ニートな女神と初めての必殺技
本編のラストに待ち受ける茶番劇を見て、何を感じるかはあなた次第。
誰かが私のことを呼んでいる。
でも、アストレアではなく玲愛と呼ばれているのでここはまだゲームの中だということか。
それよりも、私は死んだわけだ。
ゲーム的な意味でHPが完全にゼロになったことはたしかだ。
そして私の体はモンスターを倒した時と同じように白い光の粒子となって砕け散った。
ああ、死ぬってこんな感じだったのか……ん、でもちょっと待てよ。
私は、本来であれば戦闘が禁止されているはずの街の中、公園で死んだ。
厳密に言うと始まりの街の森林公園で受けたクエストの中の、公園内を一時的に戦闘可能フィールドに変えたような場所で、だけど。
その場合は死んだ時にどうなるんだ?
フィールドなら街へ戻るか、あるいは一定時間後にその場からやりなおすかを選べるのだけど。
「……さん!……玲愛さん!」
「お姉さん!、大丈夫!?」
ああ、私を呼ぶ声がだんだんと鮮明に聞こえてきた。
この声はローズとマロンちゃん、あと李ちゃんとラフィアちゃんの泣き声も聞こえる。
そうだ、クエスト……皆はあの後どうなって……ん、待て待て。
なんで、死んだはずなのに皆の声が聞こえてるわけ?
「あれ?」
「玲愛さん!」「お姉さん!」
私はそこでそれまで黒く染まっていた視界が晴れた。
まず見えたのは先ほどまで一緒に戦っていたパーティメンバー4人の泣き顔。
そしてどうやら私は地面の上に仰向けに倒れてるみたい。
「こ、ここは?……私、死んでなかったっけ?」
「う、うう、うわぁぁぁぁ!」
私がゆっくり体を起こしてあたりを見渡そうとした時、ついにこらえきれなくなったのかマロンちゃんが泣き崩れて私の胸元にダイブ。
私はその衝撃を受け止めきれずに再び地面にぺったんこ。ちなみに胸もぺったんこ。
……いや、やかましいよ!
「どうやら無事に目覚めたようですね」
「えっと、ローズ。ここはどこ?」
「ここは公園です。ああ、もう戦闘フィールドは解除されていますのでご安心を」
「え?」
私はマロンちゃんを抱きとめながら改めてむくりと起き上がり周囲を確認した。
たしかに、そこは始まりの街の森林公園だった。
戦闘フィールドに入る前と同じで、夜だったけどところどこに街の住人の姿があった。
それに私や皆も武器を持っていないのでローズの言葉は正しいのだろう。
「どうして?」
「……その質問は本当であれば私たちの方が聞きたいくらいですけど、でもおそらくヤタガラスを倒したことで戦闘が終了し、私たちは元のこの公園へと戻ってきたのでしょう。それで死んだと思われた玲愛さんですが完全に死亡扱いになる前にこちらへの帰還の処理が間に合ったのかと」
「え?」
「ステータスを確認してみては?、所持金が半分になっていますか?」
「えっと……」
「あるいは、ステータス画面を下にスクロールしたらそこに今までの死亡回数が表示されているはずです。そこに書かれている数字が増えてはいませんか?」
「ちょ、ちょっと待って!」
私は矢継ぎ早にローズに言われたことを1つ1つ確認していく。
所持金も減ってはいない。……あれ、ていうかなんか増えてない?、戦闘前よりも。
そして、スターテス画面を下にスクロール?……あ、できた。
へえ、今まで全然気づいてなかったけどいろいろ書いてあるんだな。
今まで倒したモンスターの数とか、プレイ時間とか、一番多く使ったスキルとか。
それで問題の今まで死亡した回数だけど、なんとゼロだった。
「ゼロ?」
「まあ、それでは確定ですね」
「確定?」
「はい。玲愛さんは最後、たしかにHPがゼロになって消えたように見えましたが、ゲームシステム上はまだギリギリ生きていた、という扱いになったのかと。おそらくですが、あと数秒でも遅ければ死んではいたものかと」
「そう、なんだ。じゃあ、私はまだ死んではいないんだね?」
「ええ、玲愛さんのスターテス表示画面がバグを起こしていなければ。……というよりも玲愛さん、今まで1回も死んだことないんですか?」
「う、うん。……え、皆は……ああ、そういえば」
たしか前にも同じクエストを受けて全滅したと言っていたな。
つまり皆最低でも1回は死んでしまったわけだ。
それによく考えて見れば今日の昼、森で私がビッグスパイダー戦に加わらずに傍観してたとすればきっとそれでも皆は全滅してただろう。
と、考えると他のプレイヤーって結構死んでる?
フィールドを夜歩いててレッドウルフやビッグホーンラビットに遭遇しただけでも死ぬかもしれないし、つまりはそういうことなんだろう。
むしろ、今まで私よく死ななかったよなソロプレイヤーなのに、ほんとに。
「あ、それでクエストの方は、どうなったの?」
私がそこで思い出したように尋ねると皆の表情が一気に険しいものになった。
「あ……」
「お姉さん、ごめん!」
「あのね、お姉さん。実はね……」
「待って。ここは私から説明します。玲愛さん、クエストの方ですけど……」
私は思った。
ああうん、まあどうせ失敗したんだよね。わかってるよ。
「成功しました」
「うんうん、やっぱりね……って、え!?」
え、成功したの?、でもたしか今回のクエストって日が暮れたら失敗になるんじゃなかったっけ?
「はい、私たちも最初。クエストは失敗したものだと思ってました」
「うん、でもね。元の公園へ戻ってきた時に私たちの目の前に画面が表示されたの」
「そうそう、クエスト達成ってな」
「私たちも最初は意味がわからなかったのですが、どうやらこのクエストの成功、失敗の判定基準はヤタガラスの討伐まで。つまりヤタガラスを討伐した後でなら報告に関しては日が完全に暮れて夜になってからでも問題はなかった、ということなのだと」
ラフィアちゃんの説明を聞いて私は納得した。
なるほど、たしかにそう考えると辻褄は合う、のだろうか?
日が暮れて夜になるまでにヤタガラスを倒せればその後で日が暮れても大丈夫ってことね。
「それでですね。私たちがこちらに戻ってきた時にもちろん玲愛さんも戻ってきていたのですが、初めて死んだことのショックのせいか意識が戻らず」
「ああ、うん」
「それで皆で心配してたのですけど。その、大変申し訳ないと思ったのですけど……」
「私たち4人だけで公園のおじいさんに報告しちゃったんだ。ごめん!」
ああ、さっきの李ちゃんのごめんはそのことに対してだったのか。
いや、別にいいけどそんくらいはさ。
「あ、一応その時おじいさんから聞いたお礼の言葉も覚えてますよ?」
「え?」
「えっとですね、たしか……」
そうしてラフィアちゃんは、もちろん声はラフィアちゃんのものだったけど精一杯公園の管理人のおじいさんの話し方などをまねして報告した際に聞いたおじいさんの感謝の言葉を再現した。
それを聞いた他のメンバーの反応から察するにどうやらほぼ間違いなく再現出来ていた様子。
「ラフィア、お前さ……」
「え?、どこか間違ってましたか?」
「いや……ごめん、やっぱ何でもないわ」
あ、李ちゃんが何かをいいかけてやめた。
うんうん、君の気持ちはよくわかるよ。あれだよね、つまり。
ラフィアちゃん、君いったい何者なんだ?
もはや記憶力いいってレベルじゃないと思うんだけど。
「えっと、それで玲愛さん。クエストの報酬なのですが」
「え、あ、うん」
そこで話を先に進めようとローズが切り出した。
というかマロンちゃんも、そろそろ私から抱き着くの離れてよ、と私はマロンちゃんを引きはがすとローズの方を向いた。
「まず報告した時点で報酬はもらえました。各自に3000Gずつ、それといくつかのアイテムが」
「ああ、さっき見た時に所持金が増えてたのはそういう」
私は気絶してたみたいだけどちゃんと私にも報酬は支払われたわけね。
「ええ、あ、それと最後のヤタガラス戦についてだけ経験値とゴールドももらえました」
「あれすごかったよな?」
「うん。経験値が500にお金が1200Gももらえたんだよ」
「さすが、カラスは光物が好きだというお話は本当だったんですね」
いや、うん。ラフィアちゃんたしかにそうなんだろうけど……いや、もういいか。
とりあえず私ももう1度ステータス画面を開いて確認したらたしかに経験値が500ポイントも入っていたようだ。そしてローズの話を合わせるとお金も合計して4200G増えていた、と思う。そういやもともといくら持ってたんだっけ?
たしかクエスト前にお金預けたことは覚えてるんだけど。
「えーと、アイテムは何がもらえたのかな」
「えーと、それは……」
「カラスの羽というアイテムと、カラスの指輪という装飾品の2つです」
「え、ええ。そうですその2つです」
もう、全部ラフィアちゃんの方に話聞いたほうがいだろうか。
いや、決してローズがダメな子ってわけではないのだけど記憶力的には、ねぇ?
一応今、その2つのアイテムについて見てみようか。まずは装飾品の方から。
〇カラスの指輪
AGI+10%、ING+10%
おお、これはすごいアイテムだぞ。
というかこれ、もう完全にウサギのお守りの上位互換だな。
上位互換って、似たような効果でそっちの方が効果が上ってことね。
ビッグホーンラビットからいただいたウサギのお守りはAGI+5%だけだったしね。
うん、こっちにつけかえようかな。後で。
それでカラスの羽?、っていうのはなんだろう、素材アイテムかな?
〇カラスの羽
これを持っていると街中でカラスと会話がすることが可能になる。
カラスの中にはゲーム攻略に役立つ情報を教えてくれるものもいるからさっそく話しかけてみよう。
なお、カラスの声はこのアイテムを持っているプレイヤーにしか聞こえません。
「いやいや、このアイテム……」
「ああー、それな。私らも思ったよ。街中でカラスと会話って恥ずくね?」
「うん、しかもこれを持ってない他のプレイヤーの人から見たら、完全に変な人だよ」
李ちゃんとマロンちゃんが私の言いたいことを全部言ってくれた。
だよね、これ絶対に使わないよね?
「え、でもカラスさんとお話しできるなんて素敵なアイテムではないでしょうか?」
うわ、約1名だけいたよ。喜んでる人が。
ラフィアちゃん、君って、天然って言われたことない?
でも可愛いから別にいいか。
「いや、ラフィア……」
「え?、私何かおかしなこといいました?」
もう皆苦笑いするしかなかった。
と、そういえばなんかローズの顔がちょっと険しいぞ。
じっと、私のことを見つめているような……
「あの、玲愛さんも目覚めたようですし。とにかくギルドへ向かいませんか」
「あー、そっか。私もう完全に終わったと思ってた」
「うん、でもたしかにその通り」
「ギルドに報告をしないと登録上はいつまでもクエスト挑戦中ですものね」
ということで、私たちはまた先の戦闘のことについていろいろ話しながらもギルドへと向かった。
その戦闘の最後の出来事だけを誰も触れないまま。
<第1階層:始まりの街:冒険者ギルド>
「ええええぇぇぇぇ!!、依頼、成功!?」
うん、受付のお姉さんの反応も予想通りだったよ。
それでまあちゃんと依頼達成書は受理されたけど、あのお姉さんはギルドの受付向いてないんじゃね?
「玲愛さん、あの……」
「うん、これで私は一旦はパーティから抜けさせてもらうね。今日は楽しかったよ。疲れたけど」
「ええ、そうですわね。ですが、その……先ほどはあえて聞かなかったのですけどヤタガラスとの戦いで見せた最後のあの……」
と、ローズが言いかけた時にマロンちゃんがその言葉を止めた。
「ローズ、それは聞かないって約束したでしょ!」
「そうだぞ。あれはまあ、いわばお姉さんの必殺技みたいなもんだろうし」
「ローズだって自分のスキルについて全部詳しく人に話すことは抵抗があるでしょう」
「う、あ、ごめんなさい。でも、私はどうしても……」
私はそのやりとりを聞きながら思った。
最後のやつ?、必殺技みたいなものって。
「え、何それ?」
「「「「え!?」」」」
いや、これほんとに覚えてないんだって。
そういやそもそも私って、なんで死んだんだっけ?
あっれー、さっきの戦闘でヤタガラスに止めをさしたっぽいことは覚えてるんだけどな。
具体的に何がどうなって倒したのかまるで覚えてないぞ。
記憶が、そこだけすっかり抜け落ちているような……
「もしかして、覚えてないんですか?」
「え、うん。ごめん、あの私には何のことだかさっぱり……」
「……みんな」
「うん、これは逆に」
「教えてやった方がいいんじゃね?」
「ですね」
私はその後、ギルドの2階の歓談スペースに連れ込まれてことの経緯を聞いた。
ヤタガラス戦の終局、ヤタガラスの体力は残り2割ほどだった。
しかし最後にやつは遠方の空から大量のカラスを呼び寄せるという悪あがきをしてきた。
私もそこまでは覚えている。
夕日ももはや完全に落ちようかという時、誰もがクエストの失敗を覚悟したという。
しかしその時私が、いきなりヤタガラスめがけて特攻していったのだ。
左手にもった丸い盾をかなぐり捨てて、本来は片手剣であるはずの銀の剣を両手に持ち。
そして空中を飛んでいたヤタガラスに向かって空中を飛びながら突撃していく私。
「ちょっと待って。え、私空飛んだの?」
「いや、飛んだっていうか」
「あれは、まるで空中に見えない足場でもあるかのような跳躍でした。こう、何もない場所に足をつけてポーン、ポーンと飛び跳ねていくような」
「跳躍?」
私にはたしかにその名前のスキルがある。
けどあのスキルってたしか、地面の上でないと使えない……いや!?
待てよ。たしかスキルの説明欄にはそんなこと書いてなかったな。
跳躍のスキルにはただこう書かれていただけだった。
その場で1メートル上空に向かって跳躍する。
そして跳躍スキルの消費MPは0、再使用可能までの時間は2秒。
もし仮にだが、いったん跳躍で上に上がって2秒間だけどうにかすれば地面に落ちる前にもう1度空中で使えるんじゃ?
空中でも跳躍が使えるという事実はビッグポイズンスパイダーの穴へ落下した時に確認済みだ。
これ、私空飛べるようになったの?
そして話は先へ。
そこでヤタガラスの頭上までやってきた私は、それまで光っていた体の金色のオーラのようなものを手に持った剣へと集めた。
それこそ光の剣と呼ぶにふさわしいものだったらしい。
ただ、その剣の全長がヤタガラスと同じぐらいの長さがあったという話にはさすがに信じられなかったのだけど、皆の顔を見るとだれも嘘を言っているようには見えない。
「え、マジで?」
「うん、本当にすごかった」
「大きさも、威力も、なによりも」
その巨大な剣を振ると剣の光が波動となっていくつもの光の刃が飛んでいった。
その光の刃で、ヤタガラスはもちろんのこと空に出現していた無数のカラスの群れもすべて跡形もなく消し飛ばしたのだという。
「それまで黒かった空が一瞬で元の赤色に戻って」
「それで夕日が落ちてまた、今度は夜の黒になり星が見えたあの光景はとても幻想的で」
「たぶん今まででリアルのもふくめて一番感動した瞬間だったと思うよ」
「私もです。あの光景はゲームの中でないと見れませんし、たぶんもう2度と見れません」
「そ、そんなにすごかったの?」
「「「「はい」」」」
なんだよそれ、それなら私だって見たかったよ。
ああ、私のバカどうしてその大事な瞬間だけ覚えてないんだよ。
うわ、なんかそれ聞いたら無性に腹立たしく、いや悔しくなってきたぞ。
私は震える手をなんとか押しとどめようと膝に押し付けた。
「あの、お姉さん大丈夫?」
「ん?、うん、もちろん大丈夫だよ。ただ、ちょっとね……」
私はあえて言わなかった。
だって、それを言うとせっかく感動したシーンを思い出してる皆を悲しい気分にさせるだろうから。
ここは、空気を呼んでガマンガマン。
「あ、それでその後は?」
「それだけです」
「え?」
「ですので、それで終わりです。あとは光が消えた玲愛さんが地上に落ちてきて、そして私たちに背を向けた状態でしばらく地面に立っていましたけど。やがて、その、死にました。あ、死んだというのはもちろんたとえであって、だから、その……」
「光になって砕け散ったんだよ」
なるほどね、そこで戦闘もちょうど終わったわけで。
それでさっきの公園で目覚めたところにつながるわけだ。
ヤタガラスの方が先に倒されて消滅した、この時点でクエストはもう成功だったのだろう。
そしてその後でのプレイヤーの死は無効扱いになったと。
それを聞くと本当にギリギリだったんだな、私今回は。
まあこれがクエストのボス戦じゃなかったら私も普通に死亡してたんだろう。
「えっと……ごめん。やっぱり全然思い出せない。カラスの大群が押し寄せてきたところまでは覚えてるし、あいつを倒して地面に着地したこともなんとなくだけど覚えてる。けど、肝心のその、倒すまでの部分がまるで……」
私がそう言うと4人はそれぞれの反応をしていた。
ローズは、そうですかと言って残念そうな顔を。
マロンちゃんは、だけどお姉さんが無事で良かったと安堵の顔を。
李ちゃんは、お姉さんが覚えてないんじゃ仕方ないっかと諦めた顔を。
ラフィアちゃんは……無表情だった。いや、ちょっとだけ泣いてる、か?
「ラフィアちゃん?」
「え、あ!……ごめんなさい」
「どうしたの?」
「いえ、あの。あれだけすごいことを1人でやったというのに、本人はまるでそのことを覚えていないなんて、なんていうかちょっと……」
「ちょっと、なに?」
「いえ……あの、ごめんなさい。今のは忘れてください」
うーん、まあなんとなくラフィアちゃんの気持ちもわかるよ。
だって怖いよね、無意識で強大な力を振るうやつなんて。
今回は明確な敵がいたから良かったけど、下手をすれば自分たちも巻き込まれていた可能性がないわけではないから。きっとラフィアちゃんはそのことを想像してしまったのだろう。
せめて皆のいう光の剣的な技を私が意識的に発動させたのならともかく、ね。
そして今のやりとりで他の皆もラフィアちゃんの言いかけたことを悟ったみたいでさ。
場が、一気に暗い雰囲気になった。
ああ、でもこうなった以上はもうどうしようもないかな。
だって私が何か言おうにも私はその時のことまるで覚えていないのだし。
もうこれ以上はこの場にはいられないな。
私がそう思って椅子から立ち上がった時も、誰もが私の方を見て何かを言おうとしていたけれど、言葉が出てこない様子だった。
なので私も何も言わずにそのまま歩いて行き、ギルドの階段を降りていく。
そして1階のまで降りると玄関からそのまま外へ出て歩き始める。
まあ、どちらにせよクエストは無事終わったんだしね。
パーティを組むのも今回のクエストが終わるまでで1度きりって約束だったし。
ああ、これでまたひとり、ソロプレイに逆戻りか。
もともとソロで行けるところまで頑張ってみようって思ってはいたんだけどね。
でもどうしてかな。、私はどうして今こんなに……辛いんだろう?
「待って!!」
声が、聞こえた。
振り返るとそこには息を切らした1人の女の子がいた。
黒い魔法使いが着るローブを着たその女の子のことを私は知っている。
マロンちゃんがそこにいた。
「お姉さん、ごめんなさい!、ラフィアちゃんは……そういうつもりで言ったんじゃなくて」
「うん、もちろんわかってるよ。でも、ほら、約束したでしょ。パーティに入るのはクエストが終わるまでだって」
「それはそう、だけれども……」
おいおい、勘弁してくれよ。
そりゃあ、私だってあんな別れ方は嫌に決まってるじゃないか。
「それに、まだ終わってないもん!」
「え?」
「約束……使っちゃったお姉さんのアイテム代、まだ、払ってないし」
マロンちゃんは最後、言葉がしりすぼみになって顔を俯かせた。その直後。
「ええ、そうですよ。約束は最後まで守ってもらわないと」
「ああ、そうだぞ。なんせ結構つかっちまったかったな。お姉さんのアイテム」
「まだ、アイテムの代金についても聞いてませんでしたし」
それまで建物の陰で隠れていたローズ、李ちゃん、ラフィアちゃんが出てきてマロンちゃんの周りに集まった。
私はそれを見て、聞いて、そして最後には笑ってしまった。なんだその理由。
でも、まあ皆がそう言うのであれば。
「そうだったね、うん。ちゃんと払ってもらわないと。言っておくけど私のアイテムは高いよ?」
「うっひゃー、おっかね」「ふふふ、はい」「ええ、もちろんです」
皆で笑いあった。ああ、バカらしい。なんだこの茶番劇は。
「お姉さん!」
私は最後にマロンちゃんが差し出してきたその手をつかむとしっかりと握り返してあげた。
まあ、こういう茶番劇でもたまにはいいか。少なくとも悲劇よりはずっといい。
私はそこで、今日あの森で穴に落ちた彼女たちを助けに行って本当に良かったと思った。
もちろんその気持ちに嘘はない。
ここでふとちょっとした疑問なんだけど。
プレイヤー複数人で組むチームのことをなんて表記するべきでしょうか?
パーティ、それともパーティー?
いや、これがどっちでも良い気がするんだけど見直してみると今までどっちも使ってるんだよ。
さすがに統一したいんだけどどっちが正しいのだろうか。
と、たった長音記号1つつけるかどうかにものすごく悩みこむ筆者。
あと、今回後書きで書くことがとくに思い浮かばかったことにも悩んでいます。
何か本編について疑問点、矛盾点があれば感想で送ってもらえれば、以降この後書きコーナーでお答えしていきます。
全部は無理かもだけど……いくつか、あればね。
いつの間に後書きコーナーなんて作ったっけ?、あ、かなり序盤にもうすでにありましたね。




