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魔法の使えない魔法使い  作者: 記角麒麟
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タドルpart1 異世界訪問

 目の前を行き交うのは、どれもこれも見知らぬものばかりだった。

 いわゆる、中世ヨーロッパ風な服装を着た、人、獣人、エルフ。中には鎧を着込み、剣を携えるものまでいる。

 現代日本とは全く違って、ここが本当に異世界であることを自覚する。


「……本当に、来れたんだな」


 呟いた青年の言葉が、眼前を抜けていった馬車の足音にかき消されていった。


 閑話休題。


 辿は近くの路地裏へと入る道に続く階段に腰を下ろすと、状況を整理するためにひとまず目を閉じることにした。


 一言で言えば、実験は成功したという、ただそれだけである。

 何の実験かといえば、数時間前、赤城蒼教授に呼び出されて解読に成功した、例の石版の写しの内容。

 写本曰く、異世界へ行く方法。


 古今東西、事故やら何やらで異世界へ偶然的に連れてこられる、なんてシチュエーションは腐るほどあった。

 有名所だとトラックに轢かれるなどの事故死からの転生、もしくは転移。これが圧倒的に多数を占める。

 あとは、朝目が覚めれば異世界だった、ゲームで寝落ちしたら異世界だった、はたまた気がつけば家ごといせk(ry etc……。

 異世界物には、斯様にたくさんの行き方、もとい飛ばされ方というものがあるが、自らの意思で異世界へ行く、というのは、なかなかにマイナーな案件ではないだろうか。


 さて、そんなわけで異世界にやってきた訳だが。


「……おかしいな」


 冷静に現状の確認をしていて、すぐにその違和感の正体に気がついた。


 実験当初、あの研究室には辿とアリス、蒼の三人がいた。

 記録のために蒼教授は参加しなかったが、たしかあの陣(異世界に行く方法、というのが、いわゆる魔法陣を描いてその上で寝る、というものだった)には、自分の他にアリスがいたと思うのだが。


 辿はキョロキョロとあたりを見回して、いると思われる少女の影を探す。


 しかし、あの染めた金髪のハーフ美少女の姿はどこにも見えない。


 あの衣装だ、こんな中世ヨーロッパ風異世界で目立たない訳がないのだが、どういうわけかどこにもいない。


(まさか、時間軸か空間軸が、もしくはその双方がズレたのか?)


 よく異世界物のネット掲示板で、集団で転移した際に、世界ごとの時間のズレや座標のズレが存在するばかりに、転移したあとに離れ離れになると言うものを聞く。


(どっちかわからない以上、無闇に探し回るのは危険か)


 顎に指を添えて、辿は考え込む。


(となれば、異世界物の定番たる冒険者にとって、一番有名な土地に向かうのがセオリーだろうか)


 いつの日か、アリスもよく異世界物のラノベはよく読むと言っていた。

 なら、異世界→冒険者という連想が真っ先にできるだろうと考える。

 なら、彼らにとっての聖地に目指したほうが、遭遇する確率は高そうだ。


「そうと決まれば、冒険者登録からだな」


 そもそも、この世界に冒険者という職業があるのかすら不鮮明だが、そこは期待することにしよう。


「キャーッ!?」


 そうやってひとまずの目標を立てたところで、今しがた座っていた階段の向こうの方から、なにやら少女の悲鳴が聞こえてきた。


「!?」


 声は結構遠くから聞こえてきていた。

 大通りに面したこの場所では、道を通る馬車の車輪の音でほとんどかき消されて、他の人たちにはどうやら聞こえていないようである。


(これが、噂に聞くイベント発生ってやつか!)


 辿は不謹慎にも、どこかワクワクとした緊張感を隠せない表情でニッと笑うと、路地裏へと続く階段を駆け上がるのだった。


⚪⚫○●⚪⚫○●


 路地裏の石畳を蹴って進むと、奥の方にチンピラ三人に囲まれる、背の低い少女がいた。


 少女の出で立ちは、見るからにザ・街娘といった風貌の茶髪おさげに白頭巾で、顔の方は背を向いていてわからない。

 一方でチンピラ三人の風貌といったら、こちらもザ・チンピラといった、ヒョロノッポ、デカデブ、チビの三拍子である。


「は、離してください!」


 ヒョロノッポに腕を掴まれているらしい街娘が、足を踏ん張りながら開放を求めた。


「ヤだよばぁか!

 お前があのブラッキーの弱点だってことは知ってんだよ!

 あいつぶっ飛ばすまではぜってぇ離さねぇ」


 しかし、男の方はといえば、よく事情は分からないが、何が何でも彼女の手を離したくないようだ。


 はたしてブラッキーというのが誰なのかは分からないが、とりあえず女の子が嫌がっているので、テンプレートに助けに行こうと考える。


(三対一になるが、まあ異世界物の定番たるチートが発動してくれれば、何の問題もないだろう)


 辿は浮かれた脳みそで適当にそう決を出すと、そろそろ拳を振り上げて少女を殴って黙らせようとしているヒョロノッポへと突進した。


「うおおおおお!!」


「!?」


 辿の雄叫びが路地裏に木霊する。

 ヒョロノッポ以外二名が、そんな彼に気がついて、そして彼のしようとしていることに気がついた頃には、俺の拳をがヒョロノッポの顔面に炸裂していた。


「ぶふぉっ!?」


 反射的に、少女の胸ぐらを掴んでいた手が離れる。


「あ、アニキィィ!?」


 口から唾を撒き散らしながら二メートルほど吹き飛んだヒョロノッポに、チビが甲高い声で叫んだ。


 その一方で辿はと言うと、ぶつかった彼の顔面の感触に違和感を感じていた。

 なんと言うか、軽すぎるのだ。


(もしかして、これが俺のチート能力か!?)


 早合点した辿は、続いてこちらへと拳を振り下ろしてくるデブの鳩尾に、回転を効かせた右ストレートを叩き込んだ。


「……あれ?」


 しかし、今度はちゃんと重い抵抗力が骨を伝って、さっきのが自身の思い上がりだったということを教えてくれた。


「ふんっ!」


 一瞬の硬直。

 デブはその隙を狙って、上から大ぶりのチョップ(ただしその手はグーだった)が振り下ろされてきた。


(あ、これもうダメだ……)


 その拳の軌道は、完全に辿の脳天を狙って描かれている。

 デカイデブの鳩尾を殴ったときに理解したことだが、こいつ、デブのくせに結構な筋肉量だ。

 きっと腕力もすごいに違いない。


 終わった。


 助けようとして、負けて、リンチにされる未来が俺には見える。


 心なしか、背中にかばったはずの少女の目には嘲笑が浮かんでいるような雰囲気がしているような気さえする。

 錯覚であることを願うばかりだ。


 だいたい、そもそも喧嘩なんて中学生以来したこともないくせに、こんな大見栄はるんじゃなかったんだ。

 きっと、異世界にやってこれたことで浮かれて、調子に乗りすぎていたんだ。

 そうだ、きっとそうに違いない。


 辿はそんな、自棄とも言える諦めを湛えると、ギュッと目を閉じて、やってくる衝撃に備えた。


「……っ!」


 しかし、いつまで経っても、そんな衝撃はやってこない。

 もしかして、そんなことを感じる暇もなく死んでしまったのか。

 頭蓋を叩き割られて?


 もしそうなら、あの世というのはどんなところなのだろう?


 なんて、そんなことを考えながら、しかし若干の希望を抱いて目を開けてみた。


「よく時間稼いでくれたな。礼を言うぜ、御仁!」


 不意に、そんな中性的な声が鼓膜を打った。


「っせい!」


 目を開けて見てみれば、そこにはハンマーを前腕で流しながら相手の体勢を崩しつつ、さらに足でデブの体幹を崩してその胸骨のあるあたりにストレートを放つ、黒髪ロングの少女(少年?)が居た。


「うっぐはっ!?」


 肺から強制的に息を押し出されたデブが、きりもみ回転しながら、今起き上がったばかりのヒョロノッポに突っ込んで、もつれて路地裏を転げていく。


「怪我無いか、御仁?」


 中性的な声音の少年――いや、少女か?は、手を払いながら、こちらを見ずにそう尋ねてきた。


「あ、ああ。お陰様で」


「なら良かった」


 少年(胸がなかったので、とりあえず少年ということにした)は一言そう相槌を打つと、鋭い視線をチンピラに向けた。


「全く。

 オレがちょっと目を離した隙にこれだかんな……」


 彼は呆れたように呟くと、詠春拳の様な構えをとって、三人に威圧をかけた。


 すると、彼らはヒッ!?という、まさにテンプレートな短い悲鳴を上げると、転びそうになりながらも必死に退散していった。余談だが、チビの方は逃げる際に足がもつれて転倒していた。


⚪⚫○●⚪⚫○●


「さて、改めてお礼しないとな。

 リリャを助けてくれてありがとう」


 黒髪の少年が、ニッカリと笑顔を向けて、握手を求めた。

 彼の言葉と一緒に、少女がペコリとお辞儀をする。


 少年の服装は、リリャと紹介された彼女と同じ、亜麻色のチュニックに、若草色の、縫い目が目立つ半パンだった。

 身長は辿の胸下あたり。

 リリャは彼の肩ほどの身長だ。


「あ、いや。

 こっちこそありがとう。

 俺の名前は辿だ、月詠辿。

 タドルが名前で、月詠が家名」


「よし、タドルだな!

 オレはオリバー。よろしく!」


 そう言って、二人は握手を交わす。


 オリバー。やっぱり男だったみたいだな。


「にしても、タドルって貴族だったのか……。

 通りで変な服装だと思った」


 一通り自己紹介を終えて手を離すと、オリバーは胸の前で腕を組みながら、ほぇ〜と辿の衣服を眺め始めた。


「いや、貴族じゃない。

 ただの旅人だ」


「にしては、随分と手持ちが少ないようだけど?」


 言われて、今自分が手ぶらであることを思い出した。

 たしかにそうだ。

 旅人なら鞄の一つくらい持っているものだしな。


「あ〜……そこは、触れないでいてくれると嬉しいかな」


 しかし、他に誤魔化せる材料もない。

 辿はしばし視線を彷徨わせたあとにそう応答すると、はにかむような表情を作った。


「ま、そうだよな。

 触れられたくないことの一つ二つ誰にでもあるものだし……」


「わかってくれて助かる」


 オリバーはうんうんと頷くと、よしと掌を打った。


「よし。

 こんなところで立ち話も何だし、場所移ろうぜ!

 いいところを知ってるんだ」


 彼はそう言うと、リリャの手を引いて路地裏の奥の方――チンピラの逃げていって方へと歩みを進めた。

 その後ろを、遅れないように歩いてついていく。


 しばらく路地裏を歩くと、入り組んだ小道に出た。

 空を見上げて見れば、風に揺られている洗濯物が空を彩っている。


 下り坂を降りて幾つかの角を曲がって、上へと登る螺旋階段を上がっていく。


 やがて、上に干された洗濯物がなくなるところまで来ると、腰までの黒い鉄柵に囲われた展望台までやって来た。


「いいだろ、ここ」


 オリバーは景色に背を向けると、両腕を広げて突風にその黒髪を靡かせた。


 辿は柵の近くにまで歩を進めると、そこから見える景色に、言い知れない感動を覚える。


「ああ。いいな、ここ」


 一面の草原に、突き抜けるような蒼天。

 向こうには広大な森林が広がっていて、大きな山脈につながっている。

 広大な草原は風に吹かれて波紋を見せて白くうねり、草原をかける牛か羊の様な生き物の群れが、どこか牧場歌的な長閑さを覚えさせてくれる。


 のどかな田舎の風景。


 一言で言えば、そんな感じの景色だった。


 オリバーはそんな辿の反応に満足したのか、腰に両拳を当てて得意げに笑う。

 その隣で、リリャも同じようにニッコリと大輪のような笑顔を浮かべてみせた。


「そういえばさ」


 しばらくの沈黙のあと。

 柵に凭れかけるようにして腰掛けたオリバーが、こちらを見ながら話しかけた。


「これからどうするとか決まってるのか?

 その様子だと、宿にも泊まってなさそうだし」


「……よくわかったな?」


「まあな。

 旅人と言う割には荷物もねぇし、貴族の言い訳にしちゃ腑に落ちないところも多い。

 詮索する気はねぇけど、オレ、そういうところには聡いからさ」


 オリバーはそう言うと、柵から離れて伸びをした。

 リリャも彼に倣って柵から離れると、トテテとオリバーの後ろについていく。


 今後の予定か……。


 一応冒険者――無ければ傭兵とか、それに近そうなものに登録して路銀を稼ぎながら、聖地や有名地を目指すつもりだが……。


「そうだな……。

 とりあえず、日銭を稼ぎたいかな。

 無一文だし」


 辿はしばらくの沈黙のあと、そう返答した。


「なら、いいところを知ってるぜ!

 その様子だと冒険者にも登録してなさそうだし、日銭を稼ぐならそこがオススメだな!」


 冒険者!

 やっぱり異世界に冒険者はつきものだよな!


 あ〜よかった……。

 冒険者がなかったら路頭に迷うところだった……。


 辿は内心ホッと胸をなでおろすと、そんな様子の彼に怪訝な眼差しを向けるオリバーに礼を述べた。


「そっか。

 ありがとう、オリバー。

 良ければだけど、その冒険者になるにはどうすればいいか、聞いてもいいか?」


「いいぜ!

 つっても、ただギルドに行って受付の人に話すだけだけどな」


 彼はそう言うと、ついでだからとギルドまで道案内をしてくれると申し出てくれたので、辿はそれに甘えることにするのだった。

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