力と混ざってる……そんな感じ」
「じゃあ……わたし……」
カレンは不安そうに胸に手を当てた。
「また……あんなふうに……なっちゃう……?」
その声は震えていた。
「ならないよ」
かんなは即座に答えた。
「だって、今のカレンは……泣いてるし、笑ってるし、
ちゃんと“心”がある。
あの時の氷姫とは違う」
「クロもそう思うクロ!!」
「俺もだ」
りゅうとはカレンの頭を軽く撫でた。
「お前はもう、あの怪物じゃない。
ただの……カレンだ」
カレンは涙をこぼしながら、三人を見つめた。
「……ありがとう……」
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しかし――
その時だった。
カレンの胸の奥で、淡い光が一瞬だけ強く脈打った。
「……っ!」
カレンは胸を押さえ、苦しそうに息を呑んだ。
「カレン!?」
「だいじょうぶ……だいじょうぶ……」
カレンは震えながらも笑おうとした。
しかし、かんなは見逃さなかった。
今の光は――
氷姫の心核が砕ける直前に見せた光と同じだった。
「……やっぱり、まだ何かある」
かんなは小さく呟いた。
「カレンの中には……まだ“氷姫の何か”が残ってる」
「それって……記憶か?」
「それとも……力か?」
「クロは……呪いじゃないといいクロ……」
三人の視線がカレンに集まる。
カレンは胸に手を当て、
小さく震えながら呟いた。
「……わたし……いったい……だれ……?」
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次回予告
眠る記憶、揺れる心
カレンの胸に残る“氷の光”。
それは力か、記憶か、あるいは――別の何か。
かんなたちは、カレンの正体を探るため
さらなる調査を始める。




