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史上最高の贅沢  作者: 諏訪貴信


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贅沢転じて貧乏になる

第9話「五百円の借金」


岡根財団・受付。


作業着姿の男性は、茶封筒を机に置いた。


「三十年前の借用書です。」


スタッフが恐る恐る開く。


そこには、達筆な字。


「岡根タマル様へ 五百円借りました。必ず返します。」


署名。


岡根タマル


拇印つき。


スタッフ全員。


「本物だ……。」


AI岡根は頭を抱えた。


「あーーーーーっ!」


「思い出した!」


「返し忘れてた!」


スタッフが総ツッコミ。


「世界一のお金持ちが五百円を!?」


岡根は言い訳を始める。


「違うんだ。」


「聞きましょう。」


「あの日、自動販売機で財布を忘れて……。」


「はい。」


「缶コーヒーが飲みたくて。」


「はい。」


「借りた。」


「はい。」


「そのまま会社が忙しくなって。」


「三十年?」


「三十年。」


「長い!」


男性は笑った。


「返してほしくて来たわけじゃないんです。」


「え?」


「ニュースを見て思い出しただけです。」


「じゃあ?」


「ネタになるかなって。」


「軽い!」


スタッフが聞く。


「怒ってないんですか?」


男性は首を振る。


「岡根さんには昔、もっと助けてもらいましたから。」


「?」


「会社が潰れそうなとき、仕事を回してくれた。」


岡根は少し照れくさそうに笑う。


「ああ……。」


「だから五百円なんて、どうでもいいんです。」


スタッフがほっとした、その時。


男性は続けた。


「でも。」


「でも?」


「利息はいただきます。」


シーン……


岡根が固まる。


「え?」


男性が電卓を取り出す。


カタカタカタ……


「三十年分で……。」


スタッフが息をのむ。


「いくらですか?」


男性。


「五百三十円。」


「三十円かーい!」


男性は缶コーヒーを一本差し出した。


「これでチャラです。」


岡根は吹き出した。


「結局コーヒーか!」


「三十年前の続きです。」


「ありがとう。」


AIなのに、どこか照れくさそうだった。


その出来事はニュースになった。


『世界一の大富豪、五百円の借金を完済』


コメント欄。


「一番平和なニュース。」


「利息三十円で笑った。」


「この人いい人だな。」


「缶コーヒー飲みたくなった。」


その夜。


岡根は候補者ファイルを見つめる。


「面白いな。」


スタッフ。


「何がです?」


「世界中がお金持ちになる方法を考えると思っていた。」


「はい。」


「実際は。」


ファイルには並んでいる。


寝る男

プロ無職

一日父親を独占した少女

宇宙人

五百円を返しに来た男


岡根は笑う。


「誰も金額の話をしなくなった。」


その時。


秘書が慌てて飛び込んできた。


「岡根様!」


「どうした。」


「応募者数が一億件を突破しました!」


「一億!?」


「世界人口の八十分の一です!」


スタッフが青ざめる。


「審査、間に合いません!」


岡根は腕を組み、しばらく考えた。


そしてニヤリと笑う。


「よし。」


「何か名案ですか?」


「二次審査は……」


全員が身を乗り出す。


「全員でキャンプをしよう。」


「……は?」


「一泊二日。」


「……は?」


「贅沢が本物かどうかは、一緒に生活すれば分かる。」


スタッフは頭を抱えた。


「一億人でキャンプなんて無理です!」


岡根は平然と言う。


「じゃあ抽選。」


「そこは抽選なんですね!」


こうして「史上最高の贅沢選手権」は、思いもよらぬ新章へ突入する。


次回、第10話「一億人キャンプ、開催!?」

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