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ニートな女神がログインしました。  作者: 唯一信
第2階層―GREEN―
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86/171

ニートな女神と初めてのありがとう

第2階層編の大きなドラマパートは今話で終了。

やっぱり筆者はドラマパートは苦手です。


 今まで何度か考えたことはあった。

 けれどもその度に私はその考えを否定してきた。

 だって現実的に考えてありえないと思っていたし、それにもしも本当にその考えが正しかったとしたら私はその時どうすればいいのかなんてわからなかったから。


 ヤヌスが、私のことを好きなんじゃないかなんてありえない。


 ヤヌスは、顔はそこそこイケメンだし性格だって誠実で実直で、仕事の方はまだ家具職人の見習いだけどもきっとすぐに一人前の職人になるはずだ。

 それに対して私は顔だってスタイルだってそんな良くないし、いやそこまでブサイクとも思わないけど。でも性格はがさつで面倒くさがりで女子っぽさなんて皆無だと思うし、何よりも私はニートだ。

 思い云々の前にヤヌスと私では客観的に見てもまったく釣り合っていないだろう。


 そして思い云々の話をすると、だ。


 私は今まで1度も男に恋をしたことなんてない。

 別に恋愛に興味がないわけではないし、出来るなら将来的には誰かと結婚したいとも思ってる。

 それも出来るならという話であって、出来ないならずっと1人でも構わないと思ってたし。

 それに、たぶん出来ないんだろうとさえ思っていた。


 そういえば小学校でも、中学校でも、高校の時もそうだったな。

 友達やクラスメイトと恋バナをしたりしても私は、いまいちピンと来てなかったというか。まあ1度も恋をしたことのない私はそれも当然かと思っていたくらいだし。


 あ、ちなみに誤解なきように言っておくが私は別に女が好きだというわけではない。

 いや、高校時代クラスに実際にいたんだよね、女神同士で付き合ってるとかいう百合カップル。

 それを知った時は正直引いたし、でも、まあそういうのもありかと思いなおしたりもしたけど。

 少なくとも私についてそれは違うと断言できる。


 話を戻そう、私の恋愛観についてだ。


 それでまあ、だから私は恋愛というものについては未だによく分かっていない。

 友達が誰々が好きなんだよねとか言ってるのを聞いてもそうなのかと普通に流していたし。

 そもそも、異性を好きになるという感覚がわからない。


 もちろん見た目や性格の良し悪しについて客観的な判断を下すことはできる。

 できるからこそ私は、ヤヌスのことについては顔も性格もいい男なんじゃないかと言えるのだが。


「なあ、ヤヌス。お前さ、今好きな女神とかっているの?」


 私は花火が上がり始めるのを今か今かと待ちわびてるっぽいヤヌスに聞いてみた。

 ヤヌスはその質問を受けてびっくりしたような顔をした。


「え?、なに、アストレア急に」


 ん、その反応はどっちなんだろう。


「いや、さ。だってお前って結構良いやつじゃん?、こんな私と友達でいてくれてるしさ。その、あくまで友達として気になるからちょっと聞いてみただけなんだけど」


 やべ、今の言い方だと逆に私の方がヤヌスに気があるみたいに聞こえるかも。

 でももう言っちゃったしな。


「そっか……うん。まあ、気になってる女神ひとはいる、かな?」


 おおお、なんと。やっぱりヤヌスにもそういうのいるんだ。


「え、マジで?」

「うん」

「でも、え、それならさ。今日の祭りその子誘えば良かったんじゃね?」


 そう、好きな女神がいるなら私なんかよりもそいつと……あ。


「いや、うん。えっと……」

「あ、あー。ごめん。今のは私が馬鹿だったな」

「え?」

「つまりお前そいつを誘ったけど断られたわけだ。それで私のことを誘ってくれたんだろう?」


 そう。そう考えれば納得だった。

 ああ、そういえばこの祭りに行くのを誘ってくれたあの時も、私ヤヌスは他に一緒に祭りを見て回る友達とかいないのかなとか思ってたけど、そういうことか。


「つまり私はそいつに断られた代わりというわけだ」


 だけど、私がそう言ったらヤヌスはそれを否定してきた。


「いや、そんなことはないよ。アストレアを祭りに誘ったのは前にも言ったけどアストレアの気分転換になればいいかと思って。あ、もちろん僕もアストレアと一緒に祭りを見て回りたいと思ってたよ?」

「でも、お前好きな女神いるんだろう」

「いる、けど。…………そもそも誘ってないんだ」

「え?」


 誘ってないって、え?


「いや、その、誘う勇気がなくてさ」


 え、ええー。ヤヌスお前、それさ……いや、元はと言うと聞いた私が悪かったか。


「あ、そうだったんだ。…………なんか、ごめん」

「いや、別にいいけど」


 うん。私もまさかの答えに今びっくりしているよ。

 だってヤヌスは、少なくともニートで引きこもりがちだった私を外へ連れ出そうと考えられるくらいには行動力があって。一応女神である私の手を自然にとって引いてくれる度胸もあって。

 だから好きな女神を祭りに誘うくらいわけないことなんだろうと勝手に思ってたんだけど。


「でも、それならなおさら私なんかと……お前は私以外に友達とかたくさんいるだろうし。そいつらと行けば良かったんじゃないの?」


 私はそう聞いた。するとヤヌスはそこで少しだけうつむいた。


「……そうだね。でも……今年の夏祭りはアストレアと一緒が良かったんだよ」

「どうして?」

「それは、その……」


 そしてヤヌスがそこで言い淀んだところでいきなりドーンという音が聞こえた。

 見れば祭り会場の方で最初の花火が上がったところだった。夜空に綺麗な光の花を咲かせて、花火は儚く散っていった。


「あ、花火が始まったみたいだ」


 ヤヌスはそれで顔をあげると、話は一旦はそこで終わった。

 私もヤヌスと一緒に空に目を向けると、それからは花火が次々と上がり始めた。

 ヒューという音の後にバーンと爆発しては消えて行く。花火は本当に綺麗だった。

 だから私も、それから花火が終わるまでは何も言わず、何も聞かずにただ花火を見ていた。

 うん、今日は来て良かったと本当に思ったよ、その時は。

 だって花火を生で見たのって、たしか、高校2年の夏が最後だったかな。

 でも今日見た花火は、なんだろう。今まで見たのより特に綺麗だったというか。

 見ているうちに自然と笑みが浮かぶくらいには見ていて楽しかった。


 花火を見ている最中に私はふと隣にいるヤヌスの方を見てみた。

 ヤヌスはまるで子供のように夢中で花火を見ていてその目はキラキラと輝いていた。

 その顔を見て私は、ほんとうに一瞬だけど奇妙な感覚に陥った。

 なんというか、その時ちょっとだけ顔が熱くなったというか、変な感じだ。

 まあ、すぐに収まったんで特に気にも止めなかったんだけど。


 そうして30分の花火大会、その最後の大きな花火が上がって消えた後で辺りはまた静寂に包まれた。

 そうだった。今この場所には私とヤヌスの2人しかいないんだった。


「今ので終わり……だよな?」


 私が確認のためにヤヌスにそう聞くと、ヤヌスは私の方を見て答えた。


「うん。今のが最後。それで、どうだった。花火は」

「うん。良かったと思うよ。その、すっげぇ綺麗だったし」

「そっか、それは良かった。僕もアストレアを連れて来たかいがあったよ」

「うん。ありがとうな、ヤヌス。でも……」


 でも本当はお前、この場所で一緒に花火見たかったやついたんだろう?

 この場所だって、本当は私ではなくその誰かと一緒に花火を見たくてお前は。

 ヤヌスは、ヤヌスが好きな女神に祭りには誘えなかったと言った。

 それはつまり今日こうして、いや昨日もか。祭りに誘われた私は違うということであって。

 いや、もうさっきので確信できた。ヤヌスは私のことが、異性として好きとかそういうのはないということが。ヤヌスの言うようにいつも部屋に引きこもって最近はゲームばかりしてる私のことを、友達として心配してくれただけなんだろうということを。


「これで今年の祭りも終わりだな」

「うん、そうだね」

「あ、お前この後屋台の片付けとかあるんじゃないのか?」

「うん、あるよ」

「いや、あるよって。ならすぐに片づけに行けよ。私は1人で帰れるからもういいし」


 だけどヤヌスは一向にこの場を立ち去ろうとしなかった。

 あ、もしかして私をバス停まで見送っていくつもりか、こいつ。

 私はせっかくだからもう少しここでさっきの花火の余韻に浸りたかったんだけど、さすがにそれにまでヤヌスをつき合わせるのは悪い。ていうか、そんなことしてたら絶対ヤヌスが怒られるだろうし。


「ああ、じゃあ下に降りるか」


 私は仕方なくそう言ってエレベーターの方へ歩き出した時、ふいにヤヌスに声をかけられた。


「アストレア」


 いきなり名前を呼ばれた。しかもかなり低い声で。


「うわぁ、な、なんだよ」


 私は振り返ってヤヌスにそう言ったけど、ヤヌスは……あれ、なんか泣きそうになってる?


「え、え?、お前どうしたの?、私なんか変なこと言った?」


 少なくともつい数分前、花火を見ている時はヤヌスはむしろ笑っていたはずだ。

 もしかして花火が始まる前に私が聞いたことをまだ引きずってるのか?


「アストレア、あのさ。…………その」

「おう。どうしたん?」

「…………いや、ごめん。やっぱりなんでもないんだ」

「なんじゃそれ。いや、嘘だろ。お前だってなんかもう泣いてるじゃん」


 ヤヌスの目からはちょっと涙が出てるし、声もなんかかすれ気味だし。

 絶対お前なんかあっただろ。さすがの私にもわかるし、聞くわ。


「本当にどうしたんだよお前。もしかしてさっき私が言ったことまだ引きずってる?、それなら謝るよ。その、ほんとにごめん」


 私が気遣うようにそう謝るとヤヌスは首を横にふった。


「いや、本当になんでもないんだ。泣いてるのは別に悲しかったんじゃなくて、その、嬉しくてつい」

「嬉しい?」

「うん。その、アストレアとこうして一緒に花火を見れて、嬉しかったんだ」

「いや、それは……え、なにそれ?」


 ヤヌスにとって私と一緒に花火を見るというのは泣くほど嬉しい出来事だったのか?

 え、意味がわからない。もしそれが彼女とか、好きな女神と一緒っていうならまだわからなくもないけども、少なくともヤヌスにとって私はただの女友達のはずだ。

 というかお前、今好きな女神いるはずだろ。

 え、意味がわからない。意味がわからないけどもとにかく何か言ってやろう。


「大袈裟なやつだな。別に夏祭りなら来年だってあるんだし。え、それともお前来年にはもういなくなっちゃうの?、やっぱり家具職人になるの諦めて実家の農家を継ぐことにした、とか?」


 私がそう聞くとそれは否定された。


「いや、別にそういうわけじゃないよ」

「それならなんだよ」


 もう私の想像できる範囲のことは聞いたぞ。

 それとも神界夏祭りってもしかして今年のこれが最後だったとか?

 いや、それならもっと盛大にやるか。ていうかそんな話1度も耳にしてないし。


「その、花火を見てる時にさ、アストレアの方を見たらすごく楽しそうな顔しててさ」

「うん」

「それでその、あ、アストレアもこんな顔するんだって、思って。それで祭りに誘って本当に良かったなって思った」


 お、おおう。それは、そうなんだとしか言いようがないぞ。

 つまり私が思いのほか楽しそうにしてるのを見て、それで嬉しかったと。

 いや、違うか。正確には自分が祭りに誘った相手が祭りをちゃんと楽しんでいるのを確認できて安心したってところか。

 まあ確かに、私はヤヌスに誘われてなかったら今日も昨日も今年のこの夏祭りは行くつもりなかったし。それに花火を見るためにヤヌスが連れてきてくれたこの場所も、こっちは本当にヤヌスと一緒じゃなきゃ絶対にこれなかっただろう。でも……


「私って、普段そんなに不機嫌そうに見える?」


 私が楽しそうな顔をしているのを見て、あ、こんな顔するんだと思ったってことはつまりはそういうことなのではないだろうか?


「不機嫌そうっていうか。アストレアってその、普段はあまり笑わないなとは思ってたから」


 おっと、それは怒ってもいいのか。


「いや、そんなことない……こともないか?」


 あれ、でも言われてみれば私、リアルで最近いつ笑ったっけ?

 愛想笑いとか、苦笑いとか、呆れて笑ったりとか、後はスマホで動画サイトのお笑い動画見て笑ったりしたことはあったけど。

 そういえば純粋に笑ったことなんて……ちょっと思い出せないぞ。


「その、そうか。たしかに最近は、っていうかニートになってからは楽しいとか、そんなのあまりなくなってたかも」


 ニートになってからは、部屋の外に出る機会が極端に減ったし。

 ニートになってからは、それまでこまめに連絡をとっていたはずの友達とも話さなくなった。

 ニートになってからは、いつも将来の不安に押しつぶされそうになって暗い気持ちだったし。

 ニートになってからは、いいことなんて1つもなかったと思う。


 だけど最近では、ヤヌスにもらったあのゲーム機のおかげで、もっと言うならゴッドワールド・オンラインというゲームをプレイしていくうちに不思議と気持ちに整理がついていったというか、それまでよりも明るくなったと思うし、他人からそれを指摘されることもあった。


 理由は自分でもわからない。

 もしかするとゴッドワールド・オンラインじゃない別のVRゲームだったらここまでの変化はなかったのかもしれないし。

 ただ言えるのは、それもこれもヤヌスがあのゲーム機を私にくれたおかげだということで。


 ああ、そうか。でもそうなんだよな。


「なあヤヌス、そういえばまだ私、お前にちゃんと言ってなかったな」

「え?」


 そう、元はと言えばヤヌスの祭りの誘いにのったのだって、日ごろから何かと私のことを気にかけて時には実家から送られてきた野菜とか、コンビニで買ってきたアイスとかおごってくれたりとかしてくれることへのお返しだったわけだし。


「その、ありがとうな。……今日祭りに誘ってくれたこともそうだけど。これまでも、私にさ。ほら、色々と物くれたりとか、励ましてくれたりとかさ。そういうの全部」


 思えば、面と向かってはっきりとヤヌスにありがとうと言ったのはこれが初めてのことだった。


 そうだよ、私。お返しとかなんとか言って、それより先に言うべきことがあっただろうに。

 いや、いつも差し入れをくれた時にお礼を言ったことなら過去に何度かはある。

 だけどもそれは全部形式的なものであって、つまり本当に今までのことに感謝してヤヌスに、心から感謝の言葉を伝えたのは今のが初めてだった。


「え、うん。……どういたしまして?」


 ほら、ヤヌスだって初めて私にありがとうとか言われたせいでどう反応すればいいかわからなくなってるし。私は何故か疑問形になったどういたしましてを聞いて思わず吹き出してしまった。


「ぷっ。なんだよ、それ」

「え、え、だってさ」


 いや、私だってそりゃあ……ああ、でもそういえば。


「なあ、ヤヌス。今私ちょっと思ったんだけどさ」

「うん、なに?」

「ありがとうって言葉は、なんで言うのちょっと気恥ずかしいんだろうな」

「え?」


 ありがとうという言葉は、相手に感謝を伝える言葉だ。

 だから別にそれを言うこと自体はむしろ良いことなんだし、それで変に恥ずかしく思う必要は本来どこにもないはずなのだ。なのにいざ言うとなるとなかなか言えない。

 それが例えば大好きとかいう言葉なら、わからなくもないのだけど。


「子供の頃はさ。もうちょっと素直に言えてた気がするんだよな」

「それは、人によるんじゃないかな。人によってはごめんなさいも言えないっていう人もいるし」


 ああ、それな。でもごめんなさいは、割と誰でも言えるような気がするんだよ。

 自分が何か悪いことしたりして、自分の方に引け目があると感じれば謝罪の言葉は自然に言える。

 まあヤヌスの言うように明らかに自分が悪いはずなのにごめんなさいを言えないっていうやつもたしかにいるけど、でも謝罪の言葉は感謝の言葉よりも言う時のハードルが低い気がする。

 というよりも、言う言わないというよりも感謝の言葉は、誰かに何かをしてもらった時にそれに感謝するということ自体忘れがちなんだよな。


 同じ感謝の言葉でも、いただきますはいつも言えるのにな。


「いや、違うか。いつも言ってるから言えるんだろうな」

「何の話?」

「なんでもない。こっちの話」


 やっぱりそういうのって習慣なんだろうな。

 そういえば私、ミナカタさんにもまだ今着てる浴衣作ってくれたことへのお礼、ちゃんと言ってなかったな。今度会ったらちゃんと言っておかなきゃ。


「さ、ほらヤヌス。とにかく降りよう。それでお前はすぐに会場の片付けに行け」


 私はそこで話を終えるとまたヤヌスとエレベーターに乗り込んだ。

 そしてエレベーターがまた1階について扉が開いた時、ヤヌスが言った。


「でもさっきは嬉しかったよ」

「何が?」


 エレベーターを降りて歩き出しながら私が聞く。


「アストレアがありがとうって言ってくれたの」


 ああ、まだその話続くんだ。


「まあ、私もお前には初めて言ったと思うし。その、むしろ今まで言ってなかったのが不思議なくらいだよな。お前にはいつも世話になりっぱなしだったっていうのに」


 あるいはいつも自分に世話をやいてくれる人っていうのは、いつの間にかそれが当然みたいなことになって感謝の気持ちとか、薄れるわけじゃないけどつい忘れがちになるというか。


「あのさ、お前が前にくれたあのゲーム機あるじゃん?」

「え、うん。ゲーム機?」

「ほら、あの頭に装着するヘルメットみたいなやつ」

「ああ、あれね。うん、思い出した」


 マジで忘れてたのかよ。あれを人にプレゼントした記憶って忘れるか普通?

 まあそれは別にいいか。


「前さ、お前にその後ゲームやってるかどうかって聞かれて私そこそこって答えたじゃん?」

「うん」

「あれ嘘なんだ。実はもう結構どっぷりはまってる」

「ええ、そうだったの?」

「うん」


 なにせリアルにいる時よりもゲーム世界にいる時間の方が長いからね。


「そんなに面白いゲームがあったの?」

「うん。私もまさかそこまではまりこむとは思ってなかったんだけど」

「へえ、そうなんだ」


 私がなぜ今この話題を口にしたのか、だって?

 それはもちろん謝るためだよ。


「それでさヤヌス。ゲームもらってからさ、1度お前が遊びに誘ってくれたの断ったことあったじゃん?」

「ああ、あったね。でもその時はアストレア、用事があるって」


 そう、たしかに私はそう言ってヤヌスのせっかくの誘いを断った。


「あれも嘘なんだ。本当はずっと、部屋でゲームしてた。……その、ごめん」


 私がそれを謝るとヤヌスはちょっと驚いた顔をした。

 いや、まあそりゃそうだよな。まさか自分の誘いがゲームしたいからって理由で断られたなんて知ったら誰だって怒ると思う。


「なんだ、そうだったんだ。うん、別にいいよ。それくらい」


 あれ、怒らないの?


「え、お前怒らんの?、だって私、ゲームしたいからってお前の誘い、用事があるって嘘ついて断ったんだぞ?」

「うん。それで?」

「それでって、いや、普通は怒るとこだろう、そんなの聞いたら」


 少なくとも私が誘った側だったとしたら怒りはしないにしても少し悲しくはなる。


「うーん、そうだね。たしかにちょっと悲しかったけど」


 ほら、やっぱりそうだよ。え、けども何?


「でもアストレア、そこまでそのゲームに熱中してるんだなって思ったらむしろ喜ばしいことだと僕は思うよ」

「え、なんで?」

「だって、ゲームでもなんでも、熱中できる何かがあるってこと自体は悪いことじゃないでしょ?」


 ああ、それはその通りなんだけども。


「良かったじゃないか。だってアストレア今までずっと退屈そうな顔してたし。ああ、だからか。最近なんかちょっと変わったなと思ってたんだよね」

「え、ヤヌスも思ってたの?」

「うん。そうか、それはゲームの影響だったんだね」

「いや、まあ……たぶん」


 改めて人に言われるとちょっと恥ずかしいな、それ。

 あなたが変わったきっかけはなんですかという質問に、ゲームのおかげですって。

 別に悪くはないんだろうけどもね。ただちょっと、うん、やっぱりなんか恥ずかしいな。


「前よりもなんか明るくなったし、口数も多くなったと思うし、今こうして話してるのもそうだし」


 うん。それは私も気づいてはいた。


「それに前までのアストレアだったら、たぶん僕が今日の祭りに誘っても断ってたでしょ?」

「あーーーー、うん。そうだな」


 たしかにそう言われたらそうだ。前までの私だったら絶対に面倒くさがって断ってただろう。

 ああ、そうか。それだけでもうずいぶんと変わったな、私。


「なあ、前までの私と今の私だったら、お前はどっちがいいと思う?」

「断然今の方がいいと思うよ」

「……そっか」


 ヤヌスがそう言い切るってことはそうなんだろうな。

 うーん、それならこれからもゴッドワールド・オンラインはやっていってもいいんだろうけど。

 まあまだ私は全然飽きてないから元からやめるつもりもなかったが。

 でも、このままあのゲームを続けていけば私は、最終的にはどうなっちゃうのかな。

 きっと悪いようにはならないはずだ。だって、私は今……


「アストレア。もし良かったら来年も一緒にどうかな、その、夏祭り」

「ああ、来年もお前が家具職人見習いで私がニートだったらいいぞ」

「ええー、それはちょっと」


 ゲームの外の世界でも、十分楽しい時間を過ごせている。


というわけで夏祭りも終わって次回からは最後、第2階層編の総仕上げになります。

長かった。ほんとうに長かった。


残るは4つの住人クエスト(そのうち1つはボスクススト)をやって終わり。

かと思いきや最後の最後にあの人と決闘!?、とか書ければいいなと思ってます。

乞うご期待ください。


アストレア「うへぇー、この章まだ続くの?」


話数的には第1階層編よりもまだ少ないのですけどもこの調子だと超えそうです。

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