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ニートな女神がログインしました。  作者: 唯一信
第2階層―GREEN―
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ニートな女神と初めての逡巡

逡巡しゅんじゅん[名詞]

意味:決断できないで、ぐずぐずすること。しりごみすること。

例文:「嫌いな上司を殴ってやろうかどうか―する」

 タワーマンションを出た私たちはまた夏祭りの会場へと向かって歩き始めた。

 途中で祭り帰りの高校生たちのグループや家族連れ客たちと何度かすれ違ったけど、誰もが満足した顔をしているのを見て私たちも笑った。

 そして会場の入り口まで戻ってくると、ヤヌスとはそこで別れた。


「ヤヌス、今日は本当にありがとうな。さっきも言ったけど、誘ってくれて」


 私はヤヌスに改めて今日祭りに誘ってくれたことへの礼を言った。

 するとヤヌスも照れくさくなったのか頬をかきながら答えた。


「うん。アストレアが楽しんでくれたのなら良かったよ。僕も楽しかったし」

「そっか。でも来年は私じゃなく気になってる女神誘えよな。勇気出してさ」


 私がそう突っ込むとヤヌスはなんだか微妙な顔をした。


「う、うん。そう、だね」

「何その反応。っていうかヤヌスって意外に奥手だったんだな」

「え?」

「いや、お前って意外と行動力あるんだなって今日思ったから、それで逆にね」


 だからヤヌスが誘えなかったという件の女神は、きっと相当な美人なんだろう。

 誰かな。フレイヤとかアフロディーテとか有名どころか。ああでもヤヌスならもっと現実的なタイプの子が好きなのかな。うーん、わからん。


「いや、さすがにそんなことはないよ。僕だって好きな子の前とかじゃその、緊張するし」


 そりゃあそうか。ヤヌスだって別に完璧超人ってわけでもないからな。

 でも、それならやっぱりヤヌスが私のことを好きだなんてことはなさそうだな。だってヤヌスは私の前じゃほとんど緊張していないように見えるし。


「まあいいや。その話はまた今度しよう」

「え、今度って」

「いや、ヤヌスの好きな子の話。ちなみにその子私の知ってる子……なわけないか」


 だって私交友関係かなり狭いし、というかヤヌスと共通の知人とかいなかったわ。


「う、うん。アストレアの知らない子だと思うよ、たぶん」

「だろうな。まあ、その子の話ももっと詳しく聞かせてよ。私応援するからさ」

「うん、ありがとう」

「おう。こうみえて私、高校の時後輩の女神をカップル成立まで導いたこともあるんだぞ」

「そ、そうだったんだ」

「ああ」


 まあ、その後輩は付き合って1年で相手の男に飽きてすぐそいつと別れたらしいけど。


「んじゃあまあ、今日はこの辺でな。仕事さぼるなよ」

「う、うん。じゃあまたねアストレア」

「おう。またなんかあったらLINNEで連絡くれな。じゃあ」


 そう言って私はヤヌスに別れを告げるとバス停へと向かって歩き始めた。

 幸いにも帰りのバスはすぐに来たけどヤヌスは私がバスに乗ってバスが発車するまで見送ってきやがった。いや、あいつ……すげぇな。

 でもたぶん祭りが終わってもうだいぶ経ってるからヤヌスはきっとこの後怒られるんだろうな。

 その、工房の親方たちとかから屋台の片付けとかさぼってどこほっつき歩いてたんだって。


「うーん。そうなったら今度またあいつに何かお返ししなきゃいけないかも」


 私はバスの中で1人そう呟いた。

 それから私は少しうつらうつらとしながらもなんとか寝過ごさずに、途中でバスを乗り換えてまた私の住んでいるボロアパート『はしくれ荘』の近くにあるバス停まで帰ってきた。


「ああ、疲れた。でも今日はいい1日だったな」


 ニートになってからそう思う日はほとんどなくなっていたのだけど、でも今日はいい1日だった。

 祭りも楽しかったし、ヤヌスに今好きな女神がいるって話も聞けたし、それで私のあいつに対する疑いも晴れてすっきりした。

 ただ、ちょっと。ほんのちょっとだけどこか期待してた私もいたのだけど。

 もしもヤヌスが本当に本当は私のことが好きで、まあ今日ではなかったにせよいつか私に愛の告白とかしてきたとしたら、その時私はなんて答えたのだろうか。


 少なくとも私の方にはまだそういう恋愛感情とかいうのはないから、でもヤヌスの方が真剣だとしたら案外私は受け入れたりとか……いや、ないか。それでもきっと断っていただろうな。

 何度も言うけどヤヌスと私じゃ絶対に釣り合わないと思うし、ヤヌスにはもっと、私なんかよりもふさわしい女の子がいるはずだろう。

 こんなやさぐれたニートなんてヤヌスはおろか男は誰も見向きもしないだろうし。


「でも、さっきのあれはなんだったんだろうな」


 さっきのあれ。一緒に花火を見ている最中にふとヤヌスの方を見たときにヤヌスの顔を見てなんだか顔が一瞬だけ熱くなったというあれは、いったいなんだったのだろうか。

 もしかして私、あいつの横顔に見惚れてた?


「いや、ないない。たしかにあいつはイケメンだけど、でもヤヌスはヤヌスだし」


 そう、きっとさっきのはあれだ。

 ちょっと男と2人きりで花火見るとかいう状況に改めて気づいて、照れくさくなっただけだ。

 うん、きっとそうに違いない。


「それにどっちにしてもヤヌスには好きな子がいるみたいだしな。ほんと、どんな子なんだろう」


 私はアパートの階段をあがって203号室の扉の前までやってきた。

 そして懐から部屋の鍵を取り出すと鍵を開けて自分の部屋へと帰還した。


「あー、もう面倒だしこのまま寝ちゃうか。浴衣は、まあ来年の夏までもう着ることもないだろうし」


 私はそう言うと皺がつくことも躊躇わずに浴衣の帯だけゆるめるとそのままベッドへ直行した。

 と、その前にスマホを充電器にさして、財布もいつもの鞄の中に戻しておく。

 枕元には昨日の祭りで射的屋で私が当てた(サービスでもらったに近い)熊のぬいぐるみがあった。


「ふふふ。来年の祭りは1人でも行ってみようかな」


 私はそんなことをつぶやきながらもそれからすぐに眠りについた。

 そして、その日はまた夢を見た。

 夢の内容はこの前見たのと同じで、私が神様としてこの神界に誕生した時の記憶だった。


 ――大神殿でゼウスの声が響き渡る。


「汝、●●●●―●●●●●●ンよ。そなたは神になるための条件を満たし、神になるための試練を乗り越えたものとして本日付けをもって神格を与えるものとする」


 それは私が神になった日の出来事であり、神界にいるほぼすべての神がこの通過儀礼をもって神となる。

 その例外がゼウスをふくむ10柱の神々であり、神界の誕生と共に生まれた原初の神だ。

 そこから後に誕生した神々には、皆神になる前の元の姿があるのだという。


 ただ、その元の何かがなんであったのかという記憶は神として新たに生まれた時にたいていは忘れられてしまうらしく、また覚えていたとしても別に何が変わるわけでもない。

 覚えているものたちの話では、ある者は元は犬だったり、またある者は人だったり。

 そして神々の前身というのはそれだけではなく物や土地、エネルギーでさえも神になりえる。

 とにかく神になるための条件を満たしたものであればなんであれ神になりうるのだ。


 だけども私は子供の時から何度もこの夢を見ている。

 いつもは上手く聞き取れないはずの私の前身の名前が、今回はちょっとだけ聞き取れた。

 どうやら私の前身は最後が『ん』で終わる何かだったらしい。

 しかもゼウスの口の動きからするとそれはそれなりに長い単語のようだ。


 ――ダメだ。やっぱり思い出せない。


 そしてその後で私は、ゼウスからアストレアという神としての新たな名と、「正義」を司る神であるということを教えられる。

 それから私は神界に新たな命、新たな神として誕生し今の両親の元へと送られる。

 私は両親に育てられ、身体も心もすくすくと成長し、幼稚園、小学校、中学校、高校と進学していった。


 ――ああ、あの頃は楽しかったなあ。毎日何かしら楽しいことがあって。


 友達ともいつでも会えて、遊んだり、勉強したり、他にも色々。とにかく毎日が充実していた。


 ――ああ、なんで私今ニートなんてやってるんだろうな。どこで道間違えちゃったんだろうな。


「いや!、それは最初からだろ!」


 私は自分の夢の中の自分の思考に対して、ツッコミをいれる形で目が覚めた。

 ベッドの上で部屋の天井を見上げながら、私は前身汗でベトベトになっていた。

 ああ、昨日は浴衣着たままで寝たからもう最悪だ。


「正義なんてよくわからんもの司る神様じゃなかったらな。私だって!……私だって、なぁ……」


 私はそこで急に虚しさを覚えて涙が出るのを必死にこらえた。

 いや、実のところ本当はもうわかってはいるつもりなのだ。

 私はきっと、たとえ司るものがもっと簡単かつ単純なものであったとしても、今と同じような状況に陥っていたのではないか、と。

 それは私自身の問題であって、きっと悪いのも全部私なのだ。

 ただそれを認めたくなくて言い訳を続けてるだけだということも、わかってはいるのだ。


「……ああ、もう。とりあえずシャワー浴びて着替えるか」


 私は感情のたかぶりを抑え込むとそう言って立ち上がり浴衣を脱いだ。

 いつものように浴室でシャワーだけを浴びるとバスタオルで髪と身体をよく拭いてからドライヤーで髪を乾かし、そして下着を変え服は部屋着に着替えた。

 浴衣は、汗でベトベトになっちゃったけど洗濯機で他の衣類と一緒に洗うわけにもいかないから今度クリーニングに出すことにして今は綺麗に畳んでタンスに閉まっておこう。

 まあ、もしかするとそのまま存在を忘れて来年になってから思い出して、その時もう1度出したら大変なことになってるかもしれないけどその時はその時だ。作ってくれたミナカタさんには悪いと思うけど。


「私だって、働きたいって思いはまだ残ってはいるよ。でも面接の時とか絶対聞かれるし」


 あなたにとってあなたの司るものはどういうものだと考えてますか?

 それは神界での企業の採用面接の際に面接官がまず聞いてくる質問の1つだった。

 私は実際に過去に何社もの会社、企業の面接を受けてほぼ全部の面接でその質問を受けた。


 私が司るものは「正義」、つまりその質問はあなたにとっての正義とは何かということ。

 私はその質問にいつも酷く曖昧で誰もが自分が正しいと主張するものと答えたが、どうやらそれではダメらしいということはもうわかった。

 だけど、でもそれじゃあなんと答えればいいというのだ。

 正義とは何かなんて、そもそもその質問に答えることで私の何がわかるというんだろうか。もしも正解があるというのなら誰か教えてくれ。


「くそう、どいつもこいつもなめやがって」


 私は部屋で1人そうつぶやいた。

 でも、そんなことを言っていたってなにも始まらない。

 早いところ正義とはいったい何なのかということを、その答えを見つけ出さなくちゃいけない。

 そのためにも私は、ヘルメット型のゲーム機を頭に装着すると今日もゴッドワールド・オンラインの世界へとログインした。


 おそらく、このゲームの中にその答えがあるに違いないと期待を込めながら。


 後はまあ、普通にゲームを楽しんでるっていうのもあるけどね。

 いや、最近はもうむしろそっちが本命になりつつあると思うんだよ、うん。


 <第2階層:花の都フローリア>


 というわけでさっそく今日もゲーム攻略をしようじゃないか。

 とは言っても、もうこの階層であとやるべきことはほとんどないに等しいのだけど。

 そう、最後に残されたギルドの4つの住人クエスト。

 そのうち1つはボスクエストであり、そのクエストがこの階層のギルドクエストの中では最高難易度のものであるという話だった。


「あー、ボスクエストどうするかな」


 噂によればその最高難易度のボスクエストに登場するボスは第1階層のあのゴミ山クエストに出現したボスモンスター、ヤタガラスと同等かそれ以上の強さを持っているという話だったが。

 ヤタガラス戦の時よりも今は私のレベルも大幅に上がっているし、ヤタガラスと同等の強さだというのならソロで挑んでみてもいいかなと思ってはいるのだけど。


「んー、とりあえずボスクエスト以外の3つを先に片づけてから、だな」


 私は冒険者ギルドへとやってくると、私がまだ受けていない残る4つの住人クエストは現在誰も依頼を受けてはいないようだったので、私はとりあえずその4つのうちボスクエスト以外の3つの依頼の依頼書を掲示板からはがすと受付へと持っていき依頼を受けた。

 ボスクエストの方は、まあ後で誰かパーティ組んで一緒にクエスト受ける可能性も考慮して今は受付しないでおく。どうせ放っておいても誰も挑戦なんてしないと思うから大丈夫だろう。


 それから私は引き受けた3つの住人クエストをこなしていった。


 クエスト名:『ハニースイーツが食べたい』

 クエスト内容:ハニービーを倒して手に入るはちみつを30個渡す

 クエスト報酬:ホットケーキ[食べ物]、70G。


 クエスト名:『好きなあの人が好きな花』

 クエスト内容:アルベールの村にいるNPC(女性)に好きな花が何かを聞いてくる。フローリアの街にある花屋で聞いた花を買い、街にいる依頼主のNPC(男性)からの手紙と一緒にNPC(女性)に手渡す。女性が手紙を読んだ上での男性への返事の手紙を受け取り、それを男性へと手渡す。

 クエスト報酬:フローリアの街の花屋で買えるアイテムが全額10%引きになる。300G。


 クエスト名:『バトル!バトル!バトル!』

 クエスト内容:第2階層迷宮ダンジョンで、ダンジョンに入ってから他のモンスターを倒さないままでバトルボアのみを10体倒してくる。(もしも途中で他のモンスターを1体でも倒してしまったらまたダンジョンに入るところからやり直しになる。)

 クエスト報酬:バトルアックス[斧]、850G。


 全部を終えるのにそんなに時間はかからなかったと思う。

 強いて言うなら2つ目のクエストはフローリアの街とアルベールの村を行ったり来たりさせられて面倒だったということと、3つ目のクエストのクエスト達成条件が割とシビアだったこと。


 そして肝心の報酬内容についてだけど。

 ホットケーキは本当にただの食べ物アイテムで食べるとHPとMPが10回復するという効果があるだけで、使い切りのアイテムだったしそれで食べてみたらふつうに美味しいホットケーキだったよ。


 花屋で買えるアイテムが全額10%引きになるっていうのはなぁ。

 花屋で売ってるのは全部花だし、私は花を買う趣味はないからな。皐月さんと違って。

 ああ、ちなみにクエスト内でNPCの女性が好きな花はフリージアという名前の花だった。

 最終的には女性から男性あての手紙を受け取って、依頼主の男性に手紙を渡した時にその場で男性は手紙を開けて読んだんだけど、どうやら恋は成就しなかったみたい。残念。


 バトルアックスというのはもちろん武器であり、斧だ。

 私は斧はまだ装備できないので今は死にアイテムだけど第2階層のクエストの報酬でもらえるアイテムにしては割と強力な武器だと思うよ?

 一応紹介しておくけども。


 〇バトルアックス

 STR+40 VIT+22

 特殊効果:戦闘中モンスターに与える物理攻撃ダメージが1.2倍になる。


 物理攻撃に限定されているとはいえ、相手のモンスターの種族とかの指定もないから基本どのモンスターにも与えるダメージ増加というのは強い。

 きっと初期武器を斧にしていたプレイヤーはこのクエストをこぞって受けるんだろうな。

 でもこのクエスト、やってみて思ったけど難易度すごく高いよ?


 バトルボアは迷宮ダンジョンの地下2階から出現するから地下1階ではモンスターを1体も倒してはいけないし、その関係で通路でビッググリーンスライムに挟まれたりしたらその時点でやり直し確定。

 さらにバトルボアはこの階層に出現するザコモンスターの中ではフォレストベアに次いで強い厄介なモンスターだしそれを10体とか。まあ私はもう余裕だったけど。

 でも途中で間違って別のモンスター倒しちゃったりして結局私でも4回は途中で最初からやり直しにさせられて、いや本当にきつかったよ。なんか3回目の挑戦あたりで泣きそうになったし。


「これでボスクエスト以外の住人クエストは全部終わったんだけど」


 私はギルドの住人掲示板に貼られた最後のボスクエストの依頼書とにらめっこしていた。

 その依頼書にはこう書いてあった。


 クエスト名:『草原の守護者』

 クエスト内容:牧草地帯に出現するモンスターの討伐。詳細は依頼主に聞くべし。

 クエスト報酬:???


 報酬の欄がはてなマークになっているのは実はもう何度も見ている。

『花畑に咲く悪の花』や『野菜大作戦!』のこの階層の他の2つのボスクエストも同じだったし。

 きっと、この報酬の欄にすごいアイテムとかもらえるって書いちゃうとそれ目当てでクエストを受けるやつが殺到してしまって、それでボスに手も足もでずに負けてしまうというトラウマを植え付けないための配慮であると私は考えているけど。

 この報酬がはてなマークのクエストがつまりボスクエストであることの証拠みたいな?


 それで、問題はクエスト内容なんだけどやっぱりそっちも詳しく書いてはいなかったか。

 いやまあ詳細は依頼主に直接聞いてと書かれたクエスト自体は、他の低難易度の住人クエストでも割と多くあったんでそれはいいんだけど。


「……正直怖いな、これ」


 牧草地帯に出現するモンスターの討伐というだけのクエストなら誰しもが気軽にこのクエストを引き受けたに違いない。しかしこれはボスクエスト。クエストの中でめちゃくちゃ強いボスモンスターとの戦いが待ち受けているのだ。そしておそらくこのクエストはボス戦以外にも絶対に面倒くさい前哨戦とかあるに違いない。他のボスクエストと同じく。


「……ああー、どうしようかな。やっぱソロじゃ無理かな。でもこのクエスト一緒に受けませんかって頼んでパーティ組んでくれるやつなんているかな」


 おそらくだけどこの階層に来たばかりのプレイヤー以外はギルドのこのクエストがボスクエストでありかなりやばいやつだという情報は知っているはず。

 だからと言ってこの階層に来たばかりのプレイヤーを誘っても、きっと戦闘じゃボスに瞬殺されるのがオチだろうしそんな可哀想なことはさせたくない。


「うーん」


 私はそれからしばらくの間ずっと掲示板の前で腕を組みながら考え込んでいた。

 するとそこで冒険者ギルドの扉が開かれて聞き覚えのある3人組の声が聞こえて来た。


「いやー、それにしてもギリギリだったな」

「ああ、まさか飛ばした腕が自動で再生するようになったとは」

「だから言ったじゃない。下手にちょっかいかけるんじゃないって」

「でもまあ勝ったんだしいいじゃないか」

「それは、まあそうだけど」


 しかし、それはある意味でベストタイミングだったのかもしれない。


「あれ?」

「どうしました課長」

「いや、あの掲示板の前にいる子」

「んー?……あ!」


 この前とは逆だな。ちょっとだけデジャヴ。


「玲愛ちゃん!」

「どうも、こんにちわ」


 もちろん私に気づいて声をかけてきたその人たちは、この前も一緒に組んでクイーンビーを討伐しに行ったことのある3人組で。通称麺類トリオ。……そう呼んでるのは私だけだけど。


「おお、やっぱりそうだ」


 リーダーのパス太、私と同じ片手剣使いでリアルではある食品会社の課長らしい。


「久しぶり……でもないか」


 がたいのいい男はペペロンチーノさん、長いのでペペさん。大剣使いのパーティのアタッカー。


「ああ、玲愛ちゃん装備変えたんだ。フードとマントになってる」


 そしてパーティの紅一点でもあるナポリたんさん。ナポリさんと呼んでいる。弓使いで支援型。


「あ、はい。その、こっちの方がいいかなって思って変えました」


 私はナポリさんに装備のことを聞かれたので東也の時と同じように適当にそう返しておいた。


「そうなんだ。うん、似合ってると思うわよ」

「あ、ありがとうございます。あの、ナポリさんたちはもしかして、沼地のマッドゴーレムを倒したんですか?」


 私は先ほど3人がギルドに入ってきた時の会話を思い出しながらそう尋ねた。

 この階層で腕を飛ばしてくるモンスターと言えば沼地フィールドのエリアボスであるマッドゴーレムしかいないはずだから。


「あ、聞こえちゃってた?、うん、その通りなのよ。課長が沼地の攻略の最後だからって突撃して行っちゃって、それでもう散々な目にあったわ。まあ、最終的にどうにか倒せたから良かったんだけど」


 そうか。それはまあ相変わらずというかパス太はあれだな、目についたモンスターにはとりあえず挑んでみる精神の持ち主だったな。普通なら絶対に一緒にパーティは組みたくないやつだ。


「じゃあ、もう次は迷宮攻略ですか?」

「いや、迷宮にももう挑んでるわ。中ボスのライカンスロープっていうのも倒したし。残るはボスだけなんだけど。今は皆でレベル上げしてたとこで。玲愛ちゃんは?」

「あ、私はその……」


 私はナポリさん、ペペさん、パス太の3人の顔を改めて見ながら考えを巡らした。

 さて、どうするべきだろうかと。


次回、最後のボスクエストへ挑戦。

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